AOKIHD副社長に聞く「チェーンビジネスの要点」 地域に最適化した「カセット型DX」とは?

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2025年09月20日 20:20  ITmedia ビジネスオンライン

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インタビューに応じたAOKIホールディングスの照井則男副社長

 AOKIホールディングス(横浜市)は、スーツの「AOKI」を柱とするファッション企業として著名だ。だが、実はその事業領域は多岐にわたる。ブライダルの「アニヴェルセル」、カラオケの「コート・ダジュール」、フィットネスジムの「FiT24」、そして複合カフェ「快活CLUB」など、幅広く展開している。


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 特に快活CLUBは複合カフェ市場において業界最大級の店舗数を誇り、深夜の休憩やテレワークの場として、売上高を伸ばし続けている。運営会社の快活フロンティアの売上高は、約584億円(2020年3月)から約725億円(2025年3月)まで増加した。


 ファッション、エンターテインメント、ブライダルと3業種にわたるチェーンビジネスとして多角化経営を続ける中、同社はいかにして多業種多店舗経営と標準化を実現しているのか。AOKIホールディングスの照井則男副社長に聞いた。


●鍵付き個室が示した新需要 チェーンビジネスの要点とは?


――AOKIホールディングスが快活CLUBなどを多店舗展開していく中で、直面している課題を教えてください。特にデジタル化やセルフシステム導入の関係で考えていることはありますか。


 複合カフェという業態の観点からすると、利用者のニーズはどんどん多様化しています。そのときに、われわれが提供できる「コンテンツ」とは一体何なのか。これを一歩先んじて考えることが、一番難しいと感じています。


 例えば首都圏の店舗では、鍵付き完全個室に対するニーズが非常に高い状況にあります。そこで漫画を読むわけではなく、むしろ「休息を取りたい」、この時期だと「涼を取りたい」といった需要も多い。そうなると、滞在すること自体がひとつのコンテンツになっているわけです。


 従来の発想では、インターネットカフェはコミックやソフトドリンク、あるいはネット動画がコンテンツだと考えていましたが、今では休息やプライベートな環境そのものがコンテンツといえます。そうした発想の転換によって、新しいタイプの店舗づくりを進めています。そしてもう一つ、できるだけスムーズにブースや個室に入りたい、さらには接客なしで利用したいといったニーズも確実に存在します。そうした地域では、セルフ型サービスが一つの解決策になると考えています。


――一方で、接客を求める根強い声も残っているということでしょうか。


 そうですね。特に地方の店舗に目を向けると、むしろ店員とのコミュニケーションを楽しむ利用者も少なくありません。「どう使えばよいですか」と機器の使い方を尋ねられて店員が答えることで、利用者が背中を押してもらえる場面もあります。


 私たちはファッション、エンターテインメント、ブライダルという3事業を展開しており、そこで培ったのがやはり“接客の力”です。だからこそ「全てがセルフでよい」とは思っていません。顧客が迷っているとき、高いレベルのコミュニケーションで支援する環境を提供することは、今後もわれわれの事業において重要だと考えています。


●3事業で磨いた「接客力」という資産


――接客が必要な場面も含めて、セルフ化と両立させる必要があるわけですね。照井副社長は「人がやるべきこと」と「自動化で効率化すべきこと」の線引きをどう考えているのでしょうか。


 私自身これまで、日本マクドナルド、スターバックスジャパンと、チェーンストアでずっと働いてきました。こうしたチェーンビジネスにおいて、IT利用の基本的な考え方は「利用者の目に触れないところでのIT活用」でした。裏側のオペレーションをデジタル化することで利便性を高め、結果的に利用者が快適に体験でき、同時に従業員の生産性も高められる。そういう形が理想だと考えていました。


 したがって、利用者との接点部分は大切にする、そこでの人の力を重視することが望ましいと考えていました。バックヤードではITがしっかり支え、従業員は利用者にしっかり向き合う構図こそが理想だと思っていました。


 しかし、今は状況が大きく進化しています。利用者自身が従業員とのコミュニケーションよりもスピード感を重視し、自分自身でさっと行動を完結できることを求める場面も増えています。そうしたニーズがある店舗では、セルフ化した方が当然に利便性は高まります。


 ただし、それが全ての店舗に当てはまるわけではありません。セルフと接客、それぞれのバランスを店舗や地域ごとにどう最適化するか。そこに現在、最も注力しているところです。


――人による接客は、AOKIグループにとってどういう強みがあるとお考えですか。


 接客に関しては、われわれが自信を持って打ち出せる部分だと思っています。例えば、当社はファッション、エンターテインメント、ブライダルという、3つの異なる業種を展開しています。その中で培われた接客の考え方が、強みだと考えています。


