サッカー日本代表のブラジル戦勝利の裏で忘れてはいけないこと 奇襲だけではワールドカップベスト8は難しい

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2025年10月17日 07:30  webスポルティーバ

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 3対2の大逆転勝利。日本が史上初めてブラジルに勝利した東京スタジアムでの一戦は、まるでカタールW杯のドイツ戦やスペイン戦の再現と言えるような試合だった。

 前半は日本が相手にほぼ一方的に支配され、ほとんど勝機はうかがえなかったものの、後半は一転して開始からアグレッシブにプレッシャーをかけて相手を驚かせると、相手がその落差に順応できないうちに、短時間でゴールを重ねて逆転。その後は、相手の反撃を自陣で守り抜いて勝利をもぎとった。

 2度あることは3度ある、とはよく言うが、森保体制になって3度も同じようなかたちでW杯優勝国から金星を挙げたことを考えると、もはやこの戦い方が強豪との試合用の奇襲戦法として定番化しそうな気配さえある。

 いずれにしても、これまで勝てなかったブラジルに勝利し、日本サッカー史に新たな1ページが刻まれた。同時に、今回の成功体験が選手やコーチングスタッフに自信を与えたのは間違いないだろう。その意味では、滅多にお目にかかれないブラジルの自滅劇ではあったが、日本がその隙を逃さずに勝利に結びつけたことは称賛に値する。

 その一方で、この試合が来年に控えたW杯本番に向けた強化試合である点も忘れてはいけない。森保一監督がよく口にする「チームとしての積み上げ」という視点に立てば、今回のブラジル戦の勝利を「点」で見るだけはなく、「線」で見る必要もある。

 果たして、9月シリーズの2試合、とりわけ10月シリーズ初戦となった4日前のパラグアイ戦で浮き彫りになった問題点は、この試合で改善できたのか。自分たちが主体的に戦うサッカーを実現するために用いているはずの「3−4−2−1」は機能していたのか。そこに焦点を当てて振り返ってみると、試合の評価も変わってくる。

【敵陣でのプレーがほとんどできなかった前半】

 まず、最終的に日本が2点のビハインドを背負った前半は、ほぼブラジルのペースで展開。特にスコアが0−2になった32分以降の日本には反撃の糸口さえ見当たらず、極めて厳しい戦況に陥っていた。

 最大の要因は、試合後会見における森保監督の弁に集約される。

「実は、前半も後半のようにプレッシャーをかけたかったので、選手たちには(試合の)入りはアグレッシブに行くこと、試合が落ち着いた時には基本を前向きのブロックからプレッシャーをかけてボールを奪ってから攻撃を仕掛けるということを、トレーニングやミーティングで準備をしていました。ただ、私自身の伝え方がよくなかったのか、最初はプレッシャーがうまくかけられなかった。そこは、自分自身の反省としてあります。

 もうひとつは、ブラジルの圧を選手が感じてしまい、少し構えてから行こうというところにつながったのは、2022年カタールW杯のドイツ戦で、アグレッシブに入ってすぐにかたちを作らなければいけなかったことに似ているので、そこはