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8月に入り、いよいよ暑さ対策も本格化するシーズンに入った。日本生まれのサポーター専業ブランド「MEDIAID(メディエイド)」を展開する、日本シグマックスが今年7月に実施した調査によれば、暑さによる仕事の効率への影響があると応えた人は81.3%にも上る。
【写真を見る】16万円の「ガチ冷却ベスト」の実機をじっくり見る(全18枚)
具体的には、「集中力や判断力の低下」がトップで、「暑さによって不快感を覚える」が2位となっている。まあそれはそうだろう。だが仕事中の体調不良や欠勤など、より深刻な問題も発生している。
これに対して、会社への暑さ対策は、十分実施していると感じている人は約22%にすぎず、半数は不十分だと感じ、1/4は全く実施していないという状況だ。そこで仕方なく自己負担へ走るわけだが、その割合は約63%であり、会社の対策が不十分と感じた約78%に足りていない。つまり何の対策もされていない、していないという人も一定数いるという事になる。
会社が行っている対策としては、エアコンやスポットエアコンの設置が上位に来るが、これはどちらかというと整備である。一方個人に向けた対策としては、ファン付きウェアや飲料、食品の支給が上位となっている。
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一方自己負担で実施した対策としては、涼しい下着によりインナーや汗拭きシート、飲料の購入など、比較的安価にできる方法が上位となっている。また自己負担で1万円以上投資した人では、ファン付きウェアや身体冷却服など、ウェアラブルな物理装置が上位に入ってくる。
本連載で取り上げているソニーサーモのREON Pocketや、シフトールのChillerXといった製品も、1万円以上の個人向け暑さ対策ギアということになるだろう。
一方でBtoBの世界においても、ペルチェ水冷ベストが販売されている。それがこのアンケートを実施した日本シグマックスのMEIDAID「アイシングギア ベスト2」である。屋外作業でエアコン設置ができない、粉塵や揮発性塗料などがあり空調服が使えないといった環境では、ペルチェ水冷ベストは有効な選択肢である。
価格は直販サイトで約16万円とかなり高価だが、そもそも個人向けではなく、会社で導入するタイプの商品なので、普通はなかなか試す機会がない。だが今回はこのアイシングギア ベスト2の実機をお借りすることができたので、どういうものなのか試してみたい。
●現場ニーズから生まれた、ベストと冷却別体設計
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日本シグマックスは、元々医療用ギブスやサポーターなどの大手だ。筆者も以前腰痛で整形外科を受診したときに、同社製の腰痛サポーターを処方して貰ったことがある。
こうした技術を生かして、2016年に一般向けウエルネス商品ブランド「MEDIAID」を立ち上げた。薬局のサポーター売り場でロゴをよく見かけるはずである。
ペルチェ空冷ベストとは、電圧をかけると温度が下がるペルチェ素子を使い、それで水を冷やしてウェア内をポンプで循環させるという仕組みだ。以前から単純にタンクの水を循環させるだけの水冷ベストは存在したが、水を冷やす機構がないため、一定時間経つと体温に近くなり、冷えを感じなくなる。また氷水などを使っても、氷が溶けるまでの命であり、時間的にそれほどは持たない。
こうした問題を解決するために、23年に世界で初めて、日本シグマックスがペルチェ素子を使った水冷循環装置である、初代「アイシングギア ベスト」を開発した。
薄いシート状になった冷却パッドの中を、タンクなしで水を循環させるというところに特許技術がある。多くの水冷ベストは、冷却シートの中を細かいチューブが走る構造になっているが、アイシングギア ベストでは「面」の中を循環している。
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これには元々同社が、医療機器として冷却療法装置「アイシングシステム」を開発していたという経緯がある。これはケガや手術後の患部を冷却して回復を早めるという装置で、冷却パッドは関節部などどこにでもフィットするよう設計されている。初号機は1997年に登場しており、23年には新モデルが出ているという、今なお医療の最前線で活躍する装置だ。この装置も、タンクレスではないものの、特殊冷却水をペルチェで冷やして循環させるという構造をとっている。つまり、ペルチェ水冷で人体を冷やす元祖がこれ、ということになる。
「アイシングギア ベスト」の特徴は、制服を着ることを前提とした設計になっていることだ。前作は制服の下にベストを装着し、制服を着て、その上着の下からお尻の方に冷却装置部を垂らすといった構造だった。
だが、ツナギの制服で装着できないという声が上がってきた。確かに自動車関係の工場では、ツナギの制服はよくある。そこで25年5月にリリースしたアイシングギア ベスト2では、ツナギの制服でも装着できるように、冷却機構部を別体にした。水冷用のパイプが通る穴さえあれば、装着できる。
まずインナーとも言える冷却部から見ていこう。内側に循環シートを配したベスト状になっており、ベスト自体は伸縮性のある素材でできている。このあたりは同社が長年取り組んでいるサポーターなどの技術が生きている。最初にファスナーを閉めるときは若干きつめの気がするが、ベスト全体で密着してくるので、ベルトで留めている感が少ない。
ここから水道水が通るパイプが伸びている。先端は着脱可能なジョイントになっており、コネクタ内に弁があるため、中の水が流れてくるようなことはない。
