「6月の新連載」安楽死がテーマのSF、懐の深い“グルメもの“、野球と思いきや演劇

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2025年07月31日 13:00  コミックナタリー

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コミックナタリー

コミックナタリー編集部員が振り返る「6月の新連載」
雑誌やWeb、アプリなどでスタートした新連載を、毎月振り返る「今月の新連載」がスタート。版元ごとに担当者が決まっているコミックナタリー編集部では、ほぼ毎日のように始まる膨大な数の新連載を、毎日読んで記事を書き続けてきた。そんな部員たちが、その月に面白かった作品や気になった作品、そのほか最新のマンガ業界のトピックなどを語り合う企画だ。第1回は2025年6月にスタートした新連載を振り返る。

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文 / コミックナタリー編集部

■ 座談会に参加した編集部員
いぬ :好きな野球マンガは「H2」と「ドラフトキング」。うさぎ:今月紙で買った本に「児玉まりあ文学集成」4巻。くま:影響を受けたマンガは「忍ペンまん丸」。くろねこ:最近続きを楽しみにしているマンガは「アマチュアビジランテ」。ぞう:好きなマンガは「よふかしのうた」と「潮が舞い子が舞い」。とり:最近追いはじめたマンガは「常人仮面」。りす:「くちびるから散弾銃」ではミヤちゃん派。■ 「安楽死」をテーマにしたSF新連載「終末パートナー」
うさぎ  今月の新連載の中だと、月刊コミックビーム(KADOKAWA)で始まった「終末パートナー」がよかったです。作者の北村みなみさんは、2024年12月に「あさってのニュース」という短編集を出していて、メタバース、昆虫食、ディープクフェイク、マイクロプラスチックとかをテーマにしたSFで面白かったんですけど、全部5ページ前後の短編だったので、長編でしっかり読めるのがまずうれしくて。少し先の未来の話で、かつ「安楽死」という現実にもあるテーマを扱っているので、1話目から「お、こう来たか」と楽しく読みました。

りす  北村さんって実在する問題を近未来の話とかSFに落とし込んで、現実と地続きに描いていくのがうまいですよね。そういう作品を描きたいっていう意思が伝わってくる。安楽死をしたい人とか、その周りにいる人の感情を描くのは重いけど、興味深いテーマだなと思いました。


くま 私もとてもいいマンガだなと思いました。もともと個人的に安楽死の制度に関心があって。日本ではその制度がないので、安楽死を選ぶ人は海外に行くわけですけど、日本も導入すべきかどうか、ドキュメンタリー番組などを観て考えることがあるんですよ。でも安楽死を描くとなると、安楽死する当事者のことを想像しがちだけど、看取る側の視点を描く、というのが新鮮だなと思いました。

ぞう 医療マンガで医者の倫理観を問う展開があると思うんですが、そういうテーマの延長線上にある作品なのかなと思いました。安楽死が合法化された近未来で生死に対する倫理観を問う設定が興味深いし、もし安楽死が日本でも現実的な選択肢になったときのことも想像できますよね。作中の描写から死を肯定も否定もしないというスタンスは感じるので、どういう答えを出してくのか気になります。賛否ありそうなテーマですが、丁寧にじっくり、北村さんが描きたいように描いてほしいですね。

りす 北村さん、コミックビームの作者コメントに「最後まで悩みながら描き切りたいです」と書いていて。作者も考えながら描ける、テーマに向き合う時間があるのもマンガ連載のいいところですよね。

■ どんな題材と合わせてもマンガにできる、“グルメもの”の懐の深さ
くま 「終末パートナー」と同じくいいなと思ったのが、 ビッグコミックオリジナル増刊号(小学館)で始まった「イヌごはんボクごはん」です。現実でも裁判官や検察官、弁護士にスポットが当たることは多いけど、書記官は話題になりづらいし、マンガでもあまり見たことがないなと思っていて。だからそこにスポットを当てた作品が出てきたのが興味深かったです。

