3万円でも売れるのはなぜ? 過熱する「ストレートヘア」市場の裏側

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2025年09月20日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

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高額ストレートアイロンの実力

 3万円を超える高額商品にもかかわらず、ツヤのあるストレートヘアへ導くヘアアイロンや縮毛矯正の需要は伸び続けている。


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 ヘアアイロン市場で国内メーカーシェア1位(※)の美容ブランド「ReFa(リファ)」を展開するMTG社(名古屋市)では、「ReFa POWER STRAIGHT IRON PRO(リファパワーストレートアイロン プロ)」(2種、各3万3000円)を2025年4月に発売。初月の売り上げは想定の約10倍となり、たびたび欠品するほどの反響だった。


(※)出典:富士経済「美容&健康家電市場・関連サービストレンドデータ2023-2024」 ヘアアイロンの2022年国内マーケットシェア


 ヘアケア製品に注力するパナソニックでは、ストレートアイロンの最上位モデル「ストレートアイロン ナノケア EH-HN50」(同3万4650円)を2024年4月に発売。美容雑誌などからの評価が高く、髪のうねりやパサつきに悩む40〜50代女性を中心に、順調に売り上げを伸ばしている。


 美容室市場でも、くせ毛などを真っ直ぐにする「縮毛矯正」の需要が拡大。なかでも、従来のアルカリ性の薬剤よりも幅広い髪質に対応しやすい「酸性ストレート」の注目度が上昇しており、3万円前後の高単価で提供する美容室が増えている。髪質改善酸性ストレート専門サロンとして銀座に構える「sins(シンズ)」では、若年層の顧客が増え、予約が取りづらい状況が続いているそうだ。


 なぜ、高額製品やサービスが好調なのか。過熱する「ストレートヘア」市場を取材した。


●ヘアアイロンの性能が飛躍的に進化


 従来のヘアアイロンは、100〜200度の熱によって「ヘアスタイルを作る」ための製品とされていた。しかし、近年はヘアアレンジの性能に加えて、「ツヤのある髪を作る」「強いうねりを真っ直ぐにする」といった高機能の製品が続々と誕生している。


 パナソニックでは、独自の微粒子イオン「ナノイー」よりも水分発生量を18倍高めた「高浸透ナノイー」を2019年に開発。同技術を搭載したヘアドライヤーを同年に発売し、幅広い層から人気を得ている。


 2024年4月には、高浸透ナノイーを初搭載したストレートアイロンも発売。ヒーターには同社最速のセンシング技術を搭載したことで、髪にムラなく熱を伝え、ヒーターの温度低下を自動で防げるように。イオンなしのヘアアイロンと比べて、約1.2倍のツヤやしっとりした質感をかなえるほか、枝毛や切れ毛の発生率も低減するという(同社調べ)。


 ヘアアイロン市場でトップシェアを誇るMTG社も、ストレートアイロンの機能向上に注力する。2025年4月に発売した新製品は、「うねりをワンストロークで整える」として、独自の幅広カーボンレイヤープレートとヒートセンシングを搭載。「水、熱、圧」の3要素をコントロールして、真っ直ぐでツヤのある髪へ導く。従来製品に比べ、うねりやクセの伸びやすさ、ツヤ感、しっとり感が向上し、さらにヘアカラーの色落ちも抑えられるとする。


 そのほかにも、ダイソンでは、風の力で自然なストレートヘアをつくる「Dyson Airstrai(ダイソンエアストレート)ストレイトナー」(希望小売価格4万8799円)を2024年8月に発売。ヤーマンでは、夜に使うことで美髪をかなえる新発想の「ナイトリペアアイロン」(同3万8500円)を2024年5月に発売した。


 高額ストレートアイロンは競争が激化し、戦国時代に突入したとも言える。パナソニックの調査によれば、ヘアアイロンの3カテゴリー(カール、ストレート、両用)のうち、2022〜25年にかけてストレートのみシェアが伸長、ヘアアイロン需要の約6割を占めるまでになったという。


 「特に、1万円以上のストレートアイロン市場が急拡大しています。同市場で1万円以上の製品割合は、2022年度に15%でしたが、直近の2025年度(4〜7月)には24%まで向上しました」(パナソニック くらしアプライアンス社 ビューティ・パーソナルケア事業部 高橋瑠菜氏)


●美容室では3万円の縮毛矯正が人気


 ツヤのあるストレートヘアの需要増は、美容室市場でも同様だ。リクルートの調査研究機関「ホットペッパービューティーアカデミー」による「美容室・理容室の利用に関する実態調査」によれば、女性の1年以内のメニュー利用率がカットやカラーはマイナスになるなか、「縮毛矯正・ストレート」のスコアが3年連続で増加した。


 また、ホットペッパービューティのフリーワード検索ランキング(女性、2025年6月)では、20〜50代までの幅広い年代で「髪質改善」が1位に。「縮毛矯正」と「酸性ストレート」も高い順位となった。


