1958年に創業し、紳士服を中心とするファッション事業を中核に成長してきたAOKIホールディングス。1990年代以降はカラオケ店のコート・ダジュールや複合カフェの快活CLUB、フィットネスジムのFiT24を核とするエンターテインメント事業、さらにアニヴェルセルなどブライダル事業の3業種にわたる多角化経営を進めている。
この背景には、少子高齢化やライフスタイルの変化に対応するため、事業構造を一業態依存から脱却させ、複数市場で安定的な収益基盤を築く狙いがある。さらにその特徴は、単に個別に事業を拡大しているだけでなく、グループ内の人材を業種横断的に活用できる体制を整備している点にある。
これにより、ファッション店舗の接客経験を持つ社員が快活CLUBで顧客対応を学び、あるいはブライダル事業で培ったサービス感覚をファッション店舗に持ち込むことが可能だ。人の流動性を仕組み化することで、接客力やサービス水準をグループ全体として向上させている。
この基盤を支えているのがDXだ。3業種にわたる人事交流をITによって、いかにして実現しているのか。AOKIHD副社長に聞く「チェーンビジネスの要点」 地域に最適化した「カセット型DX」とは?に続き、AOKIホールディングスの照井則男副社長に聞いた。
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●越境で育つ人材 DXで支える現場
――スーツのAOKIと快活CLUBとの間など、グループ内で業種を越え人材が行き来するケースがあると聞きました。こうした人事交流はグループとして、どんな位置づけなのでしょうか。
社員の人事交流については、われわれの強みの一つと考えています。顧客との接点は業態によって大きく異なり、場合によっては「ぐいぐい接客されると嫌だ」という方もいれば、「きちんと声をかけてもらいたい」という方もいます。その感覚を理解するのは、一業態だけを経験しているだけでは難しい部分があります。
だからこそ、異なる業態を経験させることによって、顧客接点の多様性を学んでもらう。それが社員育成の大きなポイントです。快活CLUB、フィットネス、ファッションといった複数の業態を横断して経験すれば、顧客対応における“さじ加減”を自然と身につけられる。これこそがわれわれのスタイルです。
――例えばニトリグループでは「配転教育」という人材育成をしていますが、それに近い施策のようにようにも思います。
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そうですね。ニトリさんも物流からITまで幅広く経験させる仕組みを持っています。われわれも同様に、社員が異なる領域を横断して経験することを通じて成長できるようにしています。上層部まで含めて幅広い分野を経験していることで、組織としての強さにもつながると思います。
――社員育成の流れとしては、一通りの業態を経験してから本格的に役職を担う、という形になるわけでしょうか。
そうです。ただ、その際に重要になってくるのがITやDXの仕組みです。人の成長を支えるには、それを可能にするサービス基盤をバックヤードで整えておく必要があります。
例えばレジ業務であっても、違う業態から入ったスタッフがすぐ対応できるようにしなくてはいけません。また、ファッション事業では店員が持っているスマホ型接客用端末があれば、過去の購入履歴からサイズや好みが分かり、それをベースに接客できるようにしています。
スーツは特に販売が難しい商品ですが、この仕組みを導入すれば、経験の浅いスタッフでも決済までスムーズに接客を進められます。だからこそ、快活CLUBのスタッフがAOKIの店舗に入っても、一定レベルの接客を可能とする体制を作り上げています。
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●24時間と日中営業をまたぐ、勤怠の自動反映基盤
――なるほど。スーツ販売は単価も高く、簡単には売れませんから仕組み化が必要ですよね。
そうです。そのように、社員が横断的に動ける環境を仕組み化していくことが非常に重要です。その際、接客用のツールだけでなく、労務管理の仕組みも不可欠になります。例えば24時間営業の快活CLUBと、営業時間が限られているAOKIのファッション事業では、勤務体系が全く違います。だからこそ労働時間や休日、深夜勤務の手当などを含めて、環境の違いが給与に正しく反映されるよう、人事システムでサポートしているのです。
――つまり、各業態の働き方の違いをシステム面で吸収し統一できるようにしているわけですね。
時間帯や休日の考え方は業態によって異なりますが、それを自動的に反映できるような仕組みにしています。これはAOKIホールディングスで構築したシステムをグループ全体に標準化することで、どの業態でも勤務時間や勤務形態が正しく給与に反映される環境を整えています。
――そのシステムは自社で開発したのですか。
基本は市販のパッケージを利用しています。ただし、そのままでは使えない部分も多いので、かなり作り込んでカスタマイズし、グループ全体に展開しました。業態が複数ある以上、自社だけでなく他の業界でも活用できるソリューションにすることを念頭におき、パッケージベンダーとも協力しながら最適化を進めています。
――ということは、システム開発にも相当な時間をかけたのですね。
はい。まず新型コロナウイルス流行前にAOKIのファッション事業で導入を始め、その後グループ全体に共同基盤として広げていきました。本格的に全社横断的に稼働したのは、2023年の夏ごろです。かなりの試行錯誤を経て、形にしてきた経緯があります。
●応援も呼び戻しも迅速に シフト最適化の効果
――導入の効果はどうでしたか。
非常に大きな効果がありました。これまでは50人規模の従業員の勤務時間やシフトを人が手作業で管理していたのですが、今ではシステムによって一括で管理できるようになりました。必要に応じて大人数をスムーズに配置替えしたり、AOKIの人材を快活CLUBに応援に出したりすることが可能になっています。人事部門や現場の負担が大幅に軽減され、結果として組織全体の生産性が大きく改善したと言えると思います。
――システム導入によって、人員を繁忙期・閑散期に合わせて柔軟に調整できるようになったということですね。
そうですね。ただ、近年はファッション事業なども含めて、繁忙期の概念が少しずつ変わってきているのが実情です。気候変動により、以前と同じ季節の需要の波が読みにくくなってきています。
例えば夏物の衣服が売れる時期が年々長くなり、10月に入ってもなお夏物が動くことがあります。そうなると、本来は夏の繁忙期で増やした人員を元の所属に戻したいタイミングであっても、戻せずに追加でリソースを投入せざるを得なくなる場合があります。その点で、従来の四季に基づいた売り場づくりや人員シフトの考え方が崩れ始めており、より複雑な人材コントロールを迫られている実情もあります。
――確かに気候変動によって季節感が緩んでいますね。スーツなども需要期のズレが影響しているのでしょうか。
そうです。本来9月の後半になれば秋冬物のスーツ需要が高まるはずですが、気温が下がらず残暑が続くと、夏物の需要が残ります。その一方で、ファッション部門は秋物を売り出したい。つまり、エンターテインメント系の快活CLUB事業に人員を応援に出していたとしても、ファッションの需要が立ち上がればすぐに呼び戻さなければなりません。
そうしたジレンマが強まっていて、従来よりも難しい人員コントロールを迫られています。それを支えているのがこの勤怠システムです。各業態に適した人材シフトを可能にする基盤があることで、柔軟な対応が実現できています。
(河嶌太郎、アイティメディア今野大一)
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