
スモールマーケットのブルワーズが勝てる理由(前編)
今季のMLBで最高勝率.599(97勝65敗)を記録し、ナ・リーグ中地区で3連覇を飾ったのがミルウォーキー・ブルワーズだ。
AP通信が発表した2025年開幕時点の総年俸ランキングでは1位のメッツ(3億2258万9724ドル)に対し、ブルワーズは23位(1億1477万3471ドル)。大金をかけて戦力を整えているわけではないが、今季の戦いぶりに称賛が相次いだ。
【マネーゲームでは勝てない】
イチロー氏は今年7月、野球殿堂入りした際のスピーチでこう話している。
「いまのMLBの野球は、頭を使わなきゃできない、考える野球に戻りつつあると思うんですよね。たとえば、直近で見た相手ではブルワーズがそんな野球をしていました。いま一番強いチームです」
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今季のチーム成績を見ると、本塁打数は166本で30球団中22位。一発は少ないが、806得点、打率.258はともに3位。出塁率.332、盗塁164個はいずれも2位で、四球は564個で4位だった。
ブルワーズはどんな方針でチームづくりを行なっているのか。
「ウチはドジャースやヤンキース、メッツ、パドレスのようなビッグマーケットのチームではありません。マネーゲームでは勝てないし、そもそもそういう選手を獲りにいこうとはしていません。中に入ってみて感じるのは、30球団のなかにおける自分たちのポジションをわかっていて、チームづくりも的を射ているということです」
そう話すのは、昨年までBCリーグの茨城アストロプラネッツのGMを務め、今年ブルワーズの国際スカウトに就任した色川冬馬氏だ。
「お金を比べると他球団に劣りますが、ウチはスカウティングにものすごく力を入れています。7月には台湾から2人の若手を獲得、そして日本のスカウトに僕を置きました。アジア戦略にも力を入れていこうとしています」
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台湾にはパートタイムのスカウトがおり、19歳の右腕投手・林張子俊(Chang Tzu-Chun Lin)、17歳の三塁手・廖宥霖(Yu-Lin Liao)を獲得。さらに色川氏と契約し、日本でもプロ・アマで人材を求めていく。色川氏が続ける。
「マネーゲームでは勝てませんが、NPBで2、3番手クラスの選手でもいいと考えています。たとえばドジャースの佐々木朗希投手クラスの選手でも、ブルワーズのような球団に入り、メジャーリーグでしっかり力を出して、そこから他の球団にバイアウトを狙うのも選手側の戦略としては当然ありだよねと。ウチの強みのひとつは、スプリングトレーニングの施設が西海岸のアリゾナにあることです。日本人選手には移動的に好条件ですよね。もちろんハード、ソフトの両面で、選手を育てる力は持っています」
【19歳の外野手と8年総額121億円で契約】
大谷翔平はエンゼルスに入団してから評価をさらに高め、名門ドジャースに羽ばたいた。育成に優れるブルワーズは、高いポテンシャルを持った選手に同様の道を歩ませられると考えているのだろう。
MLB公式サイトが発表した「ファームシステムランキング(今季途中)」で4位に入ったブルワーズは、育成力を評価されている球団だ。
その象徴と言えるのが、外野手のジャクソン・チョーリオ。球団は2023年12月、3Aで6試合しか出場していない当時19歳のチョーリオと8年総額8200万ドル(約121億円)で契約した。日本人選手を除くと、メジャーデビューを果たしていない選手では史上最高額だった。
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ベネズエラ出身のチョーリオは16歳でブルワーズに入団し、マイナーでプレー。5ツール(打率、パワー、スピード、肩、守備)を備えるプロスペクトとして注目されていた。2024年開幕戦でメジャーデビューを果たすと、同年シーズンに史上最年少で「20本塁打&20盗塁」を達成(21本塁打、22盗塁)。今季は131試合で21本塁打、21盗塁、打率.270とチームに不可欠な戦力になっている。
球団とチョーリオの契約について、色川氏がスカウト目線で語る。
「MLB各球団にはプロスペクトと言われる選手が多く入団しますが、選手の未来を予測するのはものすごく難しいことです。ましてやチョーリオと8年契約を結んだのは、まだ3Aでほとんどプレーしていない段階です。いくら能力があっても、自分たちの球団に合っているかは未知数ですよね。ブルワーズは球団に入れてからチョーリオを信用し、表も裏もわかったうえで大型契約に至りました。いい時も、悪い時も、しっかり伴走しているからできることだと思います」
つづく>>