
夫への不信感
「夫は元カノと平気で連絡をとるタイプなんです。そういう人だと知らなかったから、びっくりしたし、今でも疑惑は消えていません」ユイさん(40歳)は複雑な表情でそう言う。7年前に、仕事関係で知り合った2歳年上の彼と結婚。友達のように何でも気軽に話せる彼は、社交的で友人も多く、ユイさんの世界も広がったという。
二人の間に産まれた双子の息子たちは今、5歳となった。夫は「子どもなんて好きなように遊ばせるのが一番」という教育方針だが、私立の一貫校で育ったユイさんは、公立小学校より私立を目指していた。
「子どもたちが1歳になる前から英才教育の塾に通わせていました。早くから脳を鍛えなければと思って。夫は大反対だったけど、私の方が子どもたちと一緒にいる時間が長いから、けっこう詰め込みましたね。子どものためだからと思ってた」
浮気なんて考えていない
子どもたちが3歳になったころ、夫が「子どもの英才教育に詳しい人に、1度話を聞いてみよう」と言いだした。夫も教育に目覚めてくれたのかと喜んで会いに行ったユイさんだったが、その女性は「こんな小さい子に詰め込むことに意味はない。
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夫を問い詰めると、その女性はなんと夫の元カノ。もちろん教育に携わっている専門家ではあったのだが、わざわざ妻に元カノを会わせる夫の無神経さに驚いた。夫がそのことについてほとんど気にしていないことに、さらにビックリしたという。
「自分が一番信頼している教育関係者だからって。元カノがどうこうって、どうでもいいんじゃね、という感じでした。彼女も彼女ですよね。私はあなたの非常識さにびっくりしたと夫に言ってやりました。
実家に帰るレベルの話だよと言ったら、夫は『今さらどうこうなる関係でもない、友達だよ。きみがどうして怒っているのか分からない。僕は彼女を信頼してる。何がいけないの?』って。結婚した人を間違えたかもと思いました」
そのショックは今も抱えているというユイさん。夫の両親に話したこともあるのだが、彼らも「ああ、彼女のことは知ってる。いい人だったよね」と“あさって”の反応だった。
一般常識はあるのに……
「夫は子どもたちに対して、しつけには厳しい。例えば公共の場でゴミを捨てるなとか、電車の中で騒ぐなとか。常日頃から言っていますし、思いがけなく子どもたちが電車の中で大きな声を出したときは、『しっ』と叱ってから、すぐ次の駅で降りる。そしてホームで懇々と言って聞かせる。その場で静かに、何がいけないのかを言い聞かせるんです。時間がかかるし、子どもがぐずることもあるし、私なんか『とにかく黙って』と怒りまくってしまいますが、夫はとにかく『話す』が基本。
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その一方で、勉強なんてどうでもいいんだよ、子どもたちには好きなことを見つけてほしいと、ユイさんからみれば「きれいごと」を言う。元カノに平気で連絡をとったり、現実社会からはじかれそうな理想論ばかり言う夫の心情が彼女には分からないのだという。
「夫婦でもよく話しますが、どうも夫の言動には一貫性があるようでない気がして。夫のあまりの反対に、私立小学校受験は諦めましたが、中学受験は諦めたくない。
夫は『きみが諦めるとか諦めないとか言うのは変だよ。息子たちの人生なんだから』と言うけど、子どもたちがどういう人生を歩むか、その土台を作ってやるのが親でしょう?」
誰もが「いい夫、いい父親」と言うけれど
ユイさんは話しながら、少しずつ激していく。常に「もっと冷静に話して」と夫に言われることも癪にさわると彼女はつぶやいた。「結局、夫はどこかで私を下に見ているような気がする。あるとき義両親にそう言ったら、『そんなことあるわけないでしょう』と大笑いされてしまいました。近所のママ友たちにもうちの夫、すごく人気なんです。
『考え方が柔軟でいいわよね』って。私が妻を下に見ていると言ったら、あの人に限ってそんなことはないとみんなが言う。最近では実母までもが、『あんたはいい人と結婚したね』って。なんだか私の方が混乱してきてしまって」
誰もが「いい夫、いい父親」だと思っても、共に暮らす妻にとっては非現実的な側面ばかりがクローズアップされてしまうのかもしれない。ユイさんも、少しそこに気づいているようだ。
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亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))