「タワマンがなんぼのもんじゃい」40代女性作家が98万円で温泉の出る築75年の家を買ったワケ

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2025年10月05日 09:10  女子SPA!

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作家・高殿円さん
 定年を迎えると家を借りることは難しくなると言われます。

 一般庶民にとって、大きな大きな買い物です。しかし、「ローンを組むことを考えるとそろそろ」と言われてしまい、マンション情報サイトに行って、あまりの値段に引き返す。30代・40代なら経験のある人も多いのではないでしょうか。

『トッカン』『上流階級 富久丸百貨店外商部』など、数々のヒット作を生み出し、原作者・作家として活躍する兵庫県出身・在住の高殿円さんは、兵庫県に自宅をもちつつ、伊豆に98万円の温泉の出る築75年の家を2023年に購入。約200万円でDIY&リフォームしたそうです。

購入の軌跡を2024年4月に同人誌『98万円で温泉の出る築75年の家を買った』として発行、自費出版物であるにも関わらず、大きな注目を集めました。異例のロングセラーとなり、「COMICポラリス」でコミカライズもスタートしました。

 自分だけの資産となる「家」が欲しい! どうすればいいか、温泉付き物件・不動産に興味津々のライター・宇野なおみが聞いてみました。

◆コロナ禍をきっかけに「人生で何が重要か」を考えた

――まず、兵庫県出身・在住である高殿さんが、関東の温泉付きマンションを買おうとした理由を聞かせてください。

高殿円さん(以下、高殿):きっかけはコロナ禍です。以前は本当に海外旅行が大好きで、世界中巡っていました。飛行機のチケットを買うために生きていたのに、生き甲斐がなくなってしまった、という感じだったんですね。

――世界中の人が、未曽有の事態に直面し、閉鎖的なストレスを抱えていた時期でしたね。

高殿:コロナ禍当時、ひとり息子は小学校6年生。卒業式も簡易的なものでした。ただ、思った以上に子どもが柔軟で驚きました。もともと息子はとにかくこだわりの強い、エレベーターが大好きな子。小さいころは目が離せなくて、お互いにべったりでした。

だけど、コロナ禍を通じて大人になったのか、自分の好きな世界ができてきた。今はもう大学受験生で、私が手を放す時期になったんだなと。じゃあ、私の人生なんだったんだろう?「私はわたしのために生きていかないと」と思い、ゆっくり自分自身と向き合いました。

――旅に行けない中、「自分のために生きるには、人生で何が重要か」をお考えになったと。

高殿:結果、そうだ、「温泉」だ!って(笑)。基本オタクなので、ずっと自分の部屋にこもってネトフリ見ていたいんですよ。だから大浴場じゃなく、自分の部屋で温泉のかけ流しにつかって、海を眺めてボーっとしていたい! それで、二拠点生活を決意しました。

◆物件探しは「温泉地の民泊に泊まりまくった」

――聞いているだけでうらやましいです。どうやって物件を探されたんですか?

高殿:もともと起きたらまずポータルサイトをチェックするくらい、不動産が大好きで。株式はほとんどやっていなかったかわりに不動産に「全集中!」してきました。一番初めは28歳で一軒家を購入。5年でローンを返済しました。その後タワーマンションも買ったこともありましたし、東京に投資用を買ったりいろいろやってきたんです。今回はまず、温泉の出る土地に行って民泊に泊まりまくりました。

――すごい! では、不動産投資に関してはベテランでいらしたんですね。Xの投稿では「草津、大分、道後、有馬、長野、北海道、日本中ありとあらゆる有名無名秘湯温泉地に行った」と書いてらっしゃいましたね。

高殿:実際草津はお湯がすごくよかった。軽井沢も素敵でした。ただ、関西からのアクセスが悪いとか、いろいろな兼ね合いを検討しました。時間はあったので本当に日本中巡りましたよ。

――そのあたりも詳細をお伺いしたいところですが……。でも、もともと不動産投資に慣れている高殿さんだからこそ、見つけられた、できたことではないですか?

