
「血管肉腫って、こんなにも腫瘍の成長や転移が早いのかと驚きました」
そう話す飼い主さん(@ponz_puu)は2025年5月、愛猫ぽんずちゃんを看取った。ぽんずちゃんは、17歳で血管肉腫に。腫瘍の摘出手術を受けたが、1ヶ月も経たないうちに転移が見られ、虹の橋へ旅立った。
ミックス猫の命の値段は
2007年、飼い主さんはペットショップにいた生後8週ほどのぽんずちゃんが気になった。ミックスのぽんずちゃんは兄弟の中でひとりだけ家族が決まっておらず、命の値段は1万円。飼い主さんは家族に迎えたいと思った。
お迎え当日はテレビの後ろへ隠れたが、飼い主さんが眠ると布団へ来て、首と肩の隙間に体を預け、スヤスヤ。翌日からは隠れなくなり、3日目には太ももの上で寝てくれるようになった。
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「ツンデレで、自分のタイミングや好きじゃないところを触られると、すぐにシャーと怒る。でも、その後はすぐ膝へ来て、甘えた声で何度もお喋りするような子でした」
ぽんずちゃんは、飼い主さんの心を察する子でもあったそう。泣いていると近くへ来て、「大丈夫?」と言うかのように鳴いてくれた。
2歳の頃には、ハチワレ猫ぷーくんが家族の仲間入り。ぽんずちゃんは初め威嚇をし、距離を取っていたが、徐々に慣れてくれたそうだ。
「繊細なところもあるので一緒に寝ることは稀でしたが、一定の距離を置きつつも、たまに毛づくろいをしてあげていました」
ぷーくんが家族になってから、飼い主さんはぽんずちゃんのかわいさを、さらに知ることとなる。例えば、ぽんずちゃんはご飯を先に貰っても、すぐにぷーくんの器をチェック。自分よりいいご飯をもらっていないか確認していた。
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「甘えている時にぷーが近くへ来ると、怒って離れてしまうことも。気難しい女の子って感じで、とてもかわいく愛おしかったです」
脾臓に4cmの腫瘍が…健康優良児だった愛猫に起きた“突然の異変”
ぽんずちゃんは大きな病気にかかることなく、シニアに。だが、17歳の頃、異変が…。2025年3月31日、いつものようにお皿の前でご飯を待つことなく、フードを食べようとしない姿が気になった。
そこで、飼い主さんはウェットフードを購入。ドライフードに乗せると、ぽんずちゃんは食べくれ、安堵した。
だが、4月3日、再びご飯を食べなくなったため、かかりつけ医へ。貧血が見られ、エコー検査では脾臓に4cmほどの腫瘍があることが分かった。
翌日、腫瘍に針を刺して細胞を取る検査を行うも腫瘍からの出血が多く、検査結果が出るには1週間ほどかかると言われたそう。もし、悪性腫瘍だった場合は年齢的なリスクを考慮して、緩和ケアにしよう。飼い主さんは、パートナーとそう話し合った。
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検査結果が出たのは、4月15日。腫瘍からの出血が多かったため、「悪性腫瘍の疑いがある」との結果だった。
飼い主さんは翌日、セカンドオピニオン先の病院の往診時に、検査結果を見せたそう。すると、獣医師から思わぬ助言があった。「今の段階では別の病気の可能性もあるし、転移している様子はないから、脾臓の摘出で貧血が改善すれば元気になる可能性もある」
そう言われ、緩和ケア一択だった心境に変化が。脾臓の摘出手術に同意しようと思えた。
脾臓を摘出するも腫瘍が転移…
ぽんずに限って、死んでしまうことはないだろう。きっと治る。そう思いつつ、飼い主さんは悪性腫瘍について調べ始めた。
その中で抱いたのは、血管肉腫でなければ治療できるかもしれないという希望。血管肉腫とは、血管にできる悪性腫瘍だ。猫の発症は稀で不明なことも多いが、転移しやすい病気と考えられている。