いぬ  僕はグルメマンガという題材の懐の広さを感じましたね。グルメって本当にどんな題材と合わせても面白くマンガにできるなって思いました。

くろねこ グルメってだけで手に取る人が増えるのかも。動物もそうですけど。

くま 「孤独のグルメ」もみんな好きだもんなあ。


うさぎ 僕はグルメものというより、キャンプものの流れで受け取りました。キャンプの描写を描くうえで、焚き火にあたったり、料理を食べたりするのは当然あるから。このマンガは着眼点が面白いですよね。ニュースでひどい事件を見て心を痛めたり、SNSで中傷発言を見かけてダメージを受けてしまったりする人っているじゃないですか。この主人公は書記官だけど、裁判に参加する中でいろいろな事件に触れ、モヤモヤを貯め込んでいる。それを、ソロキャンプをする中で咀嚼・消化していくというのがすごく上手に描かれていて、静かな共感を覚えました。

くま 主人公の「裁判官も検察官も弁護士もそれぞれ意見を言う。だけど自分は聞くだけだ。それはとても辛いことだ。なぜならその言葉は体の中に沈殿していくから」というモノローグがすごく印象的で。その沈殿していった言葉や考えを解放するために、家を出て犬とご飯を食べに行くんじゃないかなと。食べることは生きることだから、事件とご飯、その題材の組み合わせもいいなと思いました。

くろねこ 同じくグルメもので「学食ガール」も気になった作品として挙がってました。「はたらく細胞」のコミカライズを担当していた杉本萌さんのオリジナル作品なんですが、学食をアレンジして食べる、ちょっと変わった女の子のお話ですね。登場キャラクターがかわいくて、グルメものというか、普通に学園ものとしても成立しそうだなって思いました。


とり どの子もキャラが立ってて面白かったです。特に文句を言いながらも主人公の女の子からレシピを教えてもらっていた子が好きでした。ああいう子、めっちゃかわいい。

りす そのギャルっぽい子に嫌われてるのに、自分のやり方でパワーバランスや関係性を変えちゃう主人公のクセ者感がよかった。ちなみにグルメマンガってよくレシピが書いてありますけど、自分で作る人います?

いぬ 僕は作りますよ。レシピ本とか出る作品もありますけど、そういうのもよく買います。

うさぎ うちの妻も「花のズボラ飯」のレシピを真似して作ってました。だから好きかもしれないですね、こういう作品。

■ 野球マンガ、かと思いきや演劇マンガ
くろねこ 「ゲキドウ」も続きが気になる新連載でした。最初は野球マンガなのかなと思って読み始めたら、演劇マンガでしたね。

くま こういう、もともとは野球とかサッカーのエースで、怪我だったりなんらかの挫折で文化部に転向する作品、けっこう多い気がします。

いぬ 「ゲキドウ」の主人公はエースではないみたいですけどね。なんとかレギュラーにはなれた、くらいの立ち位置。


うさぎ みんなまだ第1話しか読んでないですよね? 僕、引き込まれて続きも読んだんですが、第2話には野球少年がなぜ挫折してしまったのか描いてありました。気になったらぜひ2話まで読んでください。演劇部側の2人は天才肌キャラで、ややマンガ的テンプレっぽいところもありますが、魅力的に描かれていますよね。

くろねこ さっきグルメマンガの需要の話もありましたけど、スポーツマンガも安定して人気ありますよね。最近のスポーツマンガの傾向ってありますか?

いぬ 僕は野球マンガが好きなんですが、スカウトをテーマにした「ドラフトキング」とか、ビールの売り子や球場スタッフが主軸の「ボールパークでつかまえて!」とか、それこそ球場グルメと野球をかけ合わせた「球場三色」「野球場でいただきます」みたいに、選手以外を描く作品も多いですよね。サッカーマンガが好きなぞうさんはどうですか?

ぞう サッカーも同じですね。監督の視点を取り入れた「GIANT KILLING」とか。「アオアシ」も王道なサッカーマンガに見えますけど、主人公のポジションはDFなので。「ハイキュー!!」のような王道のスポーツマンガをやるのは、なかなか難しそう。

くろねこ 確かに……。「ハイキュー!!」といえば、最近はジャンプではどんなスポーツマンガあるんですか?

