なぜ中国のiPhone 17は物理SIMを搭載しているのか? 日本向けモデルがeSIMオンリーとなった“特殊事情”

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2025年09月19日 13:31  ITmedia Mobile

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海外空港で売られるプリペイドSIMカード。だが購入時に日本のSIMカードを紛失してしまった……なんて経験がある人もいるだろう

 iPhone 17シリーズが発表され、相変わらず各国で大きな話題となっている。既に手元に届いたという人もいるだろう。しかし、日本では従来と大きく使い勝手が変わる仕様変更が全モデルで施されたことで、戸惑いの声も多く聞かれる。


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 それは日本向けモデルが北米向けモデルと同様に物理SIMカードスロットを廃止してeSIMオンリーとなったことだ。一方、中国向けのiPhone 17はこれまで通りeSIMに非対応となり、物理的なデュアルnano SIMカードスロットを搭載している。


 なぜ日本向けモデルは北米向けモデルと同じ仕様になったのか。そしてなぜ中国向けモデルはeSIMを搭載しないのか。


●eSIM導入が他国より容易な日本のキャリア販売ビジネス


 eSIMは世界各国でも普及が進んでいる。日本でも各キャリアがeSIMを提供しており、それほど珍しい存在ではない。


 とはいえ、多くの日本人はまだまだ従来の物理SIMカードを使用しており、またeSIMへの理解度も低いのが実情だ。eSIMはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルだけではなく、一部のMVNOでも対応が始まっている。キャリアショップの来店予約を行う必要もなく、多くのキャリアがオンラインでの契約とeSIM発行に対応している。


 しかし、それでもeSIMの利用者が増えないのは「慣れ」の問題の部分も大きいだろう。eSIMは店舗へ行かずとも契約が可能なキャリアが多く、物理的なカードを必要としないため、紛失や盗難の心配もない。


 「海外旅行時に現地の空港でプリペイドSIMカードを買って入れ替えたはいいものの、日本で使っていたSIMカードを紛失してしまった」なんて経験をした人も多いはずだ。日頃からeSIMを使っていればそのようなトラブルを回避できる。


 利便性の高いeSIMではあるものの、サービスが始まってからまだ数年程度と日が浅く、eSIMの存在そのものを知らない日本人も多い。それでもAppleが日本向けモデルのiPhone 17でeSIMオンリーに踏み切ったのは、日本と北米の端末販売ビジネスに類似点があるためだと考えられる。


●特殊な事情にある日本のスマートフォン販売


 日本も北米もiPhoneの普及率が高く、Appleが率先して新技術をユーザーに利用させやすいという下地はある。とはいえ日本以外でも、例えばオーストラリアや台湾、欧州の一部の国ではiPhoneの普及率が高い。しかしこれらの国で販売されるiPhone 17は「eSIM+物理SIMカード」という構成になっている。


 ではなぜ日本向けモデルがeSIMだけになったのだろうか。それは日本のスマートフォン販売が諸外国と比べて特殊な事情にあるからだ。


 日本では通信キャリアを通したスマートフォン販売が今でも主力であり、キャリアがある程度の端末サポートも行っている。iPhoneに不具合が起きてもキャリアでの対応が期待できる。


 eSIMしか使えないiPhoneを購入する日本の消費者の多くは、キャリアの店舗を訪れるため、キャリアとしてもeSIMの説明やサポートを直接行いやすい。


 一方、日本と北米、そして韓国以外の多くの国では1990年代からGSM方式の携帯電話サービスが開始され、通信回線はキャリアが提供するSIMカード、端末はメーカーが販売と、回線と端末が分離して販売されてきた。


 その後、W-CDMAからLTEと通信方式がアップグレードされていったが、基本的なビジネススタイルは変わらない。今では日本でもSIMカードは当たり前の存在だが、アナログや旧世代のPDC方式の頃からの「キャリアが端末を開発・販売する」日本のビジネススタイルは根底に生き残っている。


