9月19日に公開された劇場版『チェンソーマン レゼ篇』の勢いが凄い。22日に発表された映画興行収入ランキング(興行通信社調べ)では初登場1位となり、9週続いた『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』の連続1位記録をストップ。29日(月)までの11日間では観客動員数200万人、興行収入30億円を突破。早々に興収50億円も見える好スタートを切った。
【画像】『チェンソーマン』藤本タツキが描き下ろしたifのデンジとレゼ
原作は「週刊少年ジャンプ」で連載された藤本タツキの人気漫画。悪魔と呼ばれる存在が日常に蔓延る世界が舞台で、主人公のデンジは、死んだ父の借金を返すために「チェンソーの悪魔」であるポチタと共にデビルハンターとして働く少年である。ある日、ヤクザに裏切られ、「ゾンビの悪魔」に殺されてしまうが、ポチタが心臓となり復活。「チェンソーの悪魔」の力を手に入れ、公安のデビルハンターであるマキマに導かれ、その身を預けることとなる。
劇場版『レゼ篇』では、デンジが謎の美少女・レゼと出会い、一夏の恋に心を揺らされるというストーリー。デンジは心に決めた女性であるマキマへの想いもあり、レゼとの恋愛を通して自分の感情や心の未熟さを体感。思春期の少年としての等身大の姿と悪魔との苛烈な戦闘シーンが対比的に表現されている。
大ヒットの要因の一つと見られるのが、このデンジのキャラクター性にある。かつてのジャンプ漫画主人公といえば、「海賊王」や「火影」になるという壮大な夢に向かって突き進むのが定番だったが、デンジの置かれている状況はまったく違う。
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デンジの目標は、3食食べて風呂に入って眠る生活を手に入れることだ。よく漫画は世相を反映すると言われるが、実際『鬼滅の刃』の主人公・竈門炭治郎は鬼に家族を奪われ、鬼となった妹・禰豆子を人間に戻すため、平和な世界を築くために戦う。また、先日実写映画化が発表されたジャンプ漫画『SAKAMOTO DAYS』の主人公・坂本太郎も、かつての殺し屋としての過去を捨て、平穏な家庭を築こうとする姿勢が描かれている。共通するのは「平穏な暮らし」「マイナスからゼロに戻すため」「現状維持」といった守りのキーワードである。
産業能率大学総合研究所の調査※によると、若者世代の約6割が「成果主義より年功序列がいい」と回答しており、年功序列を望む声が成果主義を上回る結果となったそう。また、約7割が「終身雇用」を希望しており、安定した雇用環境を重視する傾向が強まっているという。専門家によれば、こうした傾向はリーマンショックやコロナ禍などの経済的な不安定さを背景に、若者たちが安定を求めるようになったことを示していると分析されている。
※「産業能率大学総合研究所 2025年度 新入社員の会社生活調査」より
令和世代にとって、底辺で身の丈を知るデンジは身近なキャラクターに映り、そんな彼がチェンソーマンとして大暴れする姿にカタルシスを感じている……のかもしれない。
(文=蒼影コウ)
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