一部の新築物件では値下げの動きも。限界迫るマンション市場の"需給の乖離"とは?

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2025年08月21日 18:20  週プレNEWS

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建築費の高騰により都内マンションが庶民にとって高嶺の花となるなか、新築供給も先細りし始めている


最近、不動産・マンション業界の人々と会合を持つと必ず出る話題は、建築コストの高騰である。不動産会社がマンションを建てるために建設会社に支払う費用が、急激に値上がりしているのだ。それも半端ない速度で上がっている。

【写真】都心のタワマン

■新築価格の上昇の根本は人口減

半年ほど前、私はあるネットテレビの番組に呼ばれ「新築マンションの値下がりはない」というテーマでコメントを求められた。そこで「今、マンションを建設する費用は1戸あたり3000万円。これは10年前なら2000万円、20年前なら1000万円でした」と説明した。

つい先日、業界関係者に聞くと「4000万円でも難しいかも」と。そして、足元ではまだ値上がりが続いているとか。

ここまで建築費が上がった主な理由は、人手不足。建設現場に必要な各種職工さんたちを集められないのだ。現状、多くの現場で作業をしている職工さんたちの半分以上が外国人、ということも珍しくない。人手不足の根本原因は人口減だから、今後改善が見込みにくい。建築コストはますます上昇するはずだ。

建築コストの上昇は当然、新築マンションの価格に反映される。建築費だけで4000万円もかかるのなら、土地がタダ同然でも5000万円以下の販売価格はあり得ない、ということになる。普通に考えて7000万円や8000万円が最低ラインだ。

今、70平米3LDKのマンションは東京23区の端っこあたりでも7000万円で買えるかどうか、という状況だ。今後、この条件での23区内での購入はかなり難しくなりそうだ。

ただし現在、首都圏や近畿圏の郊外では3000万円台後半で販売されている新築マンションが、ないわけではない。しかし、詳しく見てみると多くは建物が完成してから2年程度経過していたりする。それらの物件の建築コストが発生したのは、少なくとも3年以上前だった、ということだ。

■新築供給も先細りに

建築コストの上昇は、供給側の動きも鈍らせる。不動産経済研究所の公表資料によると2024年の上半期、首都圏の新築マンション供給は前年比11%強の減少となった。これは4年連続だそうだ。しかし、価格は過去最高となっている。

一方で、各種統計資料を見ても個人所得はここ10年以上、ほとんど上がっていない。反面、物価や消費税、社会保険料負担は上昇。可処分所得の減少により、一般家庭の家計は苦しくなっていると推測できる。

しかも、わずかではあるが金利も上がった。住宅ローンを組んでのマンション購入の条件は、徐々に厳しくなりつつあるのが現状である。

つまり、新築マンション市場は力強い値上がり傾向にあるにもかかわらず、消費者側の購買力は減退しているのだ。この現実を反映するかのように、郊外の新築マンション市場では軒並み販売が不振に陥っており、完成から完売まで1年程度というのは当たり前。完成後3年以上経過した物件も珍しくない。

こうしたなか、最近、大手財閥系ディベロッパーが2年前に完成させた都心の大型マンションでは、一部の物件を値下げする動きも見せており、潮目の変化を感じさせる。

■活況の中古市場にも迫る限界

需要者側が供給側の値上げについていけない状態は、明らかに「市場の歪み」である。そうしたなか、新築が買えない人々は中古市場に流れている。東日本不動産流通機構(レインズ)の公表資料によると、首都圏郊外の中古マンション市場では成約が増え、在庫が減っている。そして、価格は上昇している。

新築を諦めた人が強い購入意欲をもって中古物件を探すので、少々高くても売れてしまっているのだろう。ただし、購入者側の「買い上がり(多少無理してでも予算以上の物件を購入すること)」にも限界がある。なぜなら、住宅ローンには限度額があるからだ。金融機関にもよるが、限度はおおよそ年収の7倍くらいまで。無理しないレベルは5倍あたり。

郊外の中古マンション市場は、価格が需要層の限界レベルに達すると、そこで値上がりが止まるはずだ。今はその閾値(しきいち)ともいうべきラインにそろそろ達する頃ではないか。そのあとは、行き過ぎの熱が冷めて下落に転じると思われる。

加えて、金利が上がれば限界ラインは低下する。つまり金利上昇は市場への下落圧力になる。物価上昇が続く現状、金利を決める日本銀行もいつまでも重い腰を上げないわけにはいかないはず。年内の再利上げは避けられない。

東京都心を中心としたエリアでマンション価格が上がり始めたのは2013年から。前日銀総裁の黒田東彦氏が異次元金融緩和を始めた時点と一致する。それ以来、一度も止まることなく12年以上も値上がりが続けている。

都心の不自然な値上がりを買い支えているのは、外国人や投機目的の人々だ。彼らは基本、購入したマンションに住まない。だから都心や湾岸のタワマンは夜になっても明かりがつく住戸が異様に少ない。

そして、日本全体では住宅が余っているのも現実だ。地方では「タダでいいのでもらってください」や「お金払うので所有権を受け取って」という住宅も珍しくない。

この矛盾した状態も、いつかは調整されて正常に近づくはずだ。市場は時折不可解な現象を見せるが、長期スパンで考えれば必ず需給が反映される。問題は、その流れが何をキッカケに、いつ始まるのか?...ということになるだろう。

文/榊淳司 写真/photo-ac.com

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