訓練の合間に戯れる、警視庁鑑識課警察犬係の立石彩水巡査長とシェパードのモニ=8月29日、東京都東大和市 嗅覚などを生かし、犯罪捜査や行方不明者の捜索に挑む警察犬。この夏、東京都東大和市の警視庁の訓練所で、真面目で内気な新米ハンドラーと臆病な性格の幼いシェパードがペアを組み、訓練を始めた。「現場に出て都民の役に立ちたい」。検定合格を目指し、日夜訓練に励む。
「走れ!」「遅いよ、もう1回!」。8月下旬、訓練所に同庁鑑識課の流茂紀警部補(54)の声が響いた。警察犬係に通算15年以上在籍し、7頭もの犬を育ててきたベテラン。指導している相手は、昨年11月に配属されたばかりの立石彩水巡査長(30)と1歳7カ月のメスのジャーマンシェパード「モニ(フサフサ号)」だ。
幼少期から犬好きだったという立石巡査長。こつこつためたお年玉でトイプードルを家に迎えたのは9歳の時だった。大学卒業後、「犬と一緒に働きたい」と警視庁に入り、約6年間の警察署勤務を経てようやく、念願だった警察犬係に配属された。先輩たちから愛され、「未来のエース」と期待される存在だ。
立石さんらは今年2月、将来の警察犬を探すためにブリーダーの元を訪れ、モニと出会った。訓練士の後ろに隠れているような、臆病な性格だった。6月下旬、訓練所に来て最初の1週間は犬舎から出ず、立石巡査長が近づくと逃げてしまうことも。だが徐々に距離は縮まり、2カ月後には姿を目で追い、自ら寄って来るようになった。
立石巡査長はモニと関係を深めるため、投げたボールを取りに行かせたり、引っ張り合ったりする遊びを訓練に取り入れている。楽しませてやる気を引き出し、ボールへの執着心を高めて、いずれ取り組む捜索訓練などへの意欲を育むのが狙いだ。
だが、犬を全力で楽しませることは容易ではない。立石巡査長が汗を流しながら訓練場内を駆け回り、懸命に「こっち来い」「いいよ!」「よしよし」などと声を掛けても、モニの反応は時に鈍い。立石巡査長の号令や動きが止まる一瞬の隙に、飽きたようなしぐさを見せることもあった。訓練後、流警部補は「モニが全力疾走しなかった」と、ハンドラーとしての立石巡査長の経験不足を指摘。「もっと大げさにモニを褒めて。犬は褒められなければ、自分で遊ぶ方が楽しいと思ってしまう」とも語った。
立石巡査長も自らの課題は理解している。「褒めているつもりでも伝わらない。モニがもっと楽しめる訓練を研究しないと」。目標はモニと現場に出て警察活動の役に立つことと、モニが楽しく働ける環境をつくることだ。「まずは私自身が楽しめるよう意識して、日々の訓練に励みます」とはにかんだ。
時事通信社は立石巡査長とモニのペアによる挑戦に密着取材し、不定期で連載します。

指導する警視庁鑑識課警察犬係の流茂紀警部補=8月29日、東京都東大和市

訓練の一環でボール遊びをする警視庁鑑識課警察犬係の立石彩水巡査長とシェパードのモニ=8月29日、東京都東大和市

インタビューに応じる警視庁鑑識課警察犬係の立石彩水巡査長=8月29日、東京都東大和市

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