
人はそうやって大人になるものかもしれない。親も人間、長所もあれば欠点もある。大人同士として、どうやって互いを認め合っていけるのかが重要なのではないだろうか。
悪い人じゃないんだけど
「うちの母は悪い人じゃない、むしろ親切な人かもしれません。でもそれがお節介になったり、相手の望んでいない親切の押し売りになったりすることに想像が及ばないんですよね。想像力のない人だなと思うことは多々あります」困惑したようにそう言うトモカさん(42歳)。結婚して子ども二人を授かったあたりから、母のピント外れな親切に驚くことが増えたそうだ。
「共働きなので、基本的には子どもは保育園に預けてきましたが、どうしても迎えに行けないときは母に頼んでいました。近くに住んでいたので、『いいよ』といつも二つ返事で、助かったのは確か。
でも私が夕飯には間に合うように実家に行くからと言っているのに、変な時間に大量のお菓子を与える。やめてと言っても『おなかが空いたらかわいそう』って」
母の親切心が迷惑に……
2年ほど前にはこんなこともあった。夫の父が亡くなり、夫婦で遠方の夫の実家に行ったときのこと。子どもたちは小学生だったし、夫の実家にはなじみがなかったため、母に預けていつも通りに学校に行かせることにした。
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だからいいと言ったのに、私たちが空港から電車に乗って自宅に向かっているとき母から連絡があったんです。『空港に着いたよ。どこにいる?』って。夫は『心配だから空港まで戻る』と言いだして。
仕方がないので先に私が自宅に戻り、夕飯の支度をしているうちに、結局、夫が車を運転して帰ってきました。『心身ともに疲れているのにどうしてそういうことをさせるのか、お母さんが余計なことをするから迷惑なんだ』と後でキツく言ったら号泣されましたけど」
夫に本当にすまなかったとトモカさんは今でも思っているそうだ。
勝手な判断をするくせに依存してくる
1年前、トモカさんの父が亡くなり、母は一人暮らしになった。とはいえまだ60代後半だし元気なのだが、父がいなくなった分、依存度が高くなっている。「空港事件のときもそうだったけど、時々非常に勝手な自己判断をするんですよね。相手の状況も気持ちも無視して。それなのに普段はどんどん依存度が高くなっている。例えばとっている新聞をやめるか続けるかでいちいち連絡してくる。
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母はスマホでネット検索もできるから、検索すればいいじゃないと解決策を教えたんですが、『あんたにはそんなにレパートーリーがないか』と急にマウントとるような発言をしたり」
結局、一人暮らしだとどう生きたらいいか分からないのだろうとトモカさんは推測している。「主婦としてやるべきこと」から解放されたのだから、したいことをすればいいのに、母は日々、なにもせずに生きているだけ。
娘から頼りにされることを望んでいるのだろうが、トモカさんはなるべく母には頼りたくないと考えている。「こちらも1つの家庭だから、家族できちんとやっていきたい。母とは一定の距離を保ちたい」のだ。
「ところが母としては、もっと私を輪に入れてと言いたいんでしょうね。分からなくはないけど、母には自分の人生を生きてほしいんですよ。そう言ってもなかなか伝わらないから、イライラするんですが」
ため息ばかりついてしまう日々
いつか介護が必要になれば、そのときは考えるつもりだが、今から母が背中に覆い被さってくるような日常は避けたい。「この前も、夕方、私が帰宅したら玄関前にビニール袋に入ったタッパーが置かれていました。煮物が詰めてあったけど、暑い時期にそんなことするのって非常識すぎるでしょ。煮込んだから大丈夫と言っていたけど、ちょっと怖くて食べられませんでした。もったいないことを平気でするんですよね」
そのたびに気持ちが逆なでされる。認知症を疑って診てもらったが、まだまだ大丈夫と言われたばかり。
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ああいう人なんだから仕方がないけどとトモカさんは弱々しくつぶやいた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))