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「日産スタジアム」の愛称で知られる横浜国際総合競技場だが、名前が変わる見通しだ。
同競技場は2005年に日産がネーミングライツ(命名権)を取得し、2026年3月からの1年間は現在の半額以下となる5000万円で日産が命名権を保持する方針だ。しかし日産は経営難にあえいでおり、その後の見通しは不明とされている。
2027年3月以降の命名権に関して、横浜市は公募をかけるとしている。国内ではこの20年ほどでネーミングライツの仕組みが普及し、公共施設に企業の名前が付けられるようになってきた。これまでの事例を振り返りながら、今後の動きについて考えていこう。
●1990年代から米国で普及したネーミングライツ
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日産スタジアムは横浜市が所有する。総工費は603億円で、収容人数は約7万2000人、年間維持費は約7億円だ。1997年に完成し、2002年のワールドカップ日韓大会で使われたほか、普段では横浜F・マリノスの本拠地としてJリーグの試合に使われている。同チームは日産のサッカー部を前身とし、もちろん日産がスポンサーだ。
日産は2005年に命名権を取得し、2021年から2026年2月までの契約では、最初の3年間は年1億円、後の2年間は年1億5000万円を支払う契約となっている。2026年度は日産の要求に応じて市は命名権の費用を減額したが、その後の見通しは不透明だ。市は命名権による収入を維持費にあてている。
スポーツ施設のネーミングライツは1990年代から米国で普及し、国内では「味の素スタジアム」を皮切りに普及していった。東京都が保有し、2001年に開場した「東京スタジアム」の命名権を味の素が2003年に取得。現在でも契約更新が続いており、2024年3月から2029年2月末までの5年間、総額で10億5000万円を支払う契約となっている。
現在は、J1のFC東京と東京ヴェルディの本拠地として使われている。味の素は2015年にFC東京とスポンサー契約を締結している。サッカー場では企業が施設の命名権を取得するとともに、同施設を本拠地とするチームとスポンサー契約を結ぶことが一般的だ。
●過去に三度も名前が変わった球場も
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神戸市が所有する「神戸総合運動公園野球場」は、過去3度も命名権の取得者が変わった。1988年に完成し、1989年以降はオリックス・ブレーブスやブルーウェーブ、バファローズの本拠地、準本拠地として使われている。
2003年にソフトバンクが命名権を取得し「Yahoo! BBスタジアム」となった。国内の野球場では初の取り組みとされ、ソフトバンク側は「ボールパーク構想」の熱意に共感したことを理由に挙げている。当時、ソフトバンクが野球への参入を試みていた。2005年に福岡ダイエーホークスを子会社化し、同チームの名称を福岡ソフトバンクホークスに変更している。
ホークスを傘下に収めたため、ソフトバンクは同球場の命名権が不要になったのだろう。2005年にはスカイマークが取得し、名称が「スカイマークスタジアム」となった。スカイマークは2008年に契約を更新したが、2011年以降は更新せず、神戸市は新たな契約者を募った。
その後「ほっともっと」「やよい軒」を展開するプレナスが新たに命名権を取得。以降、現在に至るまで「ほっともっとフィールド神戸」という名称が付いている。現在の命名権料は年間約3500万円だ。
現在は本拠地ではなく「準本拠地」として使われていることも関係しているだろうが、頻繁に名称が変わってきたため、他のネーミングライツがある施設より知名度が低い印象を受ける。命名権は企業側の都合で名称が変わるのが欠点といえるだろう。なお、オリックスが本拠地とする大阪ドームは2006年に京セラが命名権を取得し、現在に至るまで「京セラドーム」の愛称が定着している。
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●ネーミングライツのメリットとデメリット
2020年の東京オリンピックでメイン会場となった国立競技場では、2026年から三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が命名権を取得する。取得金額は5年間で100億円規模となる見通し。これまで、命名権料は年1億円規模の日産スタジアムが最大であり、国立競技場は相場を大きく上回る規模である。
スポーツ施設の命名権は自治体の公費負担を低減する効果がある。また、知名度の大きい企業が命名権を取得すれば「○○市立総合競技場」という名称よりも認知度が高まりやすい。デメリットは企業側の都合で名称が変わってしまうことだろう。1997年に屋外球場に屋根をつけて開業した「西武ドーム」もグッドウィルドーム、メットライフドームなどの名称を経て、2022年にベルーナドームへと名称を変更した。頻繁に変わると球場の立地があやふやになり、新たな球場ができたと誤認識しかねない。
筆者の目には、昨今ネーミングライツの動きが過剰になっているように見える。公費負担低減のうま味を知った自治体は図書館や歩道橋、公衆トイレに至るまで命名権を販売するようになった。名古屋市の図書館では市民の反対により、命名権取得に応募した企業が辞退する事例も起きている。
命名権の乱用は、命名権販売をあてにすることになって自治体財政が弛緩(しかん)することにもつながりかねない。命名権は大規模スポーツ施設にとどめるべきではないだろうか。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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