
平石洋介×上重聡 前編
1998年、夏の甲子園を沸かせた「松坂世代」で、名門・PL学園の主将としてチームを牽引した平石洋介さん(元楽天ゴールデンイーグルス)とエースとして活躍した上重聡さん(フリーアナウンサー)。そのおふたりに「松坂世代ベストナイン」を選出してもらった。全2回の前編は投手と捕手と内野手。果たして、どんな顔ぶれに?
――今年も夏の甲子園が大きな盛り上がりを見せました。おふたりもPL学園の生徒として出場経験がある甲子園ですが、今でも当時のことは思い出しますか?
平石洋介(以下、平石) 思い出しますね。
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上重聡(以下、上重) そうですね。毎年ご丁寧に雨で試合が中断している時とか、準々決勝の前に「白球の記憶」という形で、私が(横浜戦の延長十七回表に)ホームランを打たれてひざまずくシーンを流していただいています(笑)。でも、27年前の出来事がいまだに皆さんの記憶に残っているのは、すごくありがたいと思っています。
平石 僕も選手たちによく言われます。あの(試合でやった)ダサいヘッドスライディングとか(笑)。
上重 あれ、ダサいよな(笑)。
平石 ああいう時って、なんとなくこうなったらこうっていうのがあるでしょ。でも、そういう考えがなくて、あれは人間の素。ヘッドスライディングしてガッツポーズをやったのは、ワールドシリーズの松井秀喜さんか俺ぐらいやで。
上重 松井さんに失礼やろ(笑)。
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【外せない世代の代表"松坂大輔"】
――今回は1980年生まれのいわゆる松坂世代のおふたりに「松坂世代ベストナイン」を決めていただこうと思います。さっそく先発投手からお願いします。
上重 ピッチャーは簡単なんですよね。
平石 先発は松坂大輔(元西武、レッドソックスほか)でしょ。
上重 外せないですよね。(高校時代)公式戦44ですか。負けないことってピッチャーにとって一番大事なんですよね。特に高校野球は負けたら終わりなので、いかに負けない野球をするかが鉄則。そういう点で言うと、松坂大輔は最強じゃないかと思いますね。
――高校時代に対戦されていますが、当時の松坂さんはいかがでしたか?
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平石 桁違いですね。初めてセンバツで出会った時の衝撃を、のちの野球人生においても上回ることがあまりないんですよね。それぐらい本当にすごかったです。群を抜いていました。
上重 私は対ピッチャーとして見ていたので、初めて見た時の衝撃がすごくて、ちょっと憧れというかファンになっちゃって......。センバツが終わってから彼の投げ方をマネしていたら、背中と腰を痛めたんです(笑)。
平石 でも、球は速くなったよね。
上重 あの投げ方は球が速くなるんですよ。でも、マネしてみて初めてわかるんですけど、背中と腰が強くないと、あの投げ方に耐えられないんですよね。後々、松坂に聞いてみると、小学生の時に剣道をやっていたそうで、剣道で鍛えられた広背筋がベースになっているんだなと。まぁ、対戦ピッチャーなのにモノマネしている時点で負けじゃないですか......。
平石 でも、マネしているレベルじゃなかった。ほんまにそっくりでした。
上重 私のなかで秘策があって、自分が松坂大輔になれば、(PL学園の)野手陣は横浜に負けてないなと思ったんです。負けている点は、松坂と上重を比べたら、松坂のほうが全然上だということで、私が夏までに松坂になればドローじゃないですか。なので、松坂になろうと思ったんですけど、失敗しました(笑)。けっこう、モノマネから入るタイプなんです。
――テレビ中継だとわかりにくかったですが、当時の松坂さんの上半身の体つきはすごかったですよね。
上重 細く見えるけど、ついているところにはしっかり筋肉がついていましたね。
【次々名前が挙がる名投手たち】
――続いて抑え投手をお願いします。
平石 これはもう一緒でしょ。藤川球児(元阪神、カブスほか)。
上重 高校の時に対戦はなかったんですけど、藤川球児という名前は僕らが2年生の時に、夏の甲子園で高知商業の兄弟バッテリーとして注目されていて初めて聞きました。"球児"って高校野球にぴったりの名前だなと思って。体は細いんですけど、ストレートが当たらないところがすごいなと。ただ、対戦したことがないから、実際にどれぐらいすごかったのかっていうのはわからないんですよね。プロに入ってから対戦してる?
