RIZINが名古屋IGアリーナで「1万7000人」興行 榊原代表に聞く協業拡大の狙い

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2025年09月27日 11:01  ITmedia ビジネスオンライン

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広報の横島加奈さん(左)と榊原信行代表

 格闘技イベント「RIZIN」を運営するドリームファクトリーワールドワイド(東京都港区)は9月28日、名古屋市で「RIZIN.51」を開催する。同社が近年注力する地方興行開催の一環で、7月に北区・名城公園に完成したばかりの「IGアリーナ」で開く。IGアリーナは収容人数1万7000人で、地方開催としては異例の大規模開催となる。


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 名古屋大会に合わせた物販や、公開練習や前夜祭といったイベントを実施し、特に地域外からの来場者に対して市内回遊と滞在型消費を生む施策も積極的に実施しているのが特徴だ。


 RIZINの榊原信行代表は愛知県出身。地元開催ということもあり、思い入れも強いようだ。地方開催の意義について、榊原代表と広報担当の横島加奈さんにインタビューした。


●名古屋で実現した大規模開催 地域振興の意味は?


 RIZIN名古屋大会であるRIZIN.51は、収容人数1万7000人のIGアリーナという大規模会場での開催となる。この背景には、バスケットボールのBリーグの普及によって新しいアリーナ施設が全国各地に作られていることがある(関連記事【Bリーグ普及が生んだ「RIZIN」の地方進出 榊原CEOに聞く札幌大会開催の意義】)。


 9月14日には同アリーナで「NTTドコモ Presents Lemino BOXING トリプル世界タイトルマッチ 井上尚弥 vs ムロジョン・アフマダリエフ」も開催された。海外を除けば首都圏以外で初の井上尚弥の世界戦だったこともあり、チケットの一般販売はわずか10分で完売したという。アリーナ建設ラッシュは、確実に地方に経済的な恩恵を与えている。


 RIZINについていえば、これまで名古屋大会の会場は日本ガイシホールやドルフィンズアリーナ(愛知県体育館)で開催することが多く、この会場の定員は6000〜8000人規模だった。一方のIGアリーナは7月にできたばかりの新会場というだけでなく、キャパシティが一気に拡大した形になる。


 榊原代表は当初、名古屋でこれほどの規模の会場が満員になるかどうか不安もあったという。「正直言って、IGアリーナが満員になるのかどうか不安もありました。ただ、せっかくこの規模の新しい施設ができたのだから、挑戦しない手はないと思ったんです。自分のふるさとでもありますし」と振り返る。


 だが、実際にチケット販売が始まると反応は上々で、既に追加席の発売に踏み切っているという。ステージサイド席という新たな席を設定して販売しており、榊原代表は「今のペースでいけば完売は必至だと思います」と手応えを語る。


 RIZINの地方開催については、単なる興行の拡大を超えた意義を見いだしている。「RIZINというコンテンツのコンセプトはもともと『日本発世界へ』。つまりRIZINは、日本と世界がつながる舞台であると同時に、日本の地方を盛り上げていくものだと考えています。現RIZINフェザー級王者で、すでにキルギスでは国民的英雄となったラジャブアリ・シェイドゥラエフ選手の試合を名古屋で見られることは、本当に稀有なことですし、それこそが地方創生につながるのではないでしょうか」と胸を張る。


 地元・名古屋での開催には特別な思い入れもあるようだ。東海テレビが入る「テレピア」という建物周辺には、榊原代表が東海テレビ事業の社員だった時代の記憶が詰まっており、「すごく懐かしい気持ちになります。私が23歳の当時は、毎日のようにここに通っていました。今でもRIZINのイベントでこの近くに来ると若い頃の記憶が鮮明に蘇ります」と故郷への愛着を話した。


●名古屋大会で広がる協業 ジェリービーンズと361°の参画


 名古屋大会では、メディア展開とスポンサー戦略の両面で新たな取り組みをしている。放送面では、榊原代表の東海テレビ事業社員時代の経験を生かし、独立系放送局との連携も強化した。


 特に三重テレビとは長年にわたって良好な関係を築いており、今回の名古屋大会も地上波で放送する。さらに兵庫のサンテレビジョン、テレビ埼玉、千葉テレビ、TOKYO MXといった独立系の放送局とアライアンスを組み、地方への発信体制を整えた。