冷却装置部は別のベストになっている。つまり冷却用を中に着たあと制服を着て、さらにその上に冷却装置部のベストを着用するという、サンドイッチ構造になる。
冷却ユニットはブランドロゴが入った専用設計で、裏面から吸気、表面排気となっている。手前にヒートシンク見えるが、その奥に大型ファンがある。ペルチェ素子と水冷却部分はその脇にあり、ヒートパイプで接続されている。
電源は、冷却ユニットの裏面にUSB-Cのケーブルを挿して、付属バッテリーと接続する。付属バッテリーは5万6000mAhで、最大出力がPD 100Wとなっている。これで約5時間駆動できる。バッテリーはPD 65W以上であれば、汎用品でも代用できる。
興味深いのは、電源の入切だ。USB延長ケーブルとUSBケーブルを直接抜き差しするだけというシンプルさである。電源スイッチを設けなかったのは、開発時間の関係ということもあったが、実際にスイッチを付けてしまうと、バッテリー側の仕様によってはバッテリー側の電源もいちいちONにしなければならないケースがあるということで、ケーブルの直接抜き差しとした。
ある意味大胆な方法だが、現場作業者によっては厚手のグローブを装着している場合もあり、スイッチが押せない可能性もある。またスイッチが壊れたら製品全体が使用不能になってしまうというリスクがあるが、ケーブルの抜き差しならグローブをしていても可能だし、ケーブルは断線したら交換すればよい。シンプルながら十分、理に適った方法だ。
●実際に使用してみた
使用前に、まずはベスト内に水を入れるという作業になる。200mlぐらいの水道水の入ったカップを用意しておいて、パイプの途中に吸い込み・排出用のパイプを繋ぎこむ。それらの先端を、水の入ったカップに入れておく。
電源を入れて水を吸い込み、排出側パイプから出てくれば、水が循環して1周したことになる。そこで電源を抜いて停止し、吸い込み・排出用のパイプを外して全体がループになるようパイプをつなぎ直せばOKだ。
いつものように、農作業時に使用してみた。装着は、ベストを2回着なければならないので、若干面倒ではあるが、制服を着るということが前提であれば仕方がないところである。
インナーとアウターは流水パイプで繋がっているが、着にくかったら一時的にパイプを外して、装着後に接続すればいいだろう。水漏れ防止対策がされているコネクタなので、頻繁に抜き差ししても水が減るということはない。
USBコネクタを接続すれば、冷却と循環が始まる。動作音は、ファン音がかなり大きい。これは動作時間を伸ばすために、電力をペルチェの電圧に割くのではなく、空冷ファンのほうを多めに割いたためである。
よって冷え始めは若干ゆっくりで、冷たさを感じ始めるまでだいたい1分ぐらいかかる。一旦冷え始めると、一定の冷感が続くように感じられる。冷却ユニット側では、水温が15度以下にならないようセンサーで調整されるが、冷感の慣れを防止するため、微妙に温度を上下させているという。
水冷パッドは、インナーベストの作りがよくできており、全面が体に隙間なく押しつけられる。また先端は脇の下あたりまで伸びているので、背中だけ冷たいという感じではなく、かなり広い範囲で冷感が得られる。
晴天の夕方ではあったが、気温が32度を超えるなか、約30分の農作業でも汗一つかかない。冷却ユニットとバッテリーで重量は1.8kgぐらいになるが、背中の上の方に背負う感じなので、重量の負担はそれほど感じられない。
消費電力がわかるポータブル電源に繋いで消費電力を測定したところ、だいたい35W〜38Wぐらいであった。これは環境温度や体温によっても変わってくるだろう。
実はこの水冷ユニットは、ベストから取り外して別体としても使用できる。つまり置ける場所があるなら、無理に背負う必要はないのだ。実際の使用例としては、フォークリフトのオペレータが、冷却ユニットと電源は車体に固定しておき、インナーベストだけ着用するというケースもある。離れる時は、繋がっている循環パイプをジョイント部で外すだけである。
これは水冷パッドに対してある程度の圧力をかけて水を封入しているので、背もたれに体重をかけてもパッドが潰れることなく循環できるという特性を生かしたものだ。フォークリフトに限らず、エアコンが使用できないドライバー・重機オペレーター全般にも適用できるだろう。なお水圧を保つため、1週間に1回ぐらいは上記の水の吸い込み作業を行う方がよいとされている。
会社としては、1人あたり16万円は厳しいと感じるかもしれない。だが厚生労働省から、熱中症対策に対する補助金制度がある。高齢労働者向けの制度なので、60歳以上の労働者が常時1名以上就労しているといった条件があるが、上限100万円まで1/2の補助率なので、これに通れば半額の8万円程度で導入できる。
今年は10月31日まで申し込みを受け付けている。ただし予算額に達した場合は早めに終了する場合もあるので、申し込みは急いだ方がいい。
アイシングギア ベスト2自体はMEDIAIDブランドなので医療機器ではないが、医療機器で培った技術が生きている製品だ。フィット感の良さや細かいパーツの作りの良さは、さすが医療機器メーカーの製品である。
また冷却ベスト部と冷却ユニット・電源部を分けるというアイデアは、椅子に座るタイプの労働にも適用できるほか、一式全部を身につけなくていいことから、紐付きにはなるが軽装備でいいというメリットもある。今後いろいろな展開が考えられそうだ。
この炎天下の中、制服を着て屋外作業を行なう方は、どうしても社会には必要である。くれぐれも熱中症対策を怠らず、暑さ対策を行なってほしい。
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