【ボクシング】山中慎介が断言 井上尚弥や中谷潤人を筆頭に「スーパーバンタム級でも日本人同士でベルトを争う時代がそこまできている」

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2025年10月14日 10:21  webスポルティーバ

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山中慎介インタビュー 後編

(前編:山中慎介から見た井上尚弥は「衰えた」どころか「手がつけられない」 KO以外で見せた圧倒的な強さを解説>>)

 ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦後、井上尚弥(大橋)は「倒しにいかないことがこれほど難しいとは」という言葉を残した。KOを狙わずに試合を完全に支配したモンスターを、トップランク社のボブ・アラムCEOは「コンプリートファイター」と評した。会場には来年の対戦が予定されている中谷潤人(M.T)の姿もあり、ファンは頂上決戦へと期待を膨らませている。

 同じ興行のセミファイナルでは、武居由樹(大橋)がクリスチャン・メディナ(メキシコ)に衝撃の4ラウンドTKO負け。プロ初黒星で王座陥落となった。群雄割拠の様相を見せるバンタム、スーパーバンタム級戦線について、元WBC世界バンタム級王者・山中慎介氏に聞いた。

【井上尚弥は「コンプリートファイター」】

――試合後に井上選手が口にした、「倒しにいかないことがこれほど難しいとは」という言葉についてどう思いましたか?

「『倒したいけど、相手のパンチを警戒して攻めきれなかった』というケースはありますよね。でも、自分にブレーキをかけて、あえて倒しにいかないというのはあまり聞いたことがないです(笑)。勝ちに徹して隙を与えない、という戦い方ですよね」

――試合前の予想で「井上選手は根っからのファイター気質で"打ち合い上等"のタイプ」とおっしゃっていましたよね。山中さんご自身も、そういった気持ちになったことはありますか?

「そうですね。自分も初防衛戦でビック・ダルチニアン(オーストラリア)と戦った時(2012年)、最終ラウンドで、ポイントで勝っていると思っていたので、『(KOを狙いに)いっていいですか?』と会長に聞いたら『ダメだ』と。やっぱり選手としては『チャンスがあれば倒したい』という気持ちが強いんですよね」

――トップランク社のボブ・アラムCEOが、井上選手を「コンプリートファイター」と評していましたね?

「まさにそうだと思います。12ラウンドをあのスピードで動かれたら、フェザー級でも十分通用するでしょう。テレンス・クロフォード(アメリカ)が2階級上げてサウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)に触れさせなかったように、井上も階級を上げて同じ展開に持ち込める気がします。今回のボクシングを見せられたら、どこまでいけるのか、シンプルに見たくなりますよね」

【井上と中谷、お互いが見せ続ける新たなスタイル】

――会場には中谷選手の姿もありました。今回の井上選手のスタイルを見たことによる影響はどうでしょう。

「試合後、リング上から井上が呼びかけて中谷が手を上げて応えました。粋なことをしますよね(笑)。今回、井上側からすれば、あれだけ動けるところを見せられたのは大きいですよね。中谷側は、対策として考えることが増えたと思います」

――中谷選手は、かねてから井上選手との対戦を希望していて、いっさいブレないですよね。

「そこがすごいところで、スーパーバンタム級で5つのベルト(WBA、WBC、IBF、WBOの主要4団体に加えて、『ザ・リング』選定ベルト)を獲りにいく、と言ってますからね」

――今回の試合を踏まえて、来年予定されている中谷戦はどこがポイントになりますか?

「今回、井上は攻撃的なアウトボクシングを見せました。一方で、中谷は前回の西田凌佑(六島)戦で、序盤のラッシュや近距離での打ち合いを見せました。お互いが直近の試合で新たなスタイルを披露している。まだ開けていない引き出しも当然あるでしょうし、試合に向けてさらに準備してくるはずです。それが実際の試合でどう表われるのか、そこが一番の見どころになると思います」

――「井上が強い」「中谷が強い」試合ごとに世間の反応も大きく変わりますよね。

「ボクシングは昔から一戦ごとに評価が大きく変わりますからね。ラモン・カルデナス(アメリカ)戦でダウンを喫したことで不安視された井上ですが、今回のアフマダリエフ戦でまた一気に評価が高まりました。そういうところも、ボクシングの面白さだと思います」

――12月27日、サウジアラビアで、井上選手はWBCスーパーバンタム級1位アラン・ピカソ(メキシコ)選手と、中谷選手はWBC同級8位セバスチャン・エルナンデス(メキシコ)選手と対戦することになりました。

