
10月13日、大阪・関西万博が閉幕した。世界各国の国王・大統領らが万博のために来日したが、その際、東京に足を運んで皇居で天皇陛下と懇談することもあった。その数、宮内庁カウントで実に30回(28か国)。皇后さまや愛子さまが夕食やお茶の席に同席されることもあった。
【写真で見る】“ブルガリアヨーグルト交流”も 天皇陛下が万博中に28か国の王族らと懇談
懇談の場での会話は一部明らかになっている。「天皇陛下と王族・元首の面会」というとやはり緊張感があるものだが、時には陛下のほうからユーモアある言葉をかけられ、場が笑いに包まれることも多かったという。そうした飾らない姿勢は多くの王族らからとても好評だったそうだ。その一部を振り返る。
「ヨーグルトを食べても食べても・・・」▼4月9日 オマーン ジーヤザン王子
1人目はオマーンのジーヤザン王子。陛下が1994年に訪問した際、当時の国王から送られた牝馬「アハージージュ号」についての話題に(その子ども「豊歓」とは愛子さまも長く親しまれるなど、ご一家で思い出深い馬だ)。ほか、オマーンが出展した万博パビリオンのテーマ「水」の重要性について説明があり、水問題をライフワークとする陛下は熱心に聞かれていたという。
▼5月19日 ブルガリア ラデフ大統領
ブルガリアといえば、日本では同名のヨーグルトが有名だが、話題はそのことに及んだ。大統領が「1970年の大阪万博で、昭和天皇・香淳皇后がブルガリア館を訪問されて、ヨーグルトを召し上がった。それでブルガリアのヨーグルトが、広く日本に知られるようになったのです」と話すと、陛下はすかさず「(その時の)ブルガリア館は、円錐形のような建物だったと記憶してます。あれはブルガリアの山を表しているということだと思います」と答えられた。大統領は感激して「まさにブルガリアの自慢のひとつは山なんです。美しい山と高原の湖が魅力で、陛下がいらっしゃったらぜひそういう場所にも案内したい」とにこやかにやりとりが続いた。
また、陛下は小さいころ両親である上皇ご夫妻がブルガリアヨーグルトの種菌を持ってこられた思い出に触れ「食べても食べても、菌をちょっと残しておくと増えるのが興味深かったです」と話し、その後もヨーグルトに関する会話が続いたという。”ブルガリアヨーグルト交流”に花を咲かせ、和やかに懇談された一幕だった。
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▼5月21日 ハンガリー シュヨク大統領
大統領から「日本の医学生が200人ほどハンガリーで勉強している」「ハンガリーで活躍する指揮者・小林研一郎さん」などが話題に上がった。また、陛下はビオラ好きで知られ、海外の晩さん会などでも演奏を披露されているが、懇談の中では「作曲家バルトークが大好きです。とりわけビオラ協奏曲は好きですが、なかなか難しくて十分に演奏できる状態にはまだ至ってません」などと話され、音楽の話題で盛り上がった場面も。
▼5月22日 オーストリア ファン・デア・ベレン大統領
ここでも、音楽好きの陛下から多くの話が。陛下は「ウィーン少年合唱団の来日(※その1週間後に日本公演)を楽しみにしていて、皇后と聴きに行く予定です」などと話された。また、大統領から「1869年に両国が外交関係を樹立したとき、国王(オーストリア=ハンガリー帝国)から、ベーゼンドルファーという同国メーカーのピアノを明治天皇に贈った」という話が出ると、陛下が「まさにベーゼンドルファー製のピアノはここ(御所)にもあります」と返された。
▼5月27日 アイスランド トーマスドッティル大統領
陛下は、水・環境に関する話題におよんだ際「アイスランドと日本はともに海に囲まれていて、海の存在は非常に重要だと思います。人間は海に依存していますが、その海が色々なチャレンジを受けています」「アイスランドは再生可能エネルギーでまかなっていますが、とくに地熱発電の比率が高いですね」と熱心に述べられた。
▼6月13日 コソボ オスマニ大統領