高殿:再現性の実証は絶対するタイプなので、私以外にもできるような探し方・買い方を知人や友人に伝えて回っています。最近は頼まれて、不動産購入をサポートすることも多いです、そういう職業じゃないのに(笑)。皆、どんどん買っちゃって、温泉に浸かって幸せそうです。一緒にDIYすることもありますよ。

――ご自分で更新されているnoteも「おばあ」という一人称で、ワクワクするDIYライフなどを発信されていますね。

高殿:30代、40代の人に、当時私が知りたかったことをどんどん伝えていきたいんです。今回のインタビューもそうですけど、発信しているといろんな人が「おもろいことをやっているおばあがいる」と話を聞いてくれて、とても嬉しいです。2019年に連載から本になった『35歳、働き女子よ城を持て!』(KADOKAWA)も、女子に家を与えたくて書いた本です。ありがたいことにたくさんの人が読んでくださり、ロングセラーになりました。

――今回の同人誌も、そうした「若い世代に伝えたい」という思いが原動力でしたか。

高殿:コロナ禍を無為にしたくなかったという思いもあります。『98万円で温泉の出る築75年の家を買った」は、法人格を持った出版社として発行しました。書店さんやラジオ局に営業しに行くなど、こつこつ自分でやっています。ありがたいことにヒットしてくれましたが、同時に、いろいろと任せられる出版社さんとする仕事のありがたみを嚙み締めています(笑)。

◆初心者はどうすればいいの?高殿流失敗しない不動産選び

――予算の確保もそうですが、初心者にとってハードルが高いのは物件選びだと思います。高殿さんはなぜ、掘り出し物の物件を探せるのでしょうか?

高殿:とにかく常に探すことですね。できるなら地元の不動産屋さんとの関係を作る、そのエリアの不動産情報をネットで絶えずチェックする。築年数が古くて安い物件探しにあたって、まずは、管理費をチェックしましょう。必ず毎月かかる費用です。

――激安物件では管理費が非常に高いケースがありますね。見たことあります。

高殿:戸数・築年数によってもかなり幅があります。戸数は多いほど安い。例えば、25戸と100戸なら、ひと部屋あたりの負担はかなり違いますから、比較検討が重要です。やたら安いときは自主管理の場合が多いですけど、管理組合が機能していないケースもあります。気になる物件があれば、似たような物件をピックアップするところから始めまたらいいと思います。

◆温泉ハウス選びで重要なのは「源泉を持っていること」

――維持費として毎月かかるので、見過ごせないポイントですね。せっかくなので“温泉の選び方”も教えてください。

高殿:「温泉ラバー」は物件が源泉を所有しているかどうか、その管理状況を確認してください! 源泉がなく、お湯を買っている場合がありますから。

――買っている!? 銭湯の温泉イベントのようですね、地方から運んでくる……。

高殿:買っていてそれでも安いのなら、何かしらの事情があります。源泉の温度も重要です。実は温泉って、20度程度でも温泉とみなされるんですよ。

――その温度でお風呂につかるのは厳しいですね……。

高殿:低い温度の源泉は、適温まで上げないといけない。しかも、運んでいるうちに温度は下がるから、どうしても燃料代、ボイラー代がかかってしまいます。

――源泉の温度が非常に高くないと費用がかさみそうですね。

高殿:管理費や売買価格がなぜ安いのか、なぜ高いのか、両方を見極めるのが大切です。源泉所持か否かなどは調べないとわからないので、不動産屋さんに聞きましょう。まずは相場を知ること。ブランド品を買うときにメルカリや楽天とか、あれこれ見るでしょう? それと同じです。

――温泉つきで安い物件を見ると、昭和からタイムスリップしているような古びた内装もあって、いいなあと思いながらためらってしまうんですが……。

高殿:ヴィンテージマンションは購入してからリフォームするのも手ですよ。私はもう自分がDIY好きなので、いろいろやってしまいましたね。98万円の物件を買ったとき、この価格のマンションはさすがに初めてでした。DIYの経験も積んだし、温泉はついているし、今ならできる! と思って購入しました。予算をリフォーム費用コミコミで考えるのもひとつの方法です。探していると事故物件だとか、いろいろ遭遇しますが、場数を踏んでくると、お亡くなり方次第だなと思えるようになるので。

――皆さんたくましくていらっしゃる……。

◆常に高笑い!? 二拠点のメリット・デメリット

――二拠点生活は、コロナ禍で注目を集めました。実際にはなかなか難しいという意見も聞きます。高殿さんにとって、温泉つき物件で二拠点をするメリットはなんですか?

