写真あなたは信じていた人に裏切られてしまった経験がありますか?
今回はまさに、「まさか自分が……と思うような裏切り」のエピソードをご紹介しましょう。
◆大人しくて地味な後輩に慕われて
藤崎慶子さん(仮名・33歳/会社員)の働く部署に、新しく派遣社員の結菜さん(仮名・27歳)が入ってきました。
「初対面の結菜さんの印象は大人しくて地味な子といった感じでしたね。仕事を覚えるのに若干時間がかかったのですが、教育係の私にたくさん質問してきてはメモをとる彼女の姿を見ていたら、一生懸命さが伝わってきて徐々に仲良くなっていったんですよ」
そして一緒にランチをしている時に、ふと結菜さんに「もし嫌じゃなかったら、慶子さんが使っている化粧品や普段どこで服や靴を買っているのか教えてもらえませんか? いつも素敵なので」とお願いされたそう。
「そんな風に言ってもらえてとても嬉しかったし、気分が良くなった私は化粧品のメーカーや品番、普段使っている通販サイトを全て教えました。コロナ禍で通販にハマり、失敗しながらも吟味を重ねて辿り着いたお気に入りを彼女に伝授したんですよ」
するとさっそくそれらの洋服を身にまとい、メイクを変えてイメチェンをはかった結菜さんはどんどん垢抜けていきました。
「さらに私のインスタをチェックして、私がお気に入りの飲食店に行ったり同じ映画を観てきて感想を言ってきたりと……私って結菜さんのインフルエンサーなの? みたいな扱いを受けて(笑)。ちょっと私の影響を受けすぎな気もするけど、こんなに慕ってくれて嬉しいなという気持ちが強かったですね」
◆恋の悩みもとことん聞いてあげた
そんなある日、いつものように一緒にランチを食べていると結菜さんの目が腫れていることに気がついたそう。
「心配になりどうしたのかと聞いてみたら……最初言いにくそうにしていたのですが、好きな人ができたそうなんです。でもその男性には彼女がいるので苦しくて、泣きながら眠る日が続いていると打ち明けられたんですよ」
今までも恋愛の話にはなったことがありましたが、結菜さんはここ数年恋愛をしていなく、今までに付き合った人数も2人ということでした。
「自慢ではないですが私は今までそこそこモテてきて、彼氏の直之(仮名・34歳・IT関係)とは結婚の話もしていてとても順調。なので結菜さんよりは経験値が高いと思い、少しは良いアドバイスができるかもと結菜さんの恋の悩みをとことん聞いてあげたんですよ」
すると結菜さんはその男性とSNSで出会い、まだDMで共通の趣味の話をしているだけだそうで……。
「まだ会ったこともないのに、泣くほど好きになるなんてなんて純粋なの! と驚いてしまいました。ですが、その男性の見た目やメッセージの内容や、コメントに対する返信のセンスなどが愛おしくてたまらないと悶え苦しんでいる結菜さんが辛そうで見ていられなくなってしまって」
◆励ましのアドバイスで背中を押す
つい「そこまで言うなら、その男性は結婚しているわけではないし、もうちょっと距離を詰めてから一度会って、思い切って気持ちを打ち明けてみたら? 彼女がいるなら断られてしまう確率が高いと思うけど、もしかしたら今その彼女と上手くいっていないかもしれないし、可能性がゼロなわけではないと思う」とアドバイスしました。
「すると結菜さんは『頑張ってみます!』と笑顔になってくれて、ホッとしました。それからたまに『あの件はどうなったの?』と確認していたのですが、『まだ距離を詰め中です』とか『やっと会ってもらえましたが緊張して思いは伝えられなかったので、またチャレンジする予定なんで』みたいな感じでとにかく進展が遅くて、そのうちそんなこともすっかり忘れて生活していたんですが……」
◆後輩が恋する相手が判明!
さて慶子さんに何が起きたのでしょう?
「2年間付き合っている直之から急に別れ話を切り出されてしまい、ショックで泣きながら理由を聞いたら『ごめん、好きな子ができてしまった』と言うので頭にきて。どんな女か確かめてやる! と半狂乱で直之のスマホを無理やり奪って中身を見てみたら……なんと結菜さんと直之が仲良さそうにピッタリくっついている写真が何枚もでてきて、唖然としてしまいました」
しかもその写真に映る結菜さんが、慶子さんに教えてもらったファッションやメイクで数段美人になっているうえに、直之さんを振り向かせたことで自信に満ち溢れていて、まるでこちらを嘲笑(あざわら)っているように見えたそう。
「直之が詳細は話したくないと言うので、スマホで2人のやり取りを見てみたら、最初は結菜さんのアタックを断っていた直之でしたが、次第に結菜さんへ心が傾いていく様子が手に取るように伝わってきて。あまりにムカついてスマホを折って破壊し、壁に叩きつけてしまいましたね」
どうやら結菜さんは、慶子さんのインスタで直之さんのことが気になり、アカウントを特定して趣味の仲間として近づくと、慶子さんのアドバイス通りに距離を詰めて想いを伝えたようでした。
「彼氏にも、可愛がっていた後輩にも裏切られた私はズタズタに傷つき、でもあんな女に落ちてしまった直之に追いすがるのもプライドが許されなかったので、私は別れることを了承して家に帰って独りで泣いたんですよ」
◆消えた後輩は、古い私の抜け殻
そして週明けに出社すると、結菜さんはもう会社を辞めていたそう。
「理由は体調不良とのことでしたが、絶対に嘘だなと思いました。それ以来、私は今まで着ていた服はほとんど捨てて髪も切ってイメチェンし、メイクもがらりと変えたんですよね」
2人のことは今でも思い出すとムカムカしますが、今回の件がなかったら人生の中でこんなに大胆なイメチェンはできなかったかもしれないと慶子さんは語ります。
「学生時代からの、自分にはこういう雰囲気の服やメイクしか似合わないという思い込みを全部捨てて、新しくなった今の自分の姿がとても気に入っているんですよね。結菜さんは古い私の抜け殻だと思うことにして、気持ちを切り替えて新たな自分で頑張っていこうと思っています」と微笑む慶子さんなのでした。
<文・イラスト/鈴木詩子>
【鈴木詩子】
漫画家。『アックス』や奥様向け実話漫画誌を中心に活動中。好きなプロレスラーは棚橋弘至。著書『女ヒエラルキー底辺少女』(青林工藝舎)が映画化。Twitter:@skippop