インタビューに答える野口悠紀雄一橋大名誉教授=8月22日、東京都武蔵野市 ―プラザ合意とその後のバブル経済をどう評価するか。
プラザ合意後の円高で輸出企業は大きな影響を受けた。それに対応するために日銀が行った金融緩和がバブルを引き起こしたと言われる。ただし、バブル拡大の背景には1980年代に起きた世界経済の構造変化があった。中国の工業化が始まり、日本の製造業の優位性が崩れ始めた。日本の金融機関は製造業に資金を貸していたが、その需要が減退したため、土地への投機に走った。
―円安政策で製造業を支えようとしたのか。
中国の工業化に対し、日本は古いタイプの製造業から高度なサービス産業に産業構造を変えなければいけなかった。米国経済はIT革命で大きく変わった。しかし日本は中国製品と価格面で競争する道を選び、円安政策を取った。2003年以降、大規模な円売り介入が行われ、自動車など製造業は息を吹き返したが、リーマン・ショックでガクンと落ち込んだ。
―安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の評価は。
リーマン・ショックで外需依存型の経済成長はだめだと分かったにもかかわらず、方向転換できなかった。円安を追求し、企業は技術開発の投資で生産性を上げていく努力を怠った。生産性の上昇を阻害し、日本経済に非常に強い悪影響を及ばした。円安は一時的に痛みを止める麻薬にすぎない。日本は今、先進国の地位から脱落しかかっている。
―物価高騰で実質賃金が上がらない。
政府・日銀が唱える「賃金と物価の好循環」はインチキだ。本来、生産性が上がらなければ賃金は上がらない。賃上げ分を価格転嫁するから物価が上がり、また賃上げしないといけないという「悪循環」だ。