 これはホテルのコンシェルジュサービスを思い浮かべると分かりやすいかもしれません。「今日はどこで食事をするべきか」「観光に行くならどこが良いか」といった内容は、インターネットで調べれば確かに得られます。しかし、コンシェルジュとの会話を通じて提案を受けたり、一人一人の状況に合わせて肌感覚で判断してもらえたりする価値は、ネットでは決して手に入りません。だからこそ、コンシェルジュは存在しているし、その価値が認められている。私はそこに接客の本質があると思っています。


 そうした観点から考えると、AOKIのファッション事業における接客のアプローチと、複合カフェ事業における接客の在り方は、当然異なるはずです。さらに言えば、フィットネス事業の場合、基本的には利用者が自主的にトレーニングをします。しかし、スタッフが「今日は調子どうですか」と一言声をかけるだけで、モチベーションが大きく変わることもあります。


 そう考えると、顧客との接点は、単に自動化・非接触化を進めればよい、という単純な話ではありません。状況や事業特性に応じて、人だからこそできる付加価値を提供することが重要だと考えています。


●機能を組み替えるモジュール発想のDX


――そうすると一方で、省力化や効率化の面はどうでしょうか。どこまで実現できていて、今後の方向性はどこにあるとお考えですか。


 まさに難しいところですが、これは店舗ごとのターゲット設定によって変える必要があります。われわれが決めるというよりも、来店する顧客層によって自然と形が決まってきます。例えばITリテラシーの高い利用者が中心となる都心部の店舗では、デジタル化やセルフシステムをより積極的に導入できます。


 一方で、郊外のロードサイド型店舗では、ファミリー層やシニアの利用者も多く来店します。そうした場所で一律にセルフ化を進めてしまうと、かえって不便になる可能性があります。


 われわれはこのモジュールの考え方を「カセット型」と呼んでいます。つまり、同じシステムでもそのまま全店舗に画一的に導入するのではなく、店舗ごと、エリアごとに必要な機能だけをはめ込むようにして運用する。技術的に言えば、やろうと思えばフルで自動化することも可能ですが、それでは利用者のニーズに必ずしも合致しません。だからこそ、ターゲットや地域特性、利用客の生活スタイルに合わせて柔軟に変えていく方がよいと考えています。


――つまり、技術的には可能でも、あえて全てを自動化せず調整しているということですね。


 その通りです。例えば、都市部の店舗に来る利用者は、ITリテラシーが高くデジタル対応に慣れています。しかし、地方の郊外型店舗では、祖父母と一緒に来る家族など、幅広い層が利用します。そうなると当然ながら求められるサービス形態は違います。そのため、どこまでセルフ化するか、どこまで人の関与を残すかは、その地域ごとの属性を見極めて判断しています。


●業態で変える「標準化」と裁量の配分


――多店舗経営、チェーンストア理論の基本は「標準化」であり、例外をなくして均一化を目指す考え方が強いと思います。一方で、現場に権限を委譲し、現場の競争力が会社の競争力につながる考え方もあります。AOKIグループはどちらかというと「標準化」重視のスタイルでしょうか。


 そうですね。やはりチェーンストアの強みというのは、大きなグループの中でどう運営を最適化するかにあると思います。快活CLUBやコート・ダジュール、FiT24などの業態では、アルバイトスタッフが大きな割合を占めています。一方でファッション事業のAOKIの場合は、正社員が担う権限が多く、店長や社員を中心に運営しています。


 そのため、全てを標準化する単純な発想ではなく、業態によって運営手法は異なるわけです。AOKIでは店舗の意見や判断を尊重する運営を重視していますが、快活CLUBのような複合カフェ事業では、むしろセンターオペレーション型で統一していくことが効率的です。つまり、チェーンだから一律に標準化するモデルではなく、業態によって柔軟に形を変えているわけです。


――なるほど。業態に応じて変えているわけですね。


 その通りです。ITやDXについて言えば、それはあくまで「ツール」なので、標準化できる部分は積極的に共通化していきます。しかし、顧客接点における権限の持たせ方はAOKIと快活CLUBでは全く異なります。来店者の地域密着性が強いかどうかによっても変わるので、一概には標準化できません。利用者がどのように地域と関わっているか、その背景を踏まえて仕組みを考えることが必要だと思います。


――地域密着性という見方では、確かに快活CLUBは旅行先で一度だけ利用することがある一方、AOKIは地元の決まった店舗を使う傾向がありますね。


 まさにそこが大きな違いです。AOKIの場合は地域に密着した存在となり得ますし、なじみの店として繰り返し利用するリピーターも少なくありません。一方で、快活CLUBの場合はむしろ利便性や環境によって利用する傾向が強い。そこが業態ごとの根本的な違いだと思います。


(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)



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