高殿:家に帰れば温泉がある、というのは精神衛生上ものすごくよくて。人生、生きてれば、理不尽がいっぱいある。どうしても不本意な境遇を押し付けられたりムカつく奴に会ったりするじゃないですか。そんなとき、「でもこいつらは温泉持っていないしな」と考えられる。霞のようにすべてがどうでもよくなります。

最近タワマン文学なんてジャンルも出てきてますよね。どれだけイキっている人を見かけても、タワマンがなんぼのもんじゃい、私は家に帰ればオーシャンビューで温泉につかれるんだ、貴様らはあるまい、とスルーできる。常に高みの見物、高笑いのムスカ状態です。

――タワマンをはるかな高みから見下ろせる、温泉付きの自室が高殿さんのラピュタになっているわけですね。

高殿:自分のメンタルを、常時自分でリセットできちゃうというメリットは大きいです。常に自己肯定感が高くいられる。これはサプリやブランド品にもできません。健康を生きるために大事なことです。株や仮想通貨と違って、不動産は「現物資産」ですし、二拠点は生活にメリハリがつきます。

――聞けば聞くほど魅力的ですが、デメリットはありますか?

高殿:維持費などの費用がかかることですかね。でも、フリーランスや法人があればある程度は経費計上できますから。よくカフェやシェアオフィスで仕事をしている人がいるでしょう? 月2〜3万かかっていてなおかつ家にいたくないと思うなら、二拠点で、家で仕事するという選択肢はありだと思います。あとは、二つの自宅からのアクセス。これを間違えてしまうと大変かと。

◆自治体による移住支援を利用する手も

――私は免許を持っていないので、地方で暮らせるのか不安で。

高殿:私も免許・車を持っていないので、いくら魅力的でもどこにも行けないようなところは避けました。私は兵庫出身で、これからの地元に貢献したいと考えています。だから、関西からのアクセスのしやすさは検討を重ねました。

今は移住を推進・支援する制度がたくさんあります。調べればいくらでもあるので、興味がある方はこれを利用してみるのはどうでしょうか。私は都内在住者フリーランスには、移住金も出るし「移住しちゃいなよ」って薦めてまわっているんですけど(笑)。

――東京や都市圏からの移住を推進している自治体は多いですよね。私自身も調べてみたことがありますが、福島県や岡山県など、移住費用をサポートしている自治体はたくさんあります。

高殿:子育ても大病も経験して、もうすぐ50代です。私はいつもご機嫌でいることをモットーにしているんですが、「温泉の出るマンション」がご機嫌度に非常に貢献してくれています。

◆一歩踏み出せばきっと何かが変わる

 二拠点生活や自分だけの家(お城)、憧れていても自分にはどうせ無理、と思っている方、多いのではないでしょうか。

 高殿さんは常に明るくてユーモラス。ハンデやネガティブな要素があっても、自分の工夫、バイタリティで切り開く力強さに溢れています。

 気になるエリアの不動産情報をチェックする、高殿さんが物件探しのときに行ったように「民泊で気になる土地に泊まってみる」など、まずは小さな一歩から始めてみるのが良いかもしれません。

 一歩を踏み出してみれば、「ご機嫌に生きる」道が近づいてくるはず!

【高殿円(たかどの・まどか)】
兵庫県生まれ。2000年に『マグダミリア三つの星』で第4回角川学園小説大賞奨励賞を受賞しデビュー。13年『カミングアウト』で第1回エキナカ書店大賞を受賞。主な著作に「トッカン」シリーズ、「上流階級 富久丸百貨店外商部」シリーズ、「カーリー」シリーズ、「シャーリー・ホームズ」シリーズ、『メサイア 警備局特別公安五係』『剣と紅 戦国の女領主・井伊直虎』『政略結婚』『コスメの王様』『戒名探偵 卒塔婆くん』など。漫画原作も多数手がけている

<取材・文/宇野なおみ>

【宇野なおみ】
ライター・エッセイスト。TOEIC930点を活かして通訳・翻訳も手掛ける。元子役で、『渡る世間は鬼ばかり』『ホーホケキョ となりの山田くん』などに出演。趣味は漫画含む読書、茶道と歌舞伎鑑賞。よく書き、よく喋る。YouTube「なおみのーと」/Instagram(naomi_1826)/X(@Naomi_Uno)をゆるゆる運営中

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