なぜ優秀な若手社員が次々と辞めていくんだ……。
テレワークから出社義務化へかじを切った途端、「転職します」と言い出す部下たちがいる。
「テレワークできるから入社した」という社員と、「対面でないと仕事が進まない」という上司の間で板挟みになる管理職。
そこで今回は、出社拒否する部下への対処法について解説する。リモート世代の部下に手を焼いている上司は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
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著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
●SNSで噴出する「出社拒否」の本音
コロナ禍が終わり、多くの企業が出社回帰を打ち出している。老舗の大企業のみならず、最先端のIT企業でさえ「週5日出社」を掲げるところもある。
しかし、何か勘違いしていないだろうか? テレワークは「コロナ対策」ではなかったはずだ。
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そもそもテレワークは、政府が東京オリンピック・パラリンピックを契機に推進しようとした政策だった。コロナ前から何年も準備してきたのだ。多様な働き方を実現する最重要課題として位置付けられていた。
ダイバーシティー経営を掲げるなら、テレワークは避けて通れない。女性の活躍推進、親の介護を抱える社員、地方在住者。こうしたマイノリティーの働き方を支える仕組みだったはずだ。
それなのに「テレワーク=コロナ対策」というイメージが定着してしまった。だから経営者は「コロナが終わったから出社に戻そう」と安易に考える。マジョリティーの生産性だけを見て、マイノリティーの事情を無視するかのようだ。
出社勤務を否定はしない。ただ十分な説明なしで「出社回帰」を宣言すれば、多様性の時代に逆行している、と思われても仕方がないだろう。
当然「話が違う」と受け止める人は多い。Xを見ると、出社義務化への不満が爆発している。
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「出社義務化なら即転職。通勤2時間とか人生の無駄」
「子供の急な発熱でも在宅なら対応できたのに」
「満員電車で体力削ってまで出社する意味って?」
このような投稿が毎日のように流れてくる。特に目立つのが子育て世代の悲鳴だ。
「保育園のお迎え時間に間に合わない。出社義務化は女性活躍の逆行」
「在宅なら子どもが体調悪くても休まなくて済むのに、なぜわざわざオフィスに?」
企業側は「コミュニケーションの活性化」を理由に挙げる。しかし反論の声は少なくない。
「雑談なんてSlackで十分」
「会議室の予約争奪戦に時間を取られるほうが非効率」
「上司の顔色うかがいながら仕事するストレスから解放されたのに」
ある投稿では、こんな皮肉も見られた。
「出社してやることがZoom会議って、ホント意味不明」
確かに、オフィスでリモート会議に参加する矛盾は多くの企業で起きている現象だ。
●出社拒否する部下を3つのタイプに分けると
出社を拒む部下たちを分析すると、大きく3つのタイプに分けられる。
1. ライフスタイル重視型
2. 効率追求型
3. 人間関係回避型
まずライフスタイル重視型は、家族との時間を大切にする。子育てや介護に負担のある社員も多い。通勤時間をなくすことで、突発的な子どものトラブルにも対応できる。高齢の親が通所する施設からの問い合わせにも柔軟に対応できる。
Xには「在宅のおかげで、子供の宿題を見てあげられるようになった」という声もある。
このタイプは会社へのエンゲージメントが低いわけではない。ただ、仕事と生活のバランスを重視する。無理に出社を強制すると、本当に転職してしまう可能性が高い。
次に効率追求型だ。彼らは通勤時間を「生産性ゼロの無駄」と考える。例えば往復2時間の通勤だと、年間で約500時間になる。この時間を使えばいろいろなスキルアップができると主張する。
「通勤電車でスマホゲームするより、在宅で資格勉強したい」
「満員電車で疲れて帰宅後は何もできない。在宅なら副業もできる」
最後に人間関係回避型である。職場の人間関係にストレスを感じている。上司の監視、同僚との軋轢(あつれき)、無意味な飲み会など。これらから解放されたいと願っている。
「パワハラ上司と顔を合わせなくていいのが最高」
「ランチの誘いを断る罪悪感から解放された」
メンタルヘルスの観点から、このタイプには配慮が必要だ。無理な出社命令は、休職や退職につながる可能性がある。
●出社義務化で失うものは何か
企業が出社義務化に踏み切る理由は理解できる。新人教育の難しさ、チームワークの低下、イノベーションの停滞。これらは実際に起きている問題だ。
しかし出社義務化で失うものも大きい。
まず優秀な人材の流出だ。テレワークを前提に入社した社員は裏切られたと感じるかもしれない。Xでは「テレワーク可能って聞いて転職したのに詐欺だ」という怒りの声も散見される。
次に多様性の喪失である。地方在住者、障がい者、育児中の親。これらの人材が働きにくくなる。ダイバーシティーをうたいながら、実際は画一的な働き方を強制するのは矛盾があるだろう。
働く場所や時間帯を固定すれば、その範囲外で働ける人を排除することにつながる。NTTのように、テレワーク優先という姿勢を変えない企業もあるのだ。信念がない、柔軟性が欠けているといった会社への失望は、社員のやる気を奪う大きな要因になるだろう。
ある調査では、出社義務化後に離職率が30%上昇した企業もある。特に20代、30代の離職が目立つ。
●部下との対話で見つける落としどころ
では、出社を拒む部下にはどう対応すべきか。
まず重要なのは、一律の対応を避けることだ。部下のタイプや状況に応じた個別対応が必要である。
例えば子育て中の部下には、週2回の出社から始める。徐々に慣らしていく。急な対応が必要な日には、在宅を認める柔軟性も大切だろう。
効率追求型の部下には、出社の目的を明確にする。「この会議だけは対面で」「新プロジェクトのキックオフは全員集合」など、理由を説明する。
リアルでしか得られない情緒的なメリットについても、粘り強く説明しよう。説明不足や、押し付けは良くない。単に「変化を嫌っているだけだ」と、受け止められる可能性が高いからだ。
人間関係に悩む部下とは、対話を繰り返そう。リモートにすれば解消される問題ではないからだ。あまりに傷が深いなら、別の部署への異動も検討する。また、出社日をずらして、苦手な人と会わない工夫も選択肢として用意しよう。
Xで話題になった投稿がある。
「上司から『出社は週1でいいから、その日は全員でランチしよう』って。これなら出社も楽しみ」
このような前向きな提案が、部下の心を動かす。
●引き止めるべきか、去ってもらうべきか
優秀で代替が効かない人材なら、柔軟な対応で引き止めるべきだ。完全リモートを特例として認める選択肢もあるだろう。
一方、リモートを言い訳に仕事をサボる部下もいる。連絡が取れない、締切を守らない、成果が出ない。こうした部下は、出社義務化を機に見極める必要がある。たとえマイクロマネジメントになったとしても、細かく管理しよう。
ただし安易に「嫌なら辞めろ」という態度は危険だ。SNSで悪評が広まれば、採用に悪影響が出る。
「あの会社はリモート詐欺」
「時代遅れのブラック企業」
こんなレッテルを貼られたら、優秀な人材は寄り付かない。
大切なのは、会社の方針を明確に示しつつ、個別の事情に耳を傾けることだ。画一的な管理から、多様性を認める経営への転換。これが令和時代の組織運営である。
最終的な判断は、その部下の価値観による。会社側も、全ての要望に応えることはできないのだから。
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