手術日の4月18日。4cmほどと言われていた腫瘍は実際に摘出すると、女性の拳2つ以上ほどの大きさだった。
「ぽんずは貧血と炎症以外は正常だったからか、腫瘍の成長スピードも早かったのかもしれません」
術後、細胞診断の結果を聞いた時、心にあった希望は消えた。獣医師から、血管肉腫と告げられたからだ。
「心の中で静かに火が消えていくような感覚がしました。表面上は冷静でしたが、内側では診断結果を飲み込めませんでした」
4人での“家族写真”を撮った後に旅立った愛情深い愛猫
手術時のCT検査で、ぽんずちゃんはすでに肺や腹腔内に腫瘍が転移していることが分かった。脾臓の摘出手術は無事成功し、4日後には退院できたが、吐く頻度が多くなり、4月28日に病院へ。
「検査の結果、貧血や炎症は改善されていましたが、肝臓の数値が上がっていました」
副作用の少ない飲み薬タイプの抗がん剤にしよう。そう、この先の治療法も考えていたが、5月3日、ぽんずちゃんは17年間のニャン生に幕を閉じた。
その日、飼い主さんは初めて家族写真を撮影。穏やかな1日を過ごしていたが、夜にぽんずちゃんは急変した。
「床に横たわる姿を見た時、今日でお別れなんだと悟りました。呼吸は浅く、横たわっては立ち上がり、よろよろと歩こうとしては、また横たわって…を何度も繰り返しました」
その後、呼吸は深くなり、瞳孔が開いて一点を見つめるように。20分ほどそうした姿のぽんずちゃんに飼い主さんは「もう無理しなくてもいいよ。頑張らなくていいんだよ」と伝えた。
「先生からは、肝臓への転移が原因だった可能性が高いと言われました。最期は肝機能不全のような状態で意識はなかったと思うから、苦しんではいないだろうと言っていただけた。横たわっては立ち上がろうとしていたのは、きっとぽんずが必死に意識を保とうと闘ってくれていたからだと思っています」
ペットロス後に募った「愛猫に恥じないように生きたい」の想い
ぽんずは自分の命が終わることを悟り、家族に挨拶していたような気がする。飼い主さんは“最期の前”を振り返り、そう語る。
「動くのも辛いはずなのに、パートナーの横で寝たり、ぷーの近くで寝て奇妙な顔をされたり…。私には亡くなる前日、肩と首の隙間に顔を埋めてきてくれて。お迎え初日を思い出し、ぽんずも覚えててくれたのかなと思いました」
愛猫を失った後、飼い主は深い悲しみと向き合わねばならないものだ。だが、飼い主さんは悲しさより、愛猫が教えてくれたことを忘れずに生きていきたいという気持ちのほうが強いという。
そして、最期に立ち会えたからこそ、愛猫に恥じないように生きていこうと思うようにもなった。
「私が前向きでいられる一番の理由は、ぽんずの四十九日に入籍した夫と、ぷーの存在が大きい。2人に支えられて生きている。ひとりでこっそり泣くことはありますが、毎日ぽんずの写真に話しかけたり、楽しかった思い出を夫と話したりしています」
なお、飼い主さんは、ぽんずちゃんの闘病を通してセカンドオピニオンの大切さを痛感したという。飲み薬の抗がん剤があると知れたり、往診時に前向きな言葉を貰ったことで手術に踏み切れて少しでも長くぽんずちゃんと過ごせたりしたからだ。
「宝物のような時間でした。お世話させてくれたり、一緒にいられることは特別なことなんだと気づけもしました」
いつか、生まれ変わって会いに来てくれるかもしれない。そう思いながら、飼い主さんはこれからも思い出を語り続け、ぽんずちゃんを愛でていく。
自分の存在が永遠に、心の中に残っている…。天国のぽんずちゃんはきっと、そんな嬉しさを噛みしめ、衣替えの準備をしているはずだ。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)