
妻、そして母になっても、いつまでも女として見られたい――。だが、夫との関係はもはや男と女ではない。心と体の渇きに気づかないふりをして、仕事から帰ると慌てて家族の食事の支度をしている、というのが多くの女性の現実だろうか。
結婚して二十年、子育てと仕事の両立に追われる日々を送ってきたという斎藤さん(仮名、50代女性)も、かつてはそうだった。「気づけば夫との関係は『家族』になっていた」と語る。
ところが、パーソナルジムで若い男性トレーナーと出会ったのを機に、
「私、まだ女だったんだ……って。その実感が、涙が出るほど嬉しかった」
忘れかけていた女の喜びが呼び覚まされることとなる。編集部は斎藤さんに取材し、3年間続いた男性トレーナーとの記憶を赤裸々に語ってもらった。(文:天音琴葉)
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「可愛いですね」「綺麗です」褒め上手の年下トレーナーに、心を揺さぶられ……
今から5年ほど前、難病を患った斎藤さんは、健康を取り戻すためにパーソナルジムに通い始めた。担当になったトレーナーは、明るく褒め上手で、細やかな気遣いのできる20代後半の青年だった。
「彼は、ことあるごとに私を褒めてくれたんです。『可愛いですね』とか、『綺麗ですよ』とか……」
運動嫌いだった斎藤さんは、いつの間にかジム通いを楽しみにするようになっていった。
そんなある日、トレーナーから「旦那さん、羨ましいですね」と言われた。その一言が、斎藤さんの胸に強く突き刺さった。
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男性からそんな言葉をかけられるのは、何十年ぶりだっただろうか。「私、まだ女だったんだ……って。その実感が、涙が出るほど嬉しかった」と振り返る。
「彼女です!って言いますから」思わせぶりな彼に、心を奪われて……
心の潤いを感じたとしても、この程度ならそんなに罪深いことではないだろう。トレーナーと客という関係性であり、リップサービスだともわかっていた。
ところが、女性として扱われることの喜びを久しぶりに噛み締めた斎藤さんは、次第にトレーナーに恋心を抱くようになっていった。きっかけとなる出来事もあった。
ジムから帰ろうとした斎藤さんは、トレーナーから「仕事の用事で外出する」と聞き、車で送ることに。
「その時に私が『お客さんの車に乗ってるところ、会社にバレたらまずいよね』と言ったら、彼が笑いながら『大丈夫、彼女です!って言いますから』と冗談ぽく言ってくれたんです」
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その言葉が、斎藤さんの心に火をつけた。彼の気があるような素振りはほかにもあった。
「彼がスクワットをアシストするとき、身体が自然に触れ合う距離感だったり、彼が触れる手が、妙に馴れ馴れしいと感じることがあったりしました。さりげなくお尻に手が触れることも……。でも嫌じゃなかった。彼も、もしかして……そんな妄想ばかりしていました」
しかし、幸せな時間は長くは続かない。クリスマスの後、見慣れないアンクレットをつけていた彼に「今日はおしゃれしてるね」とさりげなく話を振ると、「彼女からもらったんです」という答えが返ってきた。娘と同じくらい若かった彼には、同年代の彼女がいたのだ。
退会すると聞いた彼は、「うっすら涙を浮かべました」
「その瞬間、胸がズキリと痛んだ」という斎藤さんは、こう続ける。
「こんなにも彼のことを考えている自分が、恥ずかしかった。私は完全に恋をしていました」
狂おしいほど恋してしまった彼には、若い彼女がいる。そして、自身にも夫がいて、そもそも最初から叶わない恋だった。このまま恋心を抱き続けても苦しいだけ……。
「まるで脳内麻薬のように、毎日、彼のことばかり考えていました。ジムに通う目的が、トレーニングよりも、彼に会うことになっていました。彼の幸せを願いたいのに、彼女への嫉妬で苦しくなる自分が嫌でしたし、そんな自分にも疲れてしまったんです」
こうして、3年間通ったジムを退会することを決めた斎藤さん。結局一度も「好きだ」と言えなかったけれど、退会の意思だけは、彼に直接伝えた。
「彼は一瞬驚いた顔をして、うっすら涙を浮かべました。そして、『本当の理由を知りたい』と。腑に落ちないような表情が印象に残っています」
またしても思わせぶりな彼に、勘違いしそうになったが、「私は妻であり、母であり、彼にとってはただの客だ」と自分に言い聞かせた。
「それでも、心のどこかでその涙を信じたかった。しばらくは彼を思い出しては泣きました。会いたくて、でも会わなくて、会えなくて……」
こうして夫や子ども中心の生活に戻った斎藤さんだが、会わなくなり数年経つ今、彼を思い出すことはあるのだろうか。
「今も、仕事がひと段落したときや、夜寝る前などに、彼のことをふと思い出します。当時は苦しくて仕方なかったですが、今は『元気でいてくれるといいな』『これでよかったんだ』と思えるようになりました。忘れかけていた淡いトキメキを思い出させてくれた、素敵な思い出として胸に刻んでいます」
妻で母でありながら、夫以外の男性に心を奪われたことに対する後ろめたさは、少しはあった。だが、実際に何かあったわけではないので、夫との接し方や関係性に特に変化はないとも語った斎藤さん。一線を越えなかったからこそ、「素敵な思い出」として記憶に残り続けるのだろう。
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