写真はイメージです 普段は温厚な人柄なのにSNSでは攻撃的な人格になる。そんな“ネット弁慶”タイプの人が世にはいる。この手合いと交際してしまうと、厄介な目に遭ってしまうのも想像に難くない。
メーカーで技術職をしている相田浩介さん(仮名・28歳)は、交際相手の本性がわからなくなり、苦悩した経験があるという。
◆好きなアニメに理解のある彼女ができた
「社会人3年目の頃に交際していた彼女の話です。自分は女性に対して気軽にコミュニケーションを取れるようなタイプではなく、ほとんど初めての交際に近い状態でした。
一応、大学生時代にも彼女がいたことはあったんですけどね。当時は数カ月、形式的に彼氏・彼女の肩書きを得ただけで、お付き合いらしいことはなにもしなかったので……」
彼女との出会いはマッチングアプリだった。ただ、まさか自分が交際できるとは思わず、見物気分で始めてみただけだったとか。
「自分は某ロボット系のアニメが好きなんですが、そうした趣味を隠すことなくプロフィールに書いていたんです。女性ウケが悪いことは重々わかっていましたが、どうせ上手くいくはずもないしと投げやり半分なら、わざわざ取り繕う必要もないよな、と。でも、そんな自分に興味を持ってくれた女性がいたんです」
◆おおむね好評に思えたが…
その女性とは何度か会うことになった。
「彼女はアニメを全然知らないのに、自分の話を熱心に聞いてくれて『おもしろそうですね』と返してくれるんです。その次に会ったときには、前に話題に出した作品をちゃんと観てくれていて……。うれしかったですし、話も盛り上がりましたよ。そうして何度か会ううちに、付き合うことになったんです」
初めて彼女を家に招待したときはかなり緊張したと語る。
「自宅の間取りは2DK。うち1室は趣味の部屋にしていて、自作したプラモデルなどを飾っているんです。そんな“ザ・オタク部屋”を紹介しても、彼女はプラモデル一つひとつに『すごい』とか『かっこいい』とか褒めてくれるばかりか、熱心に写真まで撮って楽しげにしてくれていました」
◆なぜか友人に彼女のことをつっこまれる
趣味に理解ある彼女との仲は順調そのものだった。
「アニメ関連のイベントなどにも一緒に参加してくれて……自分の好きなことで一緒に時間を過ごせることが本当にうれしかったです。ただ、彼女が出来たことはごく限られた友人にしか話していませんでした。趣味で繋がっている仲間とは、リアルな恋愛関連の話になることはほとんどなく、どこか気恥ずかしさがあったんです」
しかし、友人のひとりから妙な質問を突如された相田さん。
「交際していることを知らないはずの友人から、『おまえ、彼女いるのか?』と言われたことがあったんです。とっさに恥ずかしさから『いない』と答えてしまったんですが、なぜ知っているんだろうと不思議に思いました」
その後、正直に言わなかったことを後悔したという。
「別に悪いことをしているわけではないので、隠す必要なんてなかったんです。なぜ言わなかったんだろうと後悔するようになりました。それで、その友人には彼女がいることを打ち明けたのですが……。話しているうちに、友人の顔がどんどん青ざめていったんです」
◆「自分の部屋を撮った写真」がSNSにアップされていた
どうしたのか訊ねると、友人から驚くべき事実を聞くこととなった。
「しばらく押し黙ったと思うと、『気を悪くしたら悪いが……その彼女ヤバいかもしれん』と、絞り出すように言うんです。どういうことか聞いてみると、自分のプラモデル作品をアップしている、女性らしきSNSアカウントを見つけたそうで。どう見ても僕のアカウントじゃないのに、僕の部屋で僕の作品が撮影されているから、変だなと注視したらしいんです」
ただの転載では、と考えた相田さんだったが、続く友人の言葉に絶句する。
「写真に添えられた文章が、『金と時間の無駄すぎる』『部屋にある全てのプラモデルの話を聞くのに1時間12分。苦行以外の何物でもない」などの、完全なる悪口で。自作捏造系ではなかったようなんです」
やはり、相田さんの彼女のアカウントなのだろうか?
「なんでもその投稿はすぐに削除されたらしく、状況証拠的には間違いないんですけど、それ以上の確証はなくて。友人の推測では、おそらく裏アカがあり、仲間内で限定的につぶやくはずのものを間違えて本アカで投稿してしまったのではないか、とのことでした」
聞くのは怖かったが、相田さんは彼女に確認することにした。
◆別れたあとに、例の裏アカをのぞいてみたら…
「彼女は最初、そんな投稿はしていないと言いましたが、友人が撮っていたスクショを見せると白状しました。友人の予想通り、裏アカで自分の趣味を馬鹿にする投稿を行っていたんです。
なぜそんなことをしたのか聞くと『本心でそういうことを書きたかったわけじゃないの。友人にウケがいいからやっていただけ』とのことでした……」
お粗末な言い訳であれど、実際のデートでは、散々自分の趣味にたしかに付き合ってきてくれている——。悩みに悩み抜いてから、別れを切り出したという相田さん。
「別れ話をしたところ、『あなたの前で話していたことが本当だから。本心であなたのことを馬鹿になんてするはずない』と言われました。ですが、彼女のことを信じきれず……別れを押し通しました」
その後、例のアカウントを相田さんが気まぐれに覗くと、信じがたい言葉が羅列されていた。
「ご丁寧にも本アカで、『稼ぎがいいから付き合ってたけど、1ミリも興味がないイベントに連れ回された』などと、自分の批判をするようになっていたんです。挙句『付き合ってみたけど生理的に無理だったから別れた』と、さも自分から振ったようなことまで書いてあって、正直ショックでした……。でも、時間が経つにつれ、本心がどうであったところで、人を貶めて見えや虚勢を張ろうとするような人間とは、別れて正解だったと思うようになりました」
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誰しも多少のペルソナはTPOに応じて使い分けているもの。されど、「馬脚をあらわした」と思われてしまうような裏の顔を、受け容れてくれる人は滅多といないものだろう。
<TEXT/和泉太郎>
【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め