2025年9月13日に華々しく開幕した東京2025世界陸上。世界中からトップ選手達が一堂に集結し、磨き上げた己の肉体を武器に躍動する陸上競技の祭典だ。
【写真】『チ。』『ひゃくえむ。』作者・魚豊が語る、「主観的な熱中」 公開されたネーム画像
2年に1度のペースで開かれるこのビッグイベント※は1983年大会からその歴史が始まり、今回で節目の20大会目となる。過去には1991年に東京、2007年には大阪で開催され、日本での開催自体は3度目となっている。
※2021年に開催を予定していた第18回大会は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け2022年に開催された。
日本選手の奮闘や世界のトップアスリート達の異次元のパフォーマンスに関心を寄せる視聴者も多いことだろう。東京2025世界陸上の舞台となる国立競技場には、初日に述べ約89000人の来場者が訪れたことでも注目度の高さの程が伺える。
肉体の限界に挑む選手達の姿を堪能できる本大会だが、競技の魅力を更に体感できる珠玉の陸上漫画を、世間的熱量が高まっているタイミングで是非紹介させていただきたい。
|
|
■映画館でオンユアマークス! 陸上漫画の到達点『ひゃくえむ。』
まずは陸上競技の代名詞とも言える100m走を題材にした作品が『ひゃくえむ。』(魚豊/講談社)だ。
2025年9月19日には劇場版アニメが全国公開されることでも記憶に新しい本作だが、連載完結は2019年8月6日、世界陸上2019カタール・ドーハ大会の年まで遡る。
これまで向かうところ負けなし、順風満帆の短距離選手人生を謳歌していたトガシが自分の存在を脅かすライバル、小宮が登場することでその人生が一変する。
最強だった筈の自分が年齢を重ねる度に現実を突きつけられ、次第に万能さを失っていく様。誰もが最初は自分が1番だと錯覚しやがて自分の限界値を知っていくように、トガシの苦悩を自分自身の過去と重ねて見比べてしまわずにはいられないだろう。
|
|
トガシが化け物だらけの100m競技の世界で尚生き続けようとする理由。それは「大抵のことは、100mを誰よりも速く走れば、全部解決する」というシンプルな原理原則。世界陸上でたった10秒の刹那に栄光と賞賛を手にできるメダリストの姿を目の当たりにしている私達からしても納得でしかない。
世界陸上でリアルに陸上競技の魅力に触れたタイミングでの映画公開はこれ以上ない好機だ。原作漫画にも触れない理由はないだろう。
■絶望から這い上がる様が刺さる『チハヤリスタート!』が築く陸上漫画の新時代
続いて紹介したいのは陸上漫画界に新たな息吹を吹き込んだ『チハヤリスタート!』(たけうちホロウ/芳文社)だ。
小学生の頃から足の速さが唯一にして絶対のアイデンティティだった桜坂千早(さくらざかちはや)。万能感に溢れた千早が中学に進学し出会った同級生、小清水澪(こしみずみお)は、あろうことか自分よりも足が速かった。何度戦っても勝てない存在を前にして、才能だけでやってこれた千早は初めて陸上に本気で向き合う。澪を倒す為に青春の全てを費やして練習を重ね、やがて全中1位と2位を争うまでに成長する。
|
|
別々の高校に進学した2人。千早は澪にインターハイで勝利することを心に誓うが、コロナ禍でインターハイ自体が中止となってしまい、あまりのショックに7年もの間引きこもってしまう。千早は世界陸上換算で3大会分をふいにする程の空白の時を過ごす。
そして25歳となったタイミングで澪との偶然の再会を機に、人生の再起をかけて新たなスタートを切る千早。彼女にとって再生の物語がここから始まる。
正論や綺麗事では片付けられない生々しい感情をぶつけられながらも、ダメな自分も受け入れながら進んでいく千早に勇気を貰える、不思議な魅力に溢れた作品だ。
陸上競技はリレーなど一部の例外はあれど基本的に個人競技だが、ライバルと呼べる存在や支えとなる仲間の存在は欠かせない。東京2025世界陸上のインタビューでも、支えてくれた存在への感謝、多くの声援を届けてくれたことへの感謝の言葉を述べる選手はことさらに多い。
肉体の限界への挑戦を続ける陸上選手達へのリスペクトを込めて。さらに陸上競技にのめり込むきっかけの作品として手にとることをお薦めしたい。
(文=もり氏)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 realsound.jp 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。