車中泊に「横になれる深夜バス」サービスまで……ホテル価格高騰で生まれた新ビジネスたち

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2025年10月04日 06:01  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

出所:ゲッティイメージズ

 ホテル代の高騰や夜間の移動ニーズの高まりを受け、車中泊や夜行バス、複合カフェといった新しい宿泊・仮眠サービスが注目されている。今回は、こうした低価格で便利なサービスの最新事情を見ていく。


【画像】ローソンの車中泊ビジネス、横になれる深夜バス、JR東日本は新たな夜行特急列車、快活クラブの個室(計4枚)


●ロードサイド店舗で「車中泊」サービス


 ローソンは7月から房総半島の複数店舗で車中泊サービスを開始した。ロードサイドの駐車場が広い店舗が対象だ。スーパー銭湯が近くにあり、民家から離れているなどの諸条件を基に選定したという。キャンピングカー普及を目的とする業界団体、日本RV協会が認定する「RVパーク」の実証実験として2026年6月末までサービスを提供する。


 利用料金は1区画につき2500〜3000円で、チェックインは午後6時以降、チェックアウトは午前9時まで。店内トイレを利用できるほか、電源ドラムの貸し出しやごみ袋の配布も行う。


 コロナ禍以降はキャンプ・アウトドア需要の拡大とともに車中泊のニーズが高まった。宿泊費がかからないため、ホテル価格の高騰が進む昨今、コストパフォーマンスの良さから注目されている。


 キャンピングカーの人気も高まっている。日本RV協会によると、2024年のキャンピングカー販売売り上げ総額は、過去最高となる1126.5億円だった。一方で国土交通省は「道の駅」における宿泊目的の利用を原則禁止としており、堂々と泊まれる場所が少ないのは課題だ。ローソンが提供する店舗では現状空きが目立つが、東海道沿いなど交通量の多いところでは“満室”になる可能性も見えてくる。


●新たな夜行バスや夜行特急も続々と登場


 コロナ禍の需要低下から回復している夜行バス市場は、若年層の推し活による需要がけん引している。


 高速バスを運営するWILLER EXPRESSの調査では、年末年始に宿泊料金の高騰を理由に夜行バスを選択した客が多かったという。特に2024〜25年シーズンは前年よりライブ・イベントなどの推し活に伴う利用増加が見られた。


 旅行比較サイトを運営するオープンドアの調査でも、高速バスの主な利用者が29歳までのZ世代という結果が出ている。年収がそう高くない世代であり、安さを理由に夜行バス・高速バスの利用者が増えているようだ。


 高知駅前観光は、3月からフルフラットシートを設けた寝台バス「ソメイユプロフォン」の試験運行を断続的に実施している。8月の運行では東京〜高知や東京〜徳島間の料金を1万円程度に設定した。従来の夜行バスと異なり、完全に横になれる点が売りだ。LCCの便数が多い大都市間では価格優位性が見られないが、高知などの中都市では需要を開拓できそうだ。


 こうしたニーズに対応する狙いがあるのか、JR東日本は新たな夜行特急列車を2027年春に導入する予定だ。常磐線の特急「ひたち」などで使用されているE657系の1編成を特別仕様とし、首都圏〜北東北のエリアで運行する。


 ダイヤは上野を午後9時発、青森に午前9時着などが想定される。部屋は1〜2人用のグリーン個室と4人用のグリーン個室、1〜2人用のプレミアムグリーン個室の3種類。ホテル価格の高騰で主要駅前のビジネスホテルは1人1万円以上が相場となった今、新幹線+宿泊費よりも低価格に抑えられれば、寝台列車の需要は復活するかもしれない。


●成長を続ける「快活CLUB」の原動力は?


 快活CLUBはスーツ店を展開するAOKIグループの複合カフェだ。漫画喫茶・ネットカフェがスマホの普及によって衰退した一方、快活CLUBは全店直営であり、サービスの均一性や店内の清潔感が支持されて店舗数を増やしている。フランチャイズオーナーや零細業者が運営してサービスの質が落ちる店がある一方、快活CLUBは質を重視する事で差別化を図ったわけだ。2003年に1号店を出店し、8月時点で496店舗を展開する。


 快活CLUBは主に地方のロードサイドと都市部の両軸で勢力を伸ばしてきた。サービスの質や清潔感だけでなく、仮眠需要を取り込んだことも成長につながったと考えられる。新宿駅西口店の場合、土日の12時間パックは6000円以下でホテルよりも安い。インバウンドの増加などもあり、都内のホテル価格は土日で2万円超えが当たり前となる。カプセルホテルでも1万円近くする時代を考えると、快活CLUBの料金は格安だ。


 全室鍵付き個室の店舗は2024年度末時点で全体の1割だが、今後は都市部を中心に同タイプの店舗を増やす計画を示している。価格優位性を発揮しながら、宿泊客を取り込もうとしているのだろう。


●コンテナホテルも登場した


 宿泊費の高騰が激しい中、車中泊や快活CLUBは低価格の宿泊需要を満たしている。北関東の工場地帯では1万円以下で泊まれる「コンテナホテル」も現れ、出張者のニーズをつかみ始めた。


 この他、夜行バスや寝台列車はあくまで移動手段だが、夜間に移動するため宿泊と同様のサービスといえる。前述の通りインバウンドの増加などでホテル価格は下落しそうにない。今後も低価格の宿泊需要を狙う新たなサービスが現れてくるかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



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