アイロボットジャパンが、ロボット掃除機「Roomba(ルンバ)」シリーズのラインアップを一新してから約4カ月が経過した。アイロボットがフルラインアップを一斉に刷新したのは今回が初めてであり、機能や価格帯によって、エントリーモデル/ミッドレンジモデル/フラッグシップモデルの3つのカテゴリーで構成されている。
発表した新製品は6機種9モデルにおよび、日本のユーザーのさまざまなニーズに応えられる多彩なラインアップをそろえているのが特徴だ。
今回の連載「IT産業のトレンドリーダーに聞く!」では、アイロボットジャパンの挽野元社長に登場してもらった。インタビュー前編では、新製品の狙いや反応などについて聞いた。
●革命的だった「All New Roomba」の発表
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―― アイロボットジャパンは2025年4月に、ロボット掃除機「ルンバ(Roomba)」を一新しました。エントリーからハイエンドまで、フルラインアップを一斉に刷新するのは初めてとなります。手応えはどうですか。
挽野 今回の新製品は、「All New Roomba(全てが新しくなったルンバ)」というメッセージからも分かるように、ルンバのフルラインアップを刷新しました。新たなテクノロジーを採用するだけでなく、消費者が求める新機能を搭載し、ラインアップも分かりやすく再編しました。日本のお客さまにとって、ルンバをより身近に感じてもらえるようになったと自負しています。
選択肢を広げるという点では、これまでのルンバには装備してこなかったLiDARセンサーを内蔵し、部屋のマッピングを素早く作成して、障害物を避けつつ無駄のない動きで掃除を行える製品を用意しました。
また「Roomba 205 DustCompactor Combo ロボット」では内部にゴミ圧縮機能付きのダスト容器を搭載し、メカニカルアームを使ってゴミを圧縮することで、ゴミ収集ステーションがなくても最大60日分のゴミを収納できるようにしています。
分かりやすい仕組みですし、コンパクトなロボット掃除機が欲しいという日本のニーズに合致したものとなっています。実際に、発売後の出足は非常によく、強い手応えを感じています。既存のルンバからの買い替えだけでなく、「このルンバだったら買ってみたいと思った」といった新たなユーザーの声も聞かれています。
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―― 5年後にこの製品発表を振り返ったときに、どんな表現ができそうですか。
挽野 今回のAll New Roombaの発表は、きっと「革命的だった」と言われると思います。1990年に創業したアイロボットは、創業者であるコリン・アングルが、エンジニアとしての優れた能力と、独創的なアイデアによって、生み出してきた製品によって成長を遂げてきました。
しかし、All New Roombaでは、開発への取り組み方を大きく変え、新たに製造パートナーとも連携し、より迅速に市場投入できるようにしました。これによって、革命的といえるラインアップへと刷新することができたといえます。新たなルンバは、これを第1弾として、さらに進化を遂げていくことになります。
―― ちなみに、挽野社長が気にいっている製品はどれですか?
挽野 どれも気に入っていますが(笑)、Roomba 205 DustCompactor Combo ロボットのメカニカルアームは、アナログともいえる構造を持ち込んだことで、ゴミ圧縮機能のメリットが分かりやすく伝わりますし、日本のユーザーにも使いやすいモデルだと思っています。
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また「Roomba Max 705 Vac ロボット」は、クリーンベースが小さく、水拭き機能は要らないけれど、強力な吸引機能が欲しいというユーザーには最適な製品が出来上がったと思っています。私の家では、床を水拭きしてくれる「Braava jet」がありますから、Roomba Max 705 Vac ロボットと組み合わせて使うのもいいかなと思っています。
Roomba 205 DustCompactor Combo ロボットとRoomba Max 705 Vac ロボットの2モデルは、いずれもコンパクトなのが特徴で、日本の家屋には最適です。さらにオンライン販売限定の「Roomba Plus 405 Combo + AutoWash 充電ステーション」は、本体からのゴミ回収とモップパッドの給水、洗浄、乾燥が行えるという点でも人気です。
そして「Roomba 105 Combo ロボット」は、4万円を切る価格設定としており、単身世帯にも最適ですし、間取りがシンプルな家屋での利用にも適しています。お勧めのモデルばかりです(笑)。All New Roombaとして刷新したことで、モデルごとに、機能や目的、用途、対象となるユーザー層が明確になりましたから、それぞれのユーザーに最適なモデルを選択できるようになりましたし、私たちのメッセージも響きやすくなったのではないでしょうか。
●日本のルンバユーザーの特徴
―― 日本のルンバユーザーに特徴はありますか。
挽野 ルンバを家電製品として使っていただくだけでなく、ルンバに名前を付けて、家族の一員として使っていただいたり、家庭の中のコンパニオンとして使っていただいたりといったケースがとても多いのは確かです。また、全国から廃棄予定のルンバをオーナーのみなさんが持ち寄って、お納めの儀を東京・神田の神田明神で行いましたが、かなりの応募数がありました。ここまで愛着を持って使っていただいているのは、日本ならではの特徴だといえます。
―― 2024年4月に、ゲイリー・コーエンさんがCEOに就任しました。30年以上、CEOを務めてきた創業者のコリン・アングルさんからのバトンタッチによって、アイロボットは何が変わり、何が変わらないのでしょうか。