 一方で、スポーツ業界全体を見ると、配信プラットフォームの影響力が急速に拡大している。WORLD BASEBALL CLASSIC 2026(WBC)において、米Netflixが“150億円前後の”配信権料を支払ったのではないかと報じられたことは、記憶に新しい。榊原代表は「あの金額を今の地上波放送局が出せるのかといえば、現実的には難しいかもしれません」と配信時代の実情について話す。しかし同時に、経営戦略としては「RIZINのようなコンテンツを新しい層に広めていく、認知を広げていく役割を担うのはやはり地上波。無料で届けることで潜在的なファンを呼び込む力は大きく、それを軽視してはいけない」と地上波で放送することの意義を強調した。


 スポンサー面では、アパレル事業などを展開する東証グロース上場のジェリービーンズグループ(東京都台東区)との協業を、名古屋大会から本格化させている。スポーツとファッションを融合した新しいブランド体験の創出を目的に、戦略的パートナーシップを締結した。RIZINが持つ熱量の高いファンコミュニティと、ジェリービーンズグループの持つトレンド発信力・デザイン力を組み合わせることで、これまでにない顧客体験の提供を目指すという。


 同社に加え、中国の大手スポーツシューズメーカー「361°」とも新たにスポンサー契約を締結した。361°は日本での知名度はまだ低いものの、中国やアジア全域では非常に有名で、バスケットのNBAスター選手を起用したCMも展開しているという。2026年に名古屋で開かれる2026年アジア競技大会でもオフィシャルスポンサーとして参加予定で、榊原代表は「一気に日本でも名前が広がっていくでしょう」と展望を語った。


●PPV10万超と登録137万人 国内主要スポーツ規模を示す根拠


 RIZINのスポンサー戦略は、単なる興行の支援を超えた企業同士の協業へと発展している。今回の名古屋大会では、ジェリービーンズグループが権利を持つ韓国発の人気アイスクリームを会場で販売するなど、新しいカルチャーの発信拠点としての役割も担う。榊原代表は「RIZINは興行だけでなく企業とのコラボレーションの場としても機能します。イベントを単なる格闘技の枠にとどめず、企業のブランドや新しいカルチャーを広める場にしていきたい」と展望を語る。


 こうしたスポンサー企業にとってRIZINとの協業は、IR効果と社会的発信力の両面でメリットがある。「RIZINと組むことによってスポンサー企業もIR効果を得られますし、RIZINとコラボするほどのブランドだという社会的発信力にもつながります」と榊原代表は説明した。


 RIZINの影響力を示す具体的な数字として、有料課金視聴者数を現すPPV(ペイ・パー・ビュー)は近年、各大会の平均で10万件を超え、YouTube登録者数は137万人に達している。この規模感について榊原代表は、他のスポーツコンテンツとの比較で説明する。


 「今年大旋風を巻き起こした阪神タイガースの公式チャンネルでさえ、およそ60万人弱なんです。それに対して、RIZINは137万人ですから、どれだけ多くの人たちに支持されているかが分かると思います」


 国内スポーツ団体のトップであるパ・リーグTVの登録者は156万人ではあるものの、これは6球団を束ねたチャンネルだ。Jリーグや読売ジャイアンツ、新日本プロレスを上回る登録者を擁するRIZINは「日本を代表するスポーツコンテンツの一つであることを示している」と自信を見せた。


 選手個人の発信力の強さも、相乗効果を生んでいる。RIZINにも出場する格闘家の朝倉未来選手個人のYouTubeチャンネルは、約350万人の登録者を抱えている。「RIZINの137万人に加えて、選手たち自身がYouTubeやSNSで積極的に発信していることで、相乗効果として知名度が大きく拡大しています」と榊原代表は話す。


 実際に地方を訪れると、想像以上の認知度の高さを実感するという。子どもたちも榊原代表を見ると「あ、YouTubeに出ている人だ」とすぐに認識する。「これからもファンの皆さんが熱狂できるものを提供し続けなければならないと、あらためて思いますね」と責任を感じるようだ。