いぬ 6月、7月で4本の新連載が始まったんですが、うち3本がスポーツものなんですよね。野球の「ハルカゼマウンド」、駅伝の「エキデンブロス」、“闇卓球”の「ピングポング」。

くろねこ “闇卓球”、気になる。

いぬ まあ「ピングポング」は7月スタートの新連載なので、話すなら次回ですね。

■ ハイファンタジーを描くハードル上がってる?
うさぎ サンデーうぇぶりで始まった「アップルエイジ」は予告イラストを見たときから「好きなやつでは?」と思っていて、期待して読んだらやっぱり好きなやつだった(笑)。石黒正数とか芦奈野ひとしとか……ちょっとメイドとロボットに引っ張られているかもしれませんが、そういう作家の雰囲気が好きな人は一定数いる気がしますし、きっと気に入るんじゃないかな。第1話のラスト、ちょっと意外でしたけど、どう話が転がっていってもこの雰囲気なら面白く読めそう。

ぞう 復讐ものでコンビを組む話はたまに見ますけど、幽霊とメイドのロボットという組み合わせが面白いなと。なんでメイドには幽霊が見えてるのかとか、メイドが捨てられたのには何かしら事情あったのか。ロボットが権利を求めるデモのシーンが描かれてたりとか、いろいろまだ謎が多そうですよね。あと幽霊もメイドも世界の平和のために捨てられたしまった側らしいので、社会と個人、個人の人権みたいな大きなテーマをどう料理していくんだろうとワクワクしてます。

くろねこ 私も割と好きなんですけど、1話目からけっこう情報量が多いので腰を据えてじっくり読みたい作品ですね。世界観を作り込むSFだと仕方ない部分もあるのかなと思うんですが……。最近はサクサク読める手軽さも求められるので、ハイファンタジーを描くハードルは上がってるのかなって思います。

いぬ すごく個人的な話なんですが、昔は世界観を作り込んだハイファンタジーってすごく好きだったんですが、最近は現実世界の要素もあるローファンタジーの作品をたくさん読むようになってきたんですよね。歳の問題かな?

くろねこ 最近売れてるファンタジー作品も転生モノが多いですし。転生モノは主人公が現実の人間だから、読みやすいんでしょうね。

りす なるほど。世界観はハイファンタジーだけど、主人公が現実から転生してるから。

くろねこ そうそう。世界観をそこまで理解できなくても、主人公目線で楽しめるのかなって思います。

りす 「アップルエイジ」は、第1話の扉に「心を辿るSF紀行譚」って書いてありますよね。僕は復讐劇としてよりも、2人の心の問題みたいなのを解決していく話になるのを期待しています。幽霊の子は早く復讐しに行きたいのに、メイドの子が余計な問題に首を突っ込んだり、ロードムービー的に進んでいって、細かい話が積み上がっていくような展開を想像したり。

うさぎ そういう意味だと、キャラクターの関係性が好きになれたら、読みやすい作品かもしれないですね。

くろねこ 6月の新連載でピックアップされたのはこんなところでしょうか。ほかに気になった作品がある人いますか?

ぞう 僕は「マダム表裏の恋愛サロン」を推したいです。作者の花束葬式さんはこれまで百合やBLだったり、未成年と成人の恋愛みたいな難しいテーマの恋愛マンガを描いてきた方なんですが、こんなポップな恋愛マンガも描くんだなとギャップを感じてます。コメディとしても面白いし、この作品で初めて花束さんのことを知った人がどう読むのかは気になります。

とり そう言われると、過去作が気になりますね。

うさぎ 「マダム表裏の恋愛サロン」面白いし、確かに過去作を読んでみたくなった。ズバッと気持ちいい感じで描くなあと思ったし。

ぞう ぜひこの作品を入口にしてほしいです。この新作が一番読みやすいと思いますし、他作品も全部COMIC FUZで読めるので。

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