陛下の方からジェンダーの問題について、「国作りのためには女性の活躍が大切だと思いますが、大統領はどうお考えですか」と質問された。大統領は「その点は非常に大切なポイントだと思います。コソボは人口が160万ほど小さい国なので、男女平等で仕事に取り組んでいく必要があります。たとえば平和の交渉のためにも、女性が交渉者として活躍してもらうことも大事です」と、女性登用の重要性を訴えた。このほか、陛下から「大統領はどのような食べ物でも好きなんですか」と話を振られ、大統領は「コソボでも日本料理も食べます。日本食、とくにお寿司が大好きで、家族とよくお寿司を食べています」と答えるなど、和やかな会話が続いた。
▼6月18日 ドイツ シュタインマイヤー大統領
先の大戦での敗戦国として、戦後80年に関する話題に。陛下は「沖縄や硫黄島、広島、長崎を訪問する予定です。『戦後80年』ということで、大統領が議会の演説で言ったように過去と向き合って、次の世代に伝えることが重要と考えています」と話された。(※大統領は「ナチスの歴史を背負う」という文脈で「過去と向き合うものは未来を諦めるものではない」と演説で発言)
また、大統領が若い世代が先の大戦についてどれくらい関心を持っているかを尋ねると、陛下は「こういうところを訪問すると、遺族の方とも話をしますが、若い世代も含め、語り部の方ともお話をすることにしています。こういう過去の記憶を次の世代につなげていくことは重要だと思います」と答えられたという。戦争関連の訪問における陛下の姿勢を、こうして陛下ご自身がはっきり口にされたことは意義深いと感じた。懇談の後半、大統領は「広島と長崎を訪問して、原爆の被害がいかに悲惨かと感じました。世界を見ると核弾頭の数が増えている報告もあり、軍縮の動きが見られないのは残念です」と話し、陛下は真剣な表情で耳を傾けられていたという。
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▼8月8日 ペルー ボルアルテ大統領
陛下はスペイン語を学んでいて、出迎えや冒頭写真撮影の際、通訳なしでスペイン語で会話されたという。「お会いできて光栄です」などと話した。2023年に佳子さまが公式訪問された時のことも話題に。
▼9月16日 セルビア ブチッチ大統領
陛下のほうから、Jリーグの名古屋グランパスエイトで活躍したストイコビッチ氏(旧ユーゴスラビア出身)の名前を出し「ストイコビッチは日本で大活躍されたので、多くの日本人が知っています」と話された。大統領は、自身が名古屋を訪問した時のことに触れ、「みんなストイコビッチのことを言ってきて、彼が有名なのだと(分かった)」と返すなど、なごやかな雰囲気での交流となった。
▼9月19日 イギリス エドワード王子、ソフィ妃
エドワード王子はチャールズ国王の弟。両陛下での懇談となり、愛子さまも同席された。日本の皇室とイギリス王室の長年にわたる交流について話題になったほか、お互いの家族の近況・最近の公務のことなど、1時間半にわたりなごやかな雰囲気で懇談された。また、王子夫妻はこれに先立ち、秋篠宮ご夫妻とも赤坂御所で交流し、長男・悠仁さまも出席して英語で挨拶されたという。
文字通り多忙なスケジュール。この半年間、陛下は海外訪問のほか「戦後80年」に関連した公務や日々の執務も立て込んでおり、宮内庁関係者も「今年の陛下は特にお忙しい中、本当にたくさんの外国賓客の方と交流されたので、お疲れが出ていないか心配だ」と話した。
万博閉幕以降も、海外要人との面会は続く。
関係者によると、10月27日の夕方遅くに、皇居・御所で陛下とトランプ大統領の懇談が調整されている。トランプ大統領は2019年に国賓で来日し、両陛下と宮中晩さん会にのぞんだが、今回は御所で比較的短い時間の懇談となる見込みで、陛下との昼食会などは予定されていない。政局の関係で来日が実現するか未確定という向きもあるが、実現すれば、6年ぶりの再会となる。
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皇室が「外交」をすることはできない。ただ、こうした「国際親善」により各国と交流を重ね、それが各国で報じられ、日本に親近感を覚えてくれる人が増えるのであれば、喜ばしいこと。そして日本国民にとっても、皇室の交流を通して相手国のことを知るきっかけになる。それは皇室の活動の中で、大きな意義のひとつだと思う。
(TBS 報道局社会部・宮内庁担当 岩永優樹)