政府がWeb3.0のスタートアップ支援と暗号資産普及を本格化させようとしている。
8月25日に都内で開かれた「WebX 2025」に登壇した加藤勝信財務大臣は、投資家保護とイノベーションの両立を掲げ、2025年資金決済法改正のポイントを説明。改正の柱として、暗号資産交換業者に対する資産の国内保有命令や、新たな仲介業の創設を挙げた。法定通貨に価値を連動させて価格を安定させた暗号資産「信託型ステーブルコイン」の運用も柔軟化する方針だ。
暗号資産普及に関しては、暗号資産取引にかかる課税の見直しを発表。現在は総合課税として最大55%の税率が適用されている暗号資産を、令和7年度与党税制改正大綱に基づき、有価証券と同等の分離課税20%への見直しを検討する。一定の暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」として位置付け、取引業者による税務当局への報告義務整備を進める。
日本政府は今後、どのようにWeb3.0を国際競争力の鍵としていくのか。加藤勝信財務大臣が、財務省・金融庁としての戦略を語った。
|
|
●政府の暗号資産規制 今後の方向性は?
政府は、暗号資産を巡る急速な技術革新と市場拡大が金融システムにもたらす影響を正面から捉え、国際連携と国内制度の整備を段階的に進めてきた。2015年6月のG7エルマウ・サミット首脳宣言では、仮想通貨を含む資金移動の透明性を高める追加的行動に合意。これを受けて2016年に日本の資金決済法を改正し、2017年4月に世界に先駆けて暗号資産交換業者の登録制度を施行した。
この制度は、口座開設時の本人確認や取引記録の保存を義務付け、マネーロンダリング・テロ資金供与対策を金融機関と同等に求めた点で画期的だった。さらに顧客保護を徹底するため、システム障害時の安全対策や利用者資産の分別管理も法定化し、暗号資産市場に一定の信頼をもたらした。
しかし2018年1月に発生したコインチェックのNEM約580億円相当の不正流出事件をはじめとする大規模流出事件、そして投機的取引の過熱が、制度の抜け穴を露呈した。これを受け政府は2019年に再度、資金決済法などを改正。2020年5月に「仮想通貨」という呼称を「暗号資産」に変更した。同時に、顧客預り資産の優先返還ルール、暗号資産を原資産とするデリバティブ取引の規制網への編入、証拠金取引のレバレッジ規制なども導入した。交換業者の内部管理と財務健全性を強化し、破綻時の利用者保護を制度面で担保した。
加藤財務大臣は、「金融はテクノロジーと切っても切り離せない。ブロックチェーンやAIなど先端技術が社会全体のデジタル化を促し、金融もその渦中にある」と指摘。政府としては、暗号資産・ステーブルコインを巡る国際的な議論を踏まえ、国内ルールを機動的にアップデートする方針を明確にした。
|
|
特に、急拡大するステーブルコインについては、発行体に対し資産裏付けや償還義務を課す法的枠組みを検討中だ。加藤財務大臣は、「利用者が安心してデジタル資産を活用できる環境を整えることが、革新的サービス創出の前提条件」と強調した。
政府は今後、官民連携を通じてブロックチェーンの分散性とトークン化がもたらす新たな価値移転モデルを後押しする構えだ。金融と非金融の垣根を越えたサービスには、中小企業の資金調達効率化や地域経済の活性化など多面的な効果に期待が集まる。
一方で国際的な資金洗浄対策や消費者保護の観点からは、海外当局との協調が不可欠だ。日本政府は、政府間機関「FATF」(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)のルールに沿った暗号資産の送金記録状況を点検し、違反事業者には業務改善命令や登録取り消しを含む厳格な対応を取る姿勢を示している。
●暗号資産・トークン時代を見据えた政府の視野
国内では暗号資産の投資環境整備が進み、交換業者の口座数は約1200万に到達した。政府は「分散投資の新たな選択肢」と位置付け、市場のさらなる発展を見込む。一方で暗号資産は価格変動が激しく、国民の資産保護が課題となる。加藤財務大臣は「適切なルールづくりが市場育成と保護の両立に不可欠」と強調した。
|
|
リアル資産のトークン化も広がる。不動産をはじめ、美術品や日本酒など多様なユースケースが登場し、セキュリティ・トークン(デジタル証券)の発行残高は1700億円を超えた。資金調達の手段が増え、金融の新たなフロンティアが開かれている。
決済領域ではステーブルコインの動きが活発だ。3月には米ドル建てコインの取り扱いが始まり、8月には新たに日本円連動型の発行事業者を登録した。今後は信託銀行など多様な主体が参入し、NFT取引の円滑化にとどまらず、企業グループ内の資金移動や国際貿易決済など幅広い用途に期待が集まる。加藤財務大臣は「企業間決済の効率化は日本経済の競争力向上につながる」と語った。