平石 俺はないねん。ほかのチームの選手から聞いたのは、「(ボールの)何十センチも上を振らないと当たらない」って。でもそうですよね、キャッチャーの矢野(燿大)さんは低めになんか構えないじゃないですか。ベルトぐらいの高さに構えて、そこにストレートが来る。わかっているのに、対応できないピッチャーってなかなかいないよね。
――藤川さん以外で抑えの候補はいますか?
平石 けっこういたんですよ、永川勝浩(元広島)とか。
上重 私は(立教)大学の時に(亜細亜大の永川を)見て、こんなにフォークボールが落ちる選手いるんだと思いました。
平石 あとは、阪神の久保田智之。あとオリックスにいた加藤大輔。
上重 そう考えたらピッチャーはいいですよね。
――では、中継ぎ投手はいかがでしょうか?
上重 (松坂、藤川で)右右なので、左を入れたいなっていう思いもある。そうなると個人的には和田毅(元ソフトバンク、カブス)かな。
大学の時に対戦をして、打席に立って、実際に見て今度は「和田毅になりたい」と思ってマネをしたら、(東大戦で)完全試合をできたんですよ。和田のボールはグン、グンって2回伸びてくるんですよね。なので、捉えたと思っても全部ファウルになるんです。私はずっと松坂みたいに150キロを投げなきゃいけないと思っていたのに、140キロでもこういう球があるんだと知って、どちらかというと自分はそっちタイプかなと。じゃあ今度は和田を研究しようと思ったんです。
フォームをマネして、グローブは松坂と同じモデルを使って、完全試合をしたんですよ。(早稲田大戦では)和田の投げ方をマネして和田と投げ合って勝っているので、もうワケわかんないんですけど(笑)。
平石 俺も(同志社)大学時代に和田を見たけど、キャッチボールとかすごく独特だよね。
上重 和田は、甲子園の時も大学1年生の春も130キロぐらいだったのに、秋のリーグ戦が始まる前に144キロを投げたっていう情報が入ってきて、「いやいや、そんな1カ月、2カ月で球が15キロ近くも速くなるはずがない」って言っていたら、秋のリーグ戦で144キロを投げたので、そこから研究しました。
彼は左投げなんですけど、右手の使い方を変えたら、球が15kmくらい速くなったっと言うので、私も和田のグローブ側の手の使い方を研究したら、完全試合につながったんですよね。私がマネしたのは松坂大輔と和田毅しかいないので、入れたいです。
平石 僕も和田毅ですかね。すごいピッチャーだったよね。
【いい投手にはいい捕手が必要】
――では、捕手もお願いします。
上重 いつも實松一成(元日本ハムほか)が出てくるんですけど、最近あらためて甲子園を振り返ってみて、横浜高校の強さって、もちろん松坂大輔なんですけど、小山良男(元中日)もいい選手なんですよ。私は春も夏も、小山に打たれているんですよね。松坂をリードしていたのは小山良男だと思うので、今になって評価が上がってきました。どうですか?
平石 確かにピッチャーがすごいって言っても、キャッチャーがしっかりしてないと。だから、僕もあの夏に潰しにかかろうと思ったのは、小山良男だったんですよ。良男はアリだね。
上重 みんな高校時代しか見てないんですけど、実は亜細亜大学に進学して、木佐貫洋(元巨人ほか)、永川勝浩をリードしているんです。もちろんふたりともいいピッチャーなんですけど、そこをいいピッチャーにしているのは、キャッチャーの力もあると思うので、あらためて小山良男っていいキャッチャーだなと思いました。
【内野手も有名選手ばかり】
――続いてファーストをお願いします。
平石 僕は、小谷野栄一(元日本ハムほか)。あと後藤武敏(元西武ほか)とか。栄ちゃんは成績も残しているし、やっぱり野球に対する頭もいいし、ものすごく考えていろんなことをやっていた人間ですね。どう?