 酸性ストレート専門サロン「sins」を運営するsinsコスメティクス社(東京都中央区)の日野達也社長は、「酸性ストレートの需要は年々高まっている」と話す。


 「当社では、銀座の店舗運営のほか、自社開発した酸性ストレート薬剤のB2B販売やヘアケア商品の販売もしています。創業5期目(2024年8月〜25年7月)の売り上げは、美容室事業が前年比1.2倍の2.1億円、ヘアケア商品・業務用薬剤事業は2.6倍の1.2億円でした。


 美容室では、従来の顧客層である40〜60代に加え、ライトな髪の悩みを持つ20〜30代の来客が増加しました。B2B販売では、これまで個人店が中心でしたが、大手法人の導入が増えたことで売上増となりました」(日野社長)


 従来、縮毛矯正はアルカリ性の薬剤が中心だったが、ブリーチで傷んだ髪やエイジングが進んだ髪などは施術対象外になりやすい。また、刺激により逆に髪質が悪化するなど失敗事例が少なくない。そのため、髪への刺激を抑えて幅広い髪質に対応する「酸性ストレート」への関心が高まり、より安全かつ効果的に髪質を整えたい若年層の来店が増えている。


 「酸性ストレートは事業者側のメリットも多く、客単価の上昇は、美容師の給与改善にもつながります。近年、美容室市場は採用に苦戦しており、美容師の離職防止策として各社が給与を引き上げています。そうした背景もあり、当社の薬剤を採用している美容室の酸性ストレートの平均単価は2万5000円と高く、従来のアルカリ性の縮毛矯正と比べて約2倍の価格で提供している企業もあります」(日野社長)


 sinsでは、3万〜3万8000円(スタイリストによって変動)で酸性ストレートを提供しているが、10月から日野社長の施術を5万円に改定予定だ。


 酸性ストレートは扱いが難しいという課題があるが、sinsでは教育コストを削減するための独自マニュアルを作成し、導入企業に提供。こうした戦略も導入の後押しになっているそうだ。


●なぜ高額でも売れるのか


 なぜ、これほど市場が盛り上がっているのか。取材を通じて見えてきたのは、「ヘアスタイルの多様化」や「髪に対する美意識の向上」だ。


 sinsコスメティクス社の日野社長によれば、近年はハイライト(髪を部分的に明るく染めるデザインカラー)や韓国で流行しているレイヤー(髪に段差をつけるカット技術)など髪型の幅が広がっている。同時に美髪ニーズも高まっているが、技術を進化させなければ顧客満足度を上げられないという。


 「高額な酸性ストレートの導入が増えている背景には、アルカリ性の縮毛矯正ではデザインヘアーに対応できないという側面もあります。自身がカットやカラーを手がけたお客さまに対して、そのデザインを生かす縮毛矯正も提供できれば、客単価も顧客満足度も上がるはずです」(日野社長)


 髪に対する美意識の向上も目覚ましい。MTG BEAUTECH事業本部 マーケティング1部 1課 山野彩佳氏は、ヘアケアカテゴリーの盛り上がりに触れた。


 「当社のヘアケアカテゴリーは、中価格帯の製品(ドライヤーなら4万円前後)を扱っていて、四半期ごとに2桁成長を続けています。当社ではシャワーヘッドや美容機器、スキンケアなど幅広い商材を扱っていますが、ヘアケアカテゴリーが全社の業績を牽引しています」(山野氏)


 同事業本部 商品企画責任者 藤田桃代氏は、次のように語る。


 「当社では、全製品共通のコンセプトとして『テクノロジーでプロの技を再現する』を掲げています。ドライヤーやヘアアイロンは20社以上のトップサロンと共同開発しており、言語化しづらい美容師さんの手や指先の感覚まで製品に反映しています。そうした独自戦略により強いうねりも伸ばせるストレートアイロンを新発売し、売上増につながっていると考えています」(MTG BEAUTECH事業本部 商品企画責任者 藤田桃代氏)


 パナソニックでも、高機能のヘアケア製品全般が伸びているという。


 「2022年9月に発売した高浸透ナノイー搭載の『ドライヤー ナノケア EH-NA0J』(希望小売価格3万3660円)は、ナノケアシリーズで最も売れた機種となっています。そうした実績があり、ヘアアイロンでも高浸透ナノイー搭載の新製品を発売しました。ハイトーンカラーをしている方やうねりが強い方でも、しっとりまとまりの良い仕上がりになる点が魅力としてササっているのは調査でも見えています」(高橋氏)


 近年は、シミ取り、たるみケアなどのレーザー治療や二重まぶた手術といった美容医療の人気が増しているが、それと似た感覚で、ヘアケアへの支出を惜しまないのかもしれないと日野社長は語った。東京商工リサーチによれば、「美容医療」市場は2022〜24年の3年間で約1.5倍に拡大し、以前よりも身近になっている。


 高まり続ける美しい髪への需要。各社の動きを見る限り、さらなる市場の盛り上がりが予想される。


(小林香織、フリーランスライター)



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