
「私は幼い頃、母親にネグレストされていました。辛かった時、寄り添ってくれたのが猫だった。猫がいたからこそ生きてこられた日の“恩返し“をしたくて、飼い主が見つかりにくそうな猫を積極的に迎えるようになりました」
そう話すぽんちゃんさん(@pocannyano)宅には、悪徳ブリーダーによって心痛む扱いをされてきた元繁殖猫も多く暮らしている。
ろーるちゃんも、そのひとりだ。保護後には、声帯を切られていることが判明。まだ1歳であったのに、重度の歯肉炎も患っていた。
声帯を切られて声が出せない“元繁殖猫”を迎えて
出会いは、2023年。ろーるちゃんは繁殖猫になる予定だったが、慢性の猫風邪を患い、目に炎症が起き、口内炎になったそう。ブリーダーは、「繁殖に使えない」と判断。キャリーケースに入れたまま、動物病院の前に遺棄した。
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その後、ろーるちゃんは保護されたが、繁殖時に静かにさせたかったのか、声帯の切除手術をされ、声が出せなくなっていた。
「辛いことが多かったからか、保護先では目の光が消えていました。その姿を見て、幸せにしたいと思い、お迎えを決めました」
ろーるちゃんは、重度の歯肉炎も患っていたそうだ。痛みで食事は難しいかもしれない…。飼い主さんはそう心配したが、予想に反して、ろーるちゃんは食いしん坊。ご飯をガツガツと食べてくれる姿を見て安堵した。
「ご飯がほしい時には大きな口を開け、声なき声で『ごはーん!』と伝えてもくれます」
同居猫たちの姿を見て”人間不信“な態度に変化が…
心ない扱いを受けた経験がある猫は、人間不信になってしまうことも多い。ろーるちゃんの場合もお迎え当初は触ろうとすると縮こまり、怯えていた。
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だが、同居猫たちと打ち解けるのは早かったそう。そして、先住猫たちが人間に甘える姿を見て、「この人たちは怖くない」と学習したのか、徐々に心を許してくれるように。
「今では、すっかり甘えん坊さん。いつも目の前にちょんと座り、“エアーにゃーん”でお喋りして、スリスリしてくれます」
ろーるちゃんは目が合うとダッシュし、腕の中に飛び込んできてくれることも。その瞬間、飼い主さんはたまらなく幸せな気持ちになる。
「ろーるは、猫相手にも甘え上手。そっと甘えに行くので、みんな『しょうがないなあ』という感じで甘やかしてくれています」
正常な声帯を切除することの残虐さを想像してほしい
心を開いてくれたからこそ聞けるようになった、ろーるちゃんのエアー鳴き。耳にすると、飼い主さんは嬉しくなると同時に胸が痛む。きっと、本来はかわいい声だったんだろうな。声を出せるようにしてあげたい、という想いがこみ上げてくるからだ。
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「ろーるを診てもらった獣医師から、世の中には声帯切除手術の申し出を受けても断らない獣医がいることを聞き、ショックでした。人間のエゴで声を奪うのは、許されることではありません」
人間側の都合で、本来なら自然にできる「声を出す」という行為ができないストレスや違和感を一生抱えて生きていかねばならない苦しさは一体、どれほどのものだろうか。
正常な声帯を切除することが、どれほど酷いことか理解してほしい。そして、猫は声が出ないほうが暮らしやすい、管理しやすいと思う人には、そもそも猫と暮らす資格はないと思う。
そう話す飼い主さんは紡げた命を、これからもめいっぱい幸せにしていく。
「ろーるは今、幸せに暮らせているのかな。もっともっと幸せにするから、元気に長生きするんだよって伝えたいです」
明るみになっていないだけで、ろーるちゃんのような苦痛を強いられている繁殖猫はきっと多い。そうした命を救うため、私たちには何ができるのだろうか。保護猫に関する動物愛護精神が高まっている今だからこそ、声を上げられない繁殖猫たちの守り方も考えていきたい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)