大阪万博の穴場? 「ロイヤルホスト」の会社がやっているビュッフェがすごかった 質とスピードを両立させる工夫とは

0

2025年08月12日 09:10  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

万博の「レイガーデン」内でビュッフェを提供(筆者撮影、以下同)

 1970年の大阪万博にて、米国ゾーンにステーキレストランなどを出店して万博内の各国レストランで売り上げ1位になった、ロイヤルホールディングス(当時・ロイヤル)が、55年の歳月を経て大阪万博に帰ってきた。


【本文】店内の様子、各国のおいしそうな料理、珍しいカレー・パスタ・ドレッシングなど(計8枚)


 今回の店名はシンプルに「ラウンジ&ダイニング」。メインのダイニングは、世界のグルメを一堂に集めたような、ビュッフェ形式のレストランとなっている。コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングスとの共同出店であり、コカ・コーラはドリンクを担当している。


●ビュッフェが人気で開店から客が押し寄せる


 世界各国のナショナルデーの催しが行われるホール「レイガーデン」の2階に位置し、席数は260席の大箱だ。そのうち、ビュッフェを備えたダイニングは170席ほどで、1日平均600人ほどが来店する繁盛店となっている。午前11時のオープンと同時にどっと客がなだれ込む。


 料金は大人9680円と高額で強気な価格だが、せっかくの万博だからと、奮発する人も多い。高額グルメには違いないが、味に定評あるロイヤルホールディングスの経営でもあり、万博内では珍しいクーラーが効いてゆっくりできる場所であることもトータルして考えると、この店が選ばれる理由が納得できる。ナショナルデーホールとも連携して、国内外の要人にも楽しんでもらえる、本格的なグルメの館として構築している。


 人気ファミレスの「ロイヤルホスト」を運営しているだけに、ロイヤルホストの万博バージョンとして出店していれば、もっと人が押し寄せていたとも思うのだが、店名は万博協会からあらかじめ決められていたという。


 「スシロー」や「くら寿司」、たこ焼き「くくる」、串カツの「だるま」などは、内容を万博仕様に変えているが、通常の店名で出店して行列が絶えない状況となっている。ところが、「ラウンジ&ダイニング」は「ロイヤルホスト」の会社が運営しているとは知らないで来店する人も多く、ビュッフェで提供されているジャワカレーやビーフシチューなどの味から気付く人もいるという。


 それでも、万博内唯一のビュッフェでもあり、そこに魅力を感じて1日に3回転以上するのだから、万博会場内の外食需要は高いのだろう。万博の外食のあり方を同社が知り尽くしているからこその、今回の提案なのである。


●1970年の万博がファミレス文化の礎に


 ロイヤルホールディングスの歴史は、1951年に始まる。この年、日本航空の国内線の運航開始に合わせて、福岡空港で機内食と喫茶の営業を開始。同年、福岡市内では製菓・製パンを手がける「ロイヤルベーカリー」も設立している。1953年には、福岡・中洲に「ロイヤル中洲本店(現・花の木)」をオープン。女優マリリン・モンローが来店し、オニオングラタンスープを絶賛したというエピソードでも話題を呼んだ。


 1959年には大衆的なファミレス1号店を出店し、1970年の万博で米国ゾーンに外国店扱いで「カフェテリヤ」「ウェスタン・ステーキ・ハウス」などを展開。前年に確立していた、セントラルキッチンを活用したオペレーションシステムが威力を発揮した。多品種少量生産でかつ、シェフによる手作り感を加味することに成功したのだ。


 万博での実績を生かし、1971年にロイヤルホストの1号店を、北九州市内に出店している。8オンス(=235グラム)で880円の「88ステーキ」が人気を博した。当時の物価から考慮すると、現在なら3000円以上はする商品で、当時から高額商品を売るのがうまかったことが分かる。


 ちなみに、1970年には「すかいらーく」の1号店がオープンし、1974年には「デニーズ」も開業している。わずか数年の間に、日本のファミリーレストラン業界を代表する主要プレーヤーの1号店が次々と誕生したことになる。その背景には、セントラルキッチンを活用したロイヤルの万博での活躍があったとされており、1970年は“日本のファミレス元年”といわれている。


●ビュッフェにはどんなメニューがあるのか


 ラウンジ&ダイニングのビュッフェでは関西近郊の食材を中心に、ハラール、ビーガン、ベジタリアンに向けたメニューも取りそろえたとのこと。約70種類のメニューが食べ放題、飲み放題となっている。


 メニューを見ると「プラントベースミートのカレー」「プラントベースミートのミニバーグ クスクス添え」など、肉を使わない料理がいくつもある。食べてみると、これが本当にプラントベースで植物オンリーでつくったものなのかと、完成度の高さに驚いた。


