NTTドコモは10月14日から17日まで幕張メッセで開催されているCEATEC 2025において、新しいコミュニケーション技術「人間拡張基盤 FEEL TECH(フィールテック)」による痛み共有システムを展示した。同技術はCEATEC AWARD 2025で経済産業大臣賞を受賞している。
●脳波から痛みを数値化、相手の感度に合わせて共有
FEEL TECHは、これまで伝えることが困難だった感覚や感情を相手に合わせて伝える技術。これまで触覚や味覚などの遠隔伝送システムを発表してきた。
今回ドコモが展示したのは、痛みを伝送して共有するシステムだ。痛覚刺激を受けた際の脳波データから痛みの程度を解析し、共有相手の感度特性に合わせて温度刺激として変換して伝える仕組みで、世界初の技術としている。
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腹痛やスポーツでの衝突による痛みから、辛い・冷たいといった刺激、さらには心理的な痛みまで、言語化が困難な感覚を他者と共有できる。
デモンストレーションでは、痛みを感じている人の脳波から読み取った痛みの程度を「13」や「56」といった数値とグラフで表示した。同じ痛みでも、痛みを感じやすい人と感じにくい人では感度が異なるため、共有時には相手の感度特性に合わせて刺激の強さを調整する仕組みだ。
技術開発を指揮するドコモの石川博規氏(モバイルイノベーションテック部 ユースケース協創担当 担当課長)によれば、事前に健常時の温度刺激に対する個人の痛み感度を測定しておき、新たな痛みを感じた際の脳波データと照合することで、相手に同じ痛みを疑似体験させることが可能になるという。
痛みの測定に脳波を用いる理由について「主観を抜きやすく、正解データが取りやすい」と説明。従来は10センチほどの線を引いて「今の痛みはこの辺」と示すVAS法(Visual Analogue Scale)が使われていたが、日によって評価が変わるなど客観性に課題があったという。
●医療からエンタメまで幅広い応用を視野
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ドコモはFEEL TECHの活用分野として、医療・介護現場での診断支援やリハビリ設計、XRゲームでの没入型体験、スポーツ選手の耐性把握とケガ予防、食品の辛みや冷たさの共有など幅広い用途を想定している。将来的にはカスタマーハラスメントやSNS上の誹謗(ひぼう)中傷といった心理的ダメージの可視化による抑止効果も期待できるという。
ただし医療分野への展開については「医療機器になってしまうためハードルが高い」とし、まずはエンターテインメント分野での活用を検討。心理的な痛みへの応用については「外的刺激と内的刺激の相関関係があれば可能性はある」としながらも、今後の研究課題だと位置付けた。
商用化時期について同社は、当初6Gのユースケースとして検討していたが「リアルタイム性がどこまで必要か検討した結果、もっと早く実現できる」と判断。2028年頃の先行商用化を目指すという。FEEL TECHでは痛み共有に先行して、触覚共有から事業化を進める計画だ。
●AI節電コーチで家庭の省エネを最適化
ドコモブースでは、サステナブルテックとして2つの環境技術も展示した。
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家庭の節電を促進するAIエージェント技術では、各家庭の電力使用パターンを学習し、ユーザーの性格に合わせて節電方法を提案。キャラクターが「電気を消しなさい」と命令調で伝えるか「消した方がいいと思うよ」と提案調にするかをユーザーごとに最適化し、無理のない節電行動を促す。
節電効果の可視化にも取り組んでおり、エアコンの温度調整による50ワット程度の変動も検出可能とする。節電の成否を判定しながら提案方法を改善していくという。
AIが節電の判断をできるなら自動で家電を制御すればよいようにも思えるが、担当者によれば「将来的には全ての家電がHEMS(Home Energy Management System)でつながり自動制御される理想はあるが、現状はメーカーごとに制御方法が異なるため、まだユーザーのリモコン操作に頼る段階」だという。AI演算による電力消費の懸念については「実運用ではスマートフォンアプリとして提供し、演算はクラウド上で行うため、全体として省電力になる設計」と説明した。
●自転車でCO2を回収するDAC技術
CO2を回収するDAC(Direct Air Capture)技術も紹介された。小型の装置を自転車などに取り付けて、走行中の風を利用してCO2を回収する。有孔構造の金属でCO2を吸着する仕組みで、電力を使わずに大気中のCO2を回収できる。
ただし現段階では、CO2の吸収量を定量化する技術が確立されておらず、ドコモ自身もDAC技術を保有していないため、技術を持つ企業との連携を模索している段階だ。
ドコモがこの技術に着目した背景には、グループ企業のドコモ・バイクシェアが展開する自転車シェアリングサービスがある。バッテリー交換時にCO2回収装置も同時に交換する運用を想定しており、既存のサービスインフラを活用したカーボンクレジット創出を狙う。ただし装置のコスト低減など実用化への課題は多く、2040年のネットゼロ実現に向けて、排出削減だけでなく大気中からCO2を除去するネガティブエミッション技術として開発を進めている。
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