●10周年施策で新規層が流入 スタンプラリー起点の子ども・女性ファン拡大


 RIZIN10周年を機に実施しているスタンプラリー企画は、新たなファン層の開拓に効果を発揮している。会場での大会観戦で5ポイント、前夜祭や公開練習などの公式イベント参加で1ポイントを付与し、貯まったポイントに応じて特製Tシャツやパスケース、タオルなどの記念グッズと交換できる仕組みだ。


 榊原代表は、次代を担う子どものファン層拡大を実感していると話す。「圧倒的に子どもたちのファンが増えている実感があります。それだけではなく、競技人口そのものが拡大しているんです」と語る。実際に選手からは、大会翌週にジムへの新規入会者が増えるという報告も聞いているという。


 格闘技の参入障壁の低さについて榊原代表は「格闘技はサッカーや野球に比べて初期投資が少なく、2人いれば練習も成り立ちます。場所も取らないので、始めやすいんですね」と説明した。この特性が、世界的な競技人口拡大の要因だと分析している。


 名古屋大会では、地域文化との連携も重視している。YouTubeやXでは八丁味噌を象徴とした名古屋の食文化と、格闘技イベントを組み合わせた企画も展開予定だ。「名古屋の食文化を語ると、味噌カツや味噌おでん、味噌串カツも全て八丁味噌がベースになっています」と話す。特に真っ黒な味噌おでんや、おでん屋発祥の串カツなど、背景のある食文化と合わせた格闘技の発信について「とても意義深いこと」と、その意義を強調している。RIZINの地方大会では、グルメなど、その土地独自の文化を発信することで、地域への還元も狙う。


●RIZINガールから広報へ 地方創生の最前線を担う新戦力


 RIZIN地方大会で、ご当地グルメなど地域の魅力を発信しているのが、総フォロワー10万人達成を目指して奮闘中の広報、横島加奈さんだ。横島さんは、RIZINを盛り上げる「RIZINガール」として2021年から2022年にかけて活動し、それまで12年間続けていたアイドル活動を休止。2024年8月にドリームファクトリーワールドワイドに広報として入社した。


 横島さんは、「全国的にもRIZINは有名なんだと実感しています。地方に行く先々で『来てくれてありがとう』というファンの方の声を聞くことができ、その度に本当に足を運んでよかったなと思いますね」と、地方ファンとの交流を振り返る。今回の名古屋の合同公開練習イベントでも多くの参加者から声を掛けられ、横島さんの写真入りのカードを配っていた。途中で枚数が足りなくなり、全ての人には渡せていなかったほどだ。


 広報に転身したきっかけも、RIZINの社会貢献に対する考え方が決め手だったという。


 「RIZINの興行に帯同し、地方で極上のエンターテインメントを展開する様子を見て、私もこの世界に携わりたいと思ったことがきっかけでした。今ではRIZINの一員として、日本全国を盛り上げていきたいと日々、頑張っています」(横島さん)


 横島さんは名古屋大会でもYouTubeやXなどで、地域を代表するご当地グルメとして、味噌煮込みうどんの店舗をPRもする。選手いきつけのお店を訪ねてRIZINのポスターを貼ってもらうなどして宣伝することで、他の地方からの来訪者の回遊性向上にも一役買っている。6月に札幌市で開催した「RIZIN LANDMARK 11 in SAPPORO」の前にも多くの飲食店を訪れたり、街中でポスターを配ったりして大会をアピールしていた。その様子をYouTubeで発信することによって、視聴者の熱量向上も狙うのである。


 実は、地方興行におけるこうした食のPRは、アイドルのコンサートや音楽ライブでは常套手段だ。公演前にSNSなどでオススメの店を名指しで紹介したり、公演中に演者がご当地グルメに直接触れたりすることもある。


 だが、公演中トークする場が限られる格闘技では、選手自ら食の情報発信することが難しい。にもかかわらず、格闘技でも同様の施策を広報がわざわざ担っているあたり、RIZINの意義として地方創生を重視している点がうかがえる。


 筆者は最高のコンテンツを開催することこそが、地方創生の起爆剤になり得ると考える。井上尚弥選手の大会に続いて、RIZIN名古屋大会がどれだけ地域経済に貢献するか注目だ。


(アイティメディア今野大一、河嶌太郎)



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