 小骨が多く、これまで使われていなかった魚を食材化した「未利用魚『ひら』のショートパスタ」のような食の未来を考えた商品も、さりげなく大皿に盛られて並んでおり、食に興味がある人なら多くの発見がある構成になっている。


 ローストビーフはホテルのレストランのように、でき立てを店員が目の前で切り分ける。このように要所には人を使ったサービスも取り入れている。ローストビーフはほぼ全員が食べているのではないかと思われるほどの人気だ。


 サラダにかけるドレッシングも、これまで大多数の日本人が体験したことがないであろう「中東風スマックのドレッシング」を採用。スマックというのは、アラブ料理やペルシャ料理、トルコ料理に多用される、シソに似た風味のスパイスで、爽やかな酸味があり、これから流行りそうだ。他に、ナンプラードレッシングも珍しい。


 コカ・コーラが担当するドリンクでは、欧州で50年以上愛されている「コスタコーヒー」を前面に出している。日本ではめったに見ない、クラシックなドリンクサーバを体験できるようにしている。顧客にとっては楽しい体験となるだろう。


●ビュッフェ以外では「高級店」も出店


 ダイニングの奥にある、海に面したレセプションルームは7つの個室を有し「はなみずき」「つつじ」など花の名前が付いている。家具、壁面に飾られた絵画など、それぞれ異なる意匠が施されている。


 フランス料理をルーツとするロイヤルの技術を集結し、神戸牛など地元関西中心の食材を使い、ホテルのような細やかなサービスにて提供する。フレンチのショートコースは1万4300円〜。ごった返す大阪万博の中に、こんなに落ち着ける場所があるのかと利用者には想い出に残る飲食体験になっている。2〜8人で利用可能だ。


 ラウンジ&ダイニング総支配人・鈴木貴博氏によれば「お客さまをさばかないとならない割に、厨房スペースが狭い。通常必要な半分くらいしかない。あらかじめ食材を仕込んでいたり、完成品を冷凍したりする、セントラルキッチンを生かした、ビュッフェとコース料理を出すのが最善の策だった」とのこと。


 うかい亭が出店する鉄板料理「うかい亭 大阪」と、大阪府鮓商生活衛生同業組合の「鮓 晴日(すしはれのひ)」も見逃せない。日本独特の鉄板焼、すしという、未来へと受け継ぐべき職人の技をカウンター席にて、身近に感じてもらう趣旨だ。


 うかい亭というと、東京圏では高級な豆腐料理や鉄板焼きで知名度が高いが、関西では洋菓子店「アトリエうかい」のイメージが強い。京都、大阪の高島屋に「アトリエうかい」を出店しているためだが、従業員によれば「関西の人には『あの洋菓子のうかいが鉄板もやっていたのか』と驚かれる」という。


 最初は知名度が低く、場所もわかりにくいので苦戦したというが、テレビ番組で紹介される機会があり、実際に体験した人の満足度の高い口コミで客が増えて、採算ラインを上回ってきたという。1日に4回転する。


 銀座をはじめ東京圏に6店、海外では台湾にも1店を展開するうかい亭を関西の人にも知ってもらおうと、神戸牛など関西の食材を重用し、全力のサービスを行っている。コースは1万8700円、3万8000円(ともに別途サービス料10%)など。


●確かに高額だが、その価値はある


 鮓 晴日は、大阪府内の約500店で構成される、大阪府鮓商生活衛生同業組合が出店している。働いているすし職人は全国の腕利きが集まるドリームチームだ。


 東京のにぎりずし、大阪の押しずし、京都や福井の棒ずしなど、すしのさまざまな技法を使ったコースを提案。あまたある市中のすし店では、なかなか体験できない、ドリームチームだからこそのメニューだ。各地のすし文化の違いを比較しながら実食できるようにしており、1万8000円と2万2000円のコースがある。高額だが、東京では10万円くらいする超高額すしの人気店もあるので、すしに関する学びも含めれば、むしろリーズナブルといえるだろう。


 同店のすし職人は、各都道府県の鮓組合の技術委員を務める人も含まれており、目黒秀信氏は東京都稲城市にある「ヨロシク寿司」の大将。目黒氏は『すしの技術大全』(誠文堂新光社)の著者であり、すしの技術の継承に熱心な人だ。このような心あるすし職人が集結して、大阪万博ですしの真髄を伝えようとする熱い場所が鮓 晴日なのである。


 今回の万博は、高額グルメが庶民の生活感とかけ離れていると批判の的となった。確かに「インバウン丼」のように、取って付けたように高級食材を使ったものなら批判されるだろう。実際、大阪万博の中にもそうしたものは散見される。


 ラウンジ&ダイニングの価格も高額だが、厳選した素材をしかるべき調理法で作り上げている点で、全く異なる。万博で未来の食を垣間見たい人、すし、鉄板焼について深く知りたい人、ゆったりと個室で会食したい人にとっては、特別な体験となるサービスを提供している。


(長浜淳之介)



    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定