「ピカソ戦については、正直、勝負論という点では薄いかもしれません。方や、中谷選手の相手はかなり強い選手だと聞いています。同じ日にリングに上がる2人の試合結果が、来年予定されている直接対決への期待をさらに高めるでしょう。ファンとしても注目の一日になると思います」

【武居の王座陥落と勢力図】

――武居選手がメディナ選手に4回TKOで負け、WBO世界バンタム級の王座から陥落となりました。

「メディナは前評判どおり実力が高かったですね。1ラウンドに衝撃的なダウンを奪ったあたりから、その強さがはっきり出ていました。ミドルからショートレンジに入る絶妙な距離感で、思いきりのいい左右のフックを振れるし、右のノーモーションのストレートもある。強さに加えてうまさもあるタイプです」

――出力の高さを感じる猛攻でした。

「空振りしただけでもパンチの強さが伝わってきましたよね。それに加えて、武居対策をしっかりしてきた印象もありました」

――武居選手のパンチに合わせていた?

「序盤からタイミングが合っていましたね。常に打ち終わりを狙っていて、同時打ちも仕かけていました。もともと武居は、遠い距離からの上下打ち分けもうまい選手なんですけど、メディナの狙いを警戒して出られなかった。そのうちに距離を詰められて連打をもらいました」

――最初のダウンは、メディナ選手の左ボディからの右フックでした。

「下を見せておいて上で倒す、最近よく見るパターンのひとつですよね。このダウンが本当に大きかった。武居も2ラウンド目に攻勢に出て立て直そうとはしましたが、メディナがそれを許さなかった。メディナは4敗していますが、KO負けはなく、実力のあるタフな選手だと思いましたね」

――メディナ選手の直近の敗北は、西田選手との対戦での判定負け(IBF世界バンタム級挑戦者決定戦)です。

「今回の試合を見て、あらためて『西田は距離の取り方がうまいんだな』と思いました」

――その西田選手は、IBFからヘルウィン・アンカハス(フィリピン)選手とスーパーバンタム級の挑戦者決定戦を指示されたという報道も一部であるのですが、ここに勝てば井上選手と、という流れもあるのでしょうか?

「井上は、中谷との試合次第ですよね。フェザー級に上げる可能性もありますから。同じ階級で世界を狙っている村田昴(WBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王者/帝拳)らもいますからね」

――東洋太平洋スーパーバンタム級王者の中嶋一輝選手(大橋)も絡んでくるでしょうね。

「そうですね、そのあたりの選手がどう動くのか、タイミング次第です。とにかく今、バンタム、スーパーバンタム級は上が詰まっていますから」

――バンタム級戦線では、那須川天心選手(帝拳)と井上拓真選手(大橋)のWBC世界バンタム級王座決定戦が11月24日に行なわれます。この結果次第では、武居選手が王座を狙う可能性もあるのでは?

「大橋会長も触れていましたが、武居はバンタム級で減量が少し厳しいみたいですからね。右肩のケガから復帰しましたが、そのコンディションがどこまで戻っているのか。その点は気になりますね」

――バンタム級を束ねていた井上選手が階級を上げ、日本人がそれぞれ4団体の王座を獲得しました。今後、スーパーバンタム級でも、同じようなことが起こる可能性はありますか?

「十分にあると思います。4団体を束ねる井上尚弥という絶対的な存在がいて、中谷をはじめ若い力が追いかけている。スーパーバンタム級でも日本人同士でベルトを争う時代がそこまできていると思います。群雄割拠のなかで、それぞれがどう結果を残して上がっていくのか、一戦一戦、目が離せません!」

【プロフィール】

■山中慎介(やまなか・しんすけ)

1982年、滋賀県生まれ。元WBC世界バンタム級チャンピオンの辰吉丈一郎氏が巻いていたベルトに憧れ、南京都高校(現・京都廣学館高校)でボクシングを始める。専修大学卒業後、2006年プロデビュー。2010年第65代日本バンタム級、2011年第29代WBC世界バンタム級の王座を獲得。「神の左」と称されるフィニッシュブローの左ストレートを武器に、日本歴代2位の12度の防衛を果たし、2018年に引退。現在、ボクシング解説者、アスリートタレントとして各種メディアで活躍。プロ戦績:31戦27勝(19KO)2敗2分。

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