挽野 コーエンがCEOに就任してから1年以上が経過しました。創業以来、初めてのCEOの交代ですから、まさにアイロボットが大きく変化するタイミングでもあります。競合環境や市場環境の変化を捉えて、これまで全てを自前でやってきた製品開発体制を変更し、より迅速にアイデアを実装し、製品を市場に投入できるようにパートナーとの連携を強化しました。
これは大きな変化です。その成果が、2025年4月に発表した製品ラインアップの一新につながっています。ただ、変わらないこともあります。アイロボットのブランドバリューには変化がなく、そのバリューを大事にする経営者であることも変わりません。また、私たちが掲げたミッションにも変化がなく、人々の生活をより豊かにするための活動を続けていきます。コアといえる部分は変わりません。
―― 米国本社とアイロボットジャパンの距離感には変化がありましたか。
挽野 その点では、より近くなったと思っています。残念ながら、アイロボットは3年連続で赤字を計上しています。そして、2024年度は大規模な人員削減を行い、社員数は約半分となりました。
ただ、その分、組織の階層が減り、日本の声が届きやすくなったともいえます。私自身、毎週火曜日に必ずコーエンと話をしており、結果として、本社の経営トップと話す頻度が増え、それに伴い、意思決定のスピードも速くなっています。
日本のユーザーが欲しい機能や、日本市場の特性に合わせた設計を本社に要望することが増えていますし、それを検討するスピードも速くなり、今後の新製品にも反映されていくことになります。この結果がどうなるのかは、私自身とても楽しみな部分です。新たな体制による変化は、日本のユーザーにとってもプラスになるといえます。
―― 2024年度業績において、負債の借り換えや企業売却の可能性など、さまざまな選択肢を視野に入れた取り組みを開始したことを明らかにしたことで、年次報告書(Form-10K)では「企業としての存続に課題がある」と指摘されました。経営に対する疑念が生じたことで市場での混乱が見られましたが、アイロボットは、これからも存続できるのでしょうか。
挽野 確実に言えることは、アイロボットは、これからも存続するということです。2025年3月に、私たちの真意が伝わらない一部報道があったことで、誤解を招くような事態となったわけですが、4月の新製品発表に合わせてコーエンが来日し、記者会見の場などを通じて、アイロボットの事業運営や製品開発、製造およびサービスの提供に関しては、全く影響を及ぼすものではないことを、直接、話をさせていただきました。
かなり踏み込んだ形で説明をし、「私たちはしっかりとビジネスを継続する。安心して引き続き使って欲しい」ということが訴求できました。さらに、同時に発表した新製品が、そのメッセージを裏付けるだけのパワーを持った製品であったことが伝わり、疑念はかなり払拭できたと思っています。
実は、私たちの真意が伝わらない一部報道の影響が、一番大きかったのは日本でした。日本における3月の販売数量はかなり減少しましたし、ルンバユーザーからは、今後のサポートは大丈夫なのかといった問い合わせをいただきました。
ここまでの影響が出たのは、世界全体の中で日本だけで、言い換えれば、それだけ日本においてアイロボットやルンバの認知度が高いことの裏返しだったともいえます。また、海外では3月時点で新製品発表を行いましたから、それが誤解を払拭することにつながっていたのですが、日本での発表が、そこから1カ月遅れたことも影響しています。
日本での新製品発表は、当初から4月を予定していました。このタイミングで、私たちの状況をしっかりとお伝えすることが大切だと考えました。最初のプランでは、新製品の発表に集中した構成だったのですが、「これでは日本のユーザーが納得しない」と、コーエンとも話をし、何度も修正を加えて、しっかりとメッセージを出してもらいました。この件について、コーエンが、こうした形で直接話をする場を設けたのは日本だけです。
●業績改善のためにありとあらゆるものを向上させる
―― 現時点での影響はどうですか。
挽野 コーエンは記者会見だけでなく、主要な取引先を訪問し、直接説明も行いました。取引先各社には理解して安心してもらい、ビジネスを継続してもらっています。また、3月はルンバユーザーや購入を検討していたお客さまからコールセンターに問い合わせがあったり、販売店店頭でも心配する声があったりしましたが、それもかなり落ち着いてきています。疑念は払拭されたと思っています。
―― アイロボットでは、新たなキーワードとして「ELEVATE(エレベート)」をグローバルで掲げています。この狙いについて、コーエンCEOは「業績改善のために、ありとあらゆるものをエレベート(向上)する」とコメントしています。これは成長戦略ですか、それとも変革や再生戦略を指しますか。
挽野 これは両方を指します。今のアイロボットに求められているのは、変革しながら成長することです。製品開発の方法を変え、よりよいモノを、より迅速に市場に出していくことは大きな変革ではありますが、それだけでなく、しっかりとお客さまに届けて販売を拡大するということもセットで考えています。
―― この成果は、どんな指標で推し量るのですか。
挽野 社内には売上高や利益など、さまざまな経営指標がありますが、その他にも新製品の投入サイクルが年1回だったものを半年に1回にするとか、製品を使っていただいたお客さまの評価レビューを分析し、それを重視するといったことも行います。ただ、目指す指標は対外的には公開していません。
―― 日本におけるELEVATEのポイントは何ですか。
挽野 日本の場合は、これまでにやってきたことを、より強化していくことになります。アイロボットジャパンでは2030年までに、国内掃除機市場全体の5台に1台をロボット掃除機にすることを目標に掲げました。これも、日本における「ELEVATE」の取り組みの1つとなります。グローバルのELEVATEの取り組みによって生まれたより良い製品をお客さまに届けることで、より多くの人に使ってもらうことが、日本における“ELEVATE”になります。
※近日公開の後編に続く。
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