写真 “ズルイ人”とは、私利私欲のために不正な手段を講じる人をいいます。だから、そもそもそれらの類の人たちは相手のことなど何も考えていません。とんでもない人たちです。
今回取材に応じてくれた男性は、その“ズルイ人”に成敗したそうです。一体どんな結末が待っていたのでしょうか。
◆和気あいあいな職場を台無しにする奴
都内の建築設計事務所に勤める松本さん(仮名・32歳)は、同僚たちと良好な関係を築いていました。和気あいあいとした雰囲気の職場ですが、ただ一人、どうしても気に入らない人物がいたといいます。
その人物の名は佐藤(仮名)。口がうまく、上司へのゴマすりが得意なタイプでした。松本さんは少し押しが弱く口下手。ただ、設計の技量や知識は折り紙つきで、若手ながら上司からの評価も高かったそうです。
「最初は気にしないようにしていたんです。でも、僕がまとめた案をあたかも自分のもののように発表するんですよ。私も佐藤ほど口がうまければ……。言いくるめられる自分にもジレンマを感じています」
松本さんが淡々と振り返る姿からは、長く募ってきた悔しさがにじみ出ていました。
◆意を決しての罠じかけ
転機は大規模プロジェクトのプレゼン準備でした。連日、深夜まで続く打ち合わせ。そんなある晩、佐藤が言い出したのです。
「今日はもう遅いから、俺があとやっとくよ」
その瞬間、松本さんの胸に嫌な予感が走りました。体調も崩しかけていた松本さんは、帰宅を選びましたが、心のどこかで覚悟を決めてもいたのです。
「佐藤の魂胆は分かっていました。ある程度プランが出来上がってきたら、少し手を加えて自分の案とするんです。もう我慢の限界でした。だから、パソコンを閉じる際に、わざと寸法の数値を間違えて共通フォルダに保存しました。1の位を全部”9”にして……」
冷静にそう語る松本さん。もし何か問題が発生したら会社を辞める覚悟さえあったといいます。そして、案の定その仕掛けは、後に佐藤を追い詰める決定打となりました。
◆計画通りに進んだ作戦
プレゼン当日。会議室で佐藤は得意げに役員の前に立ちました。ところが、専務が静かに口を開いたのです。
「佐藤くん、この図面は君が考案したのか? 同じ箇所なのに寸法と強度計算が一致していないんだが」
一気に空気が変わりました。佐藤は「えーと、あのー」としどろもどろ。そのタイミングで、松本さんは、少し派手にノックをし会議室へ入り込んだといいます。
「専務、突然すみません。実はその図面、私が作成しました。ご指摘の数値は誤植で、すべて1の位を”2”に直すと正しい内容になります」
突然割って入った松本さんに、最初は不思議そうな表情で見つめる役員一同でしたが、言う通りに数値を変更すると問題が全て解消されたそうです。松本さんは続けてーー。
「正直に言います。この数値は私が意図的に変えました。理由は、佐藤くんがこれまで私の図面を自分の成果として見せてきたからです。どうしても許せなかったんです。だから、わざと数値を変更して、彼の不正な行為を皆さんに知らしめたかったのです。もちろん、こういう行為は不本意ですし、覚悟を決めて辞表も持参しています」
会議室はしばし沈黙に包まれまれたと言います。
◆“ぐうの音も出ない”その結末
しばらくした後、ゆっくり専務はうなずき、松本さんにこう告げました。
「わかりました。このプランは松本くんの監修ということで進めます。佐藤くんはあとで役員室に来なさい」
それ依頼、佐藤の姿を事務所で見ることはなかったそうです。噂では地方の支店への異動が命じられたとのことです。
「正直、職を失う怖さもありました。でも、あのまま泣き寝入りしていたら、もっと悔しい思いをしていたと思います」
淡々と語る松本さんの表情には、ようやく胸のつかえが取れた安堵感が浮かんでいました。
職場の人間関係は時に理不尽です。しかし、自ら動かなければ状況は変わらない。その現実を、彼の行動が証明しているように思えました。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営