会社のネットワークが突然つながらなくなったら、あなたは原因をすぐ特定できるでしょうか? 筆者が情シスとしてIT企業に勤務していた頃、いきなり全社のネットが止まるという大トラブルがあったのですが、その原因は思わぬ“大物”でした。
筆者がIT企業の情報システム部門に在籍していた数年前のことです。年度末のある朝、出社してすぐに社内から「ネットが遅い」「全然メールが開けない」といった声が立て続けに飛び込んできました。メールもクラウドサービスも開けず、仕事が完全にストップしてしまったのです。
社内ネットワークは、業務の基盤そのものです。障害が発生すれば日常業務や営業活動、さらには経理処理まで止まってしまいます。まさに「会社の血流」が途絶えた状態でした。
筆者は想定される原因を考え、必要な初動対応を進めていきましたが、根本的な解決には至りませんでした。社内には焦りの空気が広がりはじめ、情シスチームはネットワークの通信状況を詳細に調査することにしました。
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筆者は先輩の指導のもと、すぐにネットワークの使用状況を確認。トラフィック監視ツールを使い、どの端末がどれくらいの通信量を使っているかをリアルタイムで追跡していきました。
すると、特定のIPアドレスが突出して帯域を使っていることが判明しました。会社全体の通信量(トラフィック)をそのIPアドレスがほとんど独占しているような状況で、他の社員がまともに通信できない状態に陥っていたのです。
調査を進めると、そのIPアドレスはなんと社長のPCでした。
この事実に、情シスチーム内は騒然としましたが、状況を放置するわけにはいきません。筆者は恐る恐る社長室に向かいました。
まだ事態を知らない社長は、にこやかな表情で筆者を迎え入れてくれました。そして「新年度の進発式の動画が完成したんだ。みんなに見てもらえるよう、今クラウドにアップロードしていたんだよ」とのこと。事情を聞いて筆者は思わず脱力しました。
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実は今回のようなケースは、情シス部門で働く人間にとって“あるある”の一つ。この手のネットワークトラブルは、不注意や知識不足によって引き起こされることが大半です。
回線のひっ迫と聞いて、多くの人がイメージするのは「大容量ファイルをダウンロードすると回線が混む」という場面かもしれません。しかし実際には、動画や画像をアップロードするときにも帯域は大きく消費されます。特にクラウドストレージやファイルサーバに長時間アップロードを行えば、他の社員の通信が巻き添えを食うことになります。
無自覚にネットワークに大きな負荷をかけてしまうことは、誰にでも起こり得ることなのです。
ですが、トラブルの原因が会社のトップや悪気のない同僚だった場合、情シスの担当者が「なぜこんなことをしたのですか」ときつく問いただすことは難しいでしょう。かといって、業務が止まったままでは会社の損失に繋がります。情シスは「原因を追求する」ことよりも「速やかに解決する」ことを優先し、裏側で奔走することしかできません。このジレンマこそ、情シスの現場で頻繁に起こる“あるある”なのです。
今回のようなケースでは、物理的な対策と社員教育という両面からのアプローチが重要です。
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帯域制御や回線の冗長化
大容量通信による障害を防ぐには、ネットワーク機器で通信を制御する帯域制御や、回線そのものを増強して冗長化する方法があります。特に帯域制御は、特定のIPアドレスやアプリケーションの通信速度を制限することで、他の通信への影響を最小限に抑えられます。ただし、これには一定のコストがかかるため、中小企業ではすぐに導入できない場合もあります。
社員に求める「一言の相談」
現実的かつ簡易的な対策としては、社員に協力を仰ぐことです。誰もが「大きなファイルを扱うときは情シスに一声かける」という習慣を持つだけで、全社的な業務停止を防げます。この出来事をきっかけに、筆者の勤務先でも「大容量のアップロードや配信をする際は情シスに相談する」というお願いを社内サイトに掲載することになりました。社員一人ひとりの行動が、会社の業務にどう影響するかを理解してもらうことが必要です。
今回のケースは、一見すると笑い話のようですが、全社的な業務停止というリスクを伴う重大な出来事でした。
情シスの現場には、悪意ない不注意などから起こるトラブルが数多く舞いこみます。だからこそ「誰が悪いか」を問うのではなく「次に同じことが起きないために何をすべきか」を考えることが大切です。「あの日の社長の動画アップロードは、結果的に社員のネットワーク的な教訓になった」。筆者はそう前向きに振り返っています。
(執筆:そらのすけ、編集:雨輝)
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