こうした動向を踏まえ、政府は2つの方針を掲げている。1つ目が国際競争力の強化だ。日本は世界に先駆けて暗号資産とステーブルコインの規制を整備し、市場の健全性を確保してきた。一方、米国では下院が包括的な関連法案を審議。欧州やシンガポールも制度整備を加速する。各国が総合戦略として取り組む中、日本もビジネス環境の魅力度を高める必要がある。
2つ目が、成熟期を見据えた安全網づくりだ。技術の進展と利用者拡大に伴い、サイバー攻撃などのリスクは複雑化する。国民資産の流出は市場への信頼を根底から揺るがすだけに、政府は事業者のガバナンス強化や監視体制の精緻化を急ぐ。加藤財務大臣は「一般利用が進むほど安心して使える仕組みが不可欠」と訴える。
●暗号資産の健全な成長へ 規制と運用の両輪を加速
暗号資産市場の拡大に伴い、利用者保護と国際競争力を両立させる制度整備が急務となっている。政府は2025年資金決済法改正を軸に、交換業者への国内保有義務や仲介業の新設など、10年に及ぶ規制強化を重ねてきた。2024年の大手取引所FTXの破綻において、利用者資産を早期に返還した事例は、既存制度が一定の実効性を持つことを示した。だが、依然として課題は山積している。
資金決済法改正の柱は、ステーブルコインの資産運用に柔軟性を持たせる点だ。従来は発行額と同額を、要求払預金で保有することを義務付けていた。6月の改正により一定条件下で国債運用を認める方針を示した。
これにより価値安定を担保しつつ、発行体はより効率的な資金運用が可能となる。米国で議論が進む短期米国債活用の動きとも歩調を合わせ、国際競争力を高める狙いがある。加藤財務大臣は「コストではあるが未来への投資だ」と述べ、規制を成長戦略の一部と位置付ける姿勢を強調する。
もっとも、過剰な規制は国内ビジネスを失速させ、事業者や利用者を海外へ流出させかねない。政府は「利用者保護とイノベーション促進のバランス」を掲げ、省令策定を急ぎ2026年6月の施行を目指す。
同時に金融庁は、討議資料を通じ、暗号資産を巡る4つの視点(情報開示の充実、利用者保護、健全な取引環境、価格形成の公正性)を提示。発行者・交換業者に対しては正確な情報開示を義務付け、無登録業者による違法勧誘や詐欺的セミナーに対する監視を強める方針だ。
特にインサイダー取引規制の強化は、喫緊の課題だ。株式市場と類似する構造を持ちながら、暗号資産は依然として制度の抜け穴がある。金融商品取引法で培った知見を応用しつつ、暗号資産固有の技術的特性を踏まえたルール作りが必要になる。
●暗号資産「20%分離課税化」の展望は?
政府は暗号資産を巡る制度見直しを急いでいる。金融庁が設置したワーキンググループは、取引を監督してきた既存の金融・証券の枠組みを「活用することも選択肢」と位置付け、業界団体へのヒアリングを重ねてきた。議論の土台となるディスカッションペーパーは既に取りまとめ段階に入り、国外の動向も参照しながら早期に結論を得る構えだ。
焦点の一つは課税にある。現状、上場株などは20%の分離課税で済む。一方、暗号資産の取引益は総合課税となり、最大55%が課される。政府・与党は2025年度税制改正大綱で「国民の資産形成に資する金融商品」として暗号資産を整理。他の金融商品と同等の保護措置や、取引業者による税務当局への報告義務などを整える前提で課税の見直しを検討すると明記した。加藤財務大臣は「制度改正の前提条件を金融庁で具体化し、必要な対応を検討する」と説明。速やかな環境整備を進める考えを示した。
こうした技術革新への対応力を高めるには、官民の連携が欠かせない。金融庁内には新規事業者が法令解釈を一元的に相談できる「サポートデスク」や、前例のない実証実験を支援する「フィンテック実証実験ハブ」を設けており、既に10件のブロックチェーンに関する実証を後押ししてきた。
さらに、ブロックチェーンと親和性の高いAI分野にも踏み込む。6月に発足した「AI官民フォーラム」では金融機関やモデル開発者が活用事例や課題を共有し、規制適用の整理を進めている。政府はこうした対話を通じて、事業者が安心して挑戦できる環境を整備する方針だ。
暗号資産とAIという新技術がもたらす変化は激しい。政府は利用者保護を大前提としつつ、イノベーションの芽を摘まないバランスを探る。加藤財務大臣は「新たな経済の原動力は企業と投資家の挑戦だ。政府は行動を最大限サポートし、環境を整えていく」と強調。官民が歩調を合わせ、透明で公正なルールと実証の場を同時に用意できるかが、Web3.0の進化の鍵を握る。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。
「資さんうどん」関東で行列なぜ(写真:ITmedia ビジネスオンライン)136
「資さんうどん」関東で行列なぜ(写真:ITmedia ビジネスオンライン)136