知らないと命にかかわる! クマよけスプレーの主成分、製品の種類と違いは?

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2025年09月19日 20:50  All About

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【薬学部教授が解説】住宅地や山でクマと遭遇する事例が発生する中、「クマよけスプレー」が注目されています。スプレーの成分と効果、ヒグマ用・ツキノワグマ用の種類の違い、誤使用のリスクや法律面での注意点について、分かりやすく解説します。
最近、山での遭遇だけでなく、住宅街にもクマが出没するニュースが相次いでいます。そのため、クマとの遭遇時に身を守る道具として「クマよけスプレー」が注目されているようです。

一言でクマよけスプレーといってもいくつかの種類があり、選び方を誤ると、命にかかわる場面で役に立たないという大きなリスクもあります。クマよけスプレーの主な成分と効果、種類の違いと選び方について解説します。

クマよけスプレーの主成分は「カプサイシン」。痛み刺激でひるませることが目的

クマよけスプレーの主成分は、唐辛子に含まれる「カプサイシン」です。ここで注意したいのは、「辛み」は味覚ではなく、化学的には刺激(痛み)による反応である点です。「辛味」という表記は実は正しくありません。

激辛料理を食べると、口の中がヒリヒリすると思います。それだけでなく、うっかり唐辛子を触った手で目をこすったり、スープが目に入ったりしてしまうと、非常に強い痛みを感じます。

クマよけスプレーはこの刺激成分を噴射してクマを一時的にひるませ、その場から離れさせることを目的とした製品です。

ヒグマ用スプレーとツキノワグマ用スプレーの違い・効果と注意点

日本では、北海道にはヒグマ、本州以南にはツキノワグマが生息しています。一言でクマといっても種類によって体格も性質も異なるため、それぞれのクマに合わせた専用のスプレーが販売されています。

■ヒグマ用のクマよけスプレーの特徴と効果・注意点
ヒグマは日本にいる陸上動物の中で最大級の生き物で、体重が数百kgになるものもいます。体格が大きいだけでなく、非常に力も強く、どう猛です。そのためヒグマ用の製品は、カプサイシン濃度が高く、油性溶剤が使われることが多いです。

油性のため皮膚や毛に付着すると落ちにくく、命中すれば追い払える効果が高いという特徴があります。しかし誤って自分や同行者にかかると、かかった部位に激痛が走り、水で洗っても簡単には落ちません。使用には十分な注意が必要です。

■ツキノワグマ用のクマよけスプレーの特徴と効果・注意点
ツキノワグマの体重は大きくても100kg程度で、おおむねヒグマより小さいです。そのためカプサイシン濃度がヒグマ用製品よりも低く、威力が抑えられています。また、ほとんどは水性溶剤の製品のため、万が一人にかかっても洗い流しやすく、リスクは相対的に低めです。

ヒグマ生息地域で特に重要な装備選び。地域に合わせて適切な製品選びを

ヒグマがいる北海道でツキノワグマ用スプレーを使っても、十分な効果は期待できません。ヒグマが生息する地域で登山やキャンプなどをする場合は、ヒグマ用スプレーかをしっかり確認した上で、購入・携行することが望ましいでしょう。

北海道以外ではツキノワグマ用で十分な場合が多いため、使用する側の安全面を考えてツキノワグマ用スプレーを選ぶのが無難です。

一方で、クマとの遭遇状況はもちろん、季節や地域ごとに出没状況は変わります。特にリスクが高い場所に行く際は、事前に自治体や山岳ガイドの情報を確認するようにしましょう。

防犯目的の携行は法律に触れる? 護身スプレーとクマよけスプレーは別物

クマよけスプレーは本来、登山やキャンプなどでクマと遭遇した際の緊急用具です。SNS上では、防犯アイテムの1つとして「クマよけスプレーを護身用に携帯するとよい」といった意見を見かけることがありますが、これは誤った考えです。

対人用としては同様の成分の「催涙スプレー」がありますが、濃度や噴射される方式が異なります。

クマよけスプレー自体が銃刀法で規制されているわけではありません。しかし、軽犯罪法の第一条第二項では、「正当な理由がなくて刃物や鉄棒など、他人の命や体に大きな害を与える可能性のある道具を隠して持ち歩くこと」が禁じられています。

そのため、使い方や携帯方法によっては法的責任を問われることがあり、注意が必要です。

誤用によって相手にけがを負わせれば刑事責任が発生しますし、クマが出ない都市部で不必要に携帯・隠匿している場合は軽犯罪法に触れるおそれもあります。

クマよけスプレーは万が一の場合の緊急手段です。正しく選び、使えるかが、クマ遭遇時の生死を分ける可能性もあります。使用時のリスクや注意点をしっかり理解した上で、より適したものを選ぶようにしましょう。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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