上重 いいね。(小谷野は)これまたストーリーがあって、松坂大輔と中学時代に同じチームだったんですよ。で、(創価)大学時代には(4年時の大学選手権で)和田毅から4打数4安打で、プロ注目の選手になってプロに進んだんですよ。われわれもセンバツで創価高校と対戦経験があって、入れときたいなっていう選手です。
――では、セカンドをお願いします。
平石 東出輝裕(元広島)。
上重 いいと思う。ここも春のセンバツで対戦をして、その時、東出がピッチャーをやっていて、バッティングのセンスもよかった。
平石 ピッチャーとしても意外とよかったよね。
上重 よかった。私もすごい勉強になったんですけど、初球を128キロぐらいで入るんですよ。で、2球目が133キロぐらいでストライクに入って、最後は138キロを投げるんです。同じストレートでも、最後の球が速く感じるんです。
平石 確かに、めっちゃ速く感じた。
――脱力感のあるフォームだったんですね。
上重 そうですね。高校の日本代表で同じチームで、どの試合だったか覚えてないんですけど、スクイズのサインが出て、バットを放り投げるようにして、実際に最後はバットが手から離れているんですけど、それにボールを当ててスクイズしたんですよ。そういうセンスを感じる選手でしたね。
平石 当時、俺と東出の顔が似てるって言われていたよ(笑)。
上重 鼻の高さが似てる(笑)。
平石 どうでもいい話なんですけどね、ほんまに(笑)。
――次はサードをお願いします。
平石 これはもう一択でしょ、村田修一(元横浜ほか)。
上重 守備もいいしね。
平石 守備がうまい。もともとピッチャーじゃないですか。だからスローイングがいい。スローイングがいい人は守備もうまいです。
上重 高校日本代表で同じチームになって、当時は村田もピッチャーで入っていて、その大会の最優秀防御率も取っているんですけど、「自分は松坂大輔にはなれない」と言っていました。プロを目指すならバッターしかないと、当時から「大学に行ったらバッターに専念する」と言っていました。たしか、その高校日本代表でも甲子園の右中間にホームランを放り込んだんですよ。右バッターであそこに飛ばせるってなかなかいないので、もしかしてすごいバッターになるかもと思ったんです。
大学では、日本大学のグラウンドで練習試合をさせてもらったんですけど、遠くから日大のベンチにひとりだけこういう(態度が大きい)人がいたんですよ。で、「監督だ」と思って近づいたら、監督がこう(普通に)座っている横で村田が......(笑)。これは大物になると確信に変わりました(笑)。動じない精神力っていう点でも、ホットコーナーに置きたいなって思います。
平石 いい選手だったよね。
上重 松坂世代でも一番ホームラン打っている選手だよね。
平石 そうそう。
――ではショートをお願いします。
平石 梵英心(元広島)。
上重 そうですね。カープの二遊間(セカンド東出)も相性よさそうだし。お寺の息子っていうところで、精神的にも。
平石 英心ってそうだったの?
上重 そうだよ。名前からしてそうでしょ?
平石 詳しいよね、昔からそういうこと(笑)。
上重 有名だよ。やっぱり動じないし、バッティングも長打を打てるし、勝負強いし、いい選手だと思いますね。
後編を読む>>>松坂大輔を二刀流で起用? 平石洋介と上重聡が選んだ「松坂世代ベストナイン」の最強打線
Profile
平石洋介(ひらいし・ようすけ)/1980年4月23日、大分県出身。PL学園から同志社大学、トヨタ自動車を経て、2004年にドラフト7位で楽天に入団。2009年にはプロ初本塁打を放つなど活躍し、2011年に現役を引退。2019年に楽天の監督を務める。現在は野球解説者として活動している。
上重聡(かみしげ・さとし)/1980年5月2日生まれ、大阪府出身。PL学園時代にエースとして活躍。立教大では東京六大学リーグで史上ふたり目の完全試合を達成。2003年にアナウンサーとして日本テレビに入社。2024年3月末をもって同社を退社し、現在はフリーアナウンサーとして活動している。