 つまり北米と日本以外の地域では、キャリアを通さず端末を買うユーザーが多い。そのため端末の個別のサポートはキャリアよりもメーカーが行うことが基本だ。もちろんヨーロッパやアジアのキャリアの店舗に行けば、iPhoneや最新スマートフォンが回線契約とセットで割り引きされて販売されている。だがそれはあくまでもメーカー製端末をキャリアが販売店として売っているだけであり、端末のサポートはメーカー側が行うのが一般的だ。


 このようなビジネス環境下で物理SIMカードの利用できないスマートフォンを販売した場合、不具合が起きたときにキャリアとしてもサポートを行うには限界があるだろう。北米と日本以外の国でiPhone全てのモデルがeSIMだけの対応になるには、まだしばらく時間がかかると思われる。


 物理SIMカードからeSIMへの移行は、キャリアもメーカーもコスト削減や製品開発の効率化を目指して前向きに進めているのが現状だ。日本市場はキャリアによるサポート体制が充実しているため、国際的にもいち早くeSIM時代へと踏み出せる環境が整っている。


 今後しばらくは移行期ならではの混乱も予想されるが、Appleの“ごり押し”とも思えるeSIMオンリー戦略は、結果として日本がeSIMを自在に使いこなせる“eSIM先進国”に押し上げるきっかけになるだろう。


●中国では今後もデュアルSIMカードモデルが主流に


 2025年に世界各国で登場したスマートフォンの大半は「物理SIMカード+eSIM」という仕様になっている。しかし、世界最大のスマートフォン市場である中国国内で販売されているスマートフォンはeSIMに対応していない。iPhone 17はもちろんのこと、ここ数年のiPhoneもデュアルSIMカード仕様となっている。唯一例外になるはずだったiPhone Airは、2025年9月中旬時点で、中国での発売時期は未定になっている。


 もちろん中国にもeSIMはある。センサーなどのIoT機器に多く採用されている他、コンシューマー向けにはApple WatchなどスマートウォッチにもeSIM搭載モデルが販売されている。しかし中国の4キャリアはスマートフォン向けのeSIMサービスを提供していない。


 これは中国政府が市場を規制しているためだ。中国ではSIMカード契約(プリペイド方式が大半)には身分証明書を使った実名登録が必須となっている。eSIMはオンラインでの契約や即時発行ができるため、従来の物理SIMに比べて本人認証や契約管理、データ保護の厳格な運用が難しい点が課題となる。また、オンラインで容易に切り替え・発行できるeSIMは、政府当局による制御等が従来より行き届きにくくなる。そのためeSIMの導入には慎重な姿勢を見せている。


 また中国政府はこれまで、MVNOキャリアの導入やMNP(携帯番号ポータビリティ)の試験運用、そして2022年には第四のキャリアとしてChina Broadnetを参入させるなど、通信業界の健全な競争環境と技術革新の育成に力を注いできた。


 一方、eSIMスマートフォンは海外企業が提供するグローバルeSIMなどを容易に導入できてしまう。もしもeSIMスマートフォンの導入によって規制の網をかいくぐった海外企業が一気に参入してしまえば、公正な競争や通信産業の発展を支えてきた国内主導の市場体制が崩壊してしまう。


 このように契約管理と市場保護の理由から、中国で販売されるiPhoneはAirを除いて今後もしばらくは物理SIMカードのみの対応となるだろう。


 なおeSIMスマートフォンが販売されていなくとも、中国の消費者はeSIMについて一定の知識を持っている。スマートウォッチの一部にeSIMが搭載されている他、中国メーカーのスマートフォンのほとんどに海外向けデータ通信サービスのeSIMが搭載されているからだ。


 このサービスは中国販売モデルのみに搭載されており、海外用eSIMを買わなくとも本体のアプリを起動すれば、その場でローミングプランを購入できる。


 物理SIMカードが無くても通信できるサービスを多くの中国の消費者は使っており、今後にeSIM対応スマートフォンが登場してもすんなりと受け入れる下地はできているように感じられる。


 iPhone 17の日本モデルと中国モデルの違いは、各国の通信構造と規制の違いを如実に示している。利便性や管理効率を求める日本と、市場保護と規制強化を重視する中国、両国市場の差異がiPhone 17の販売戦略に大きく影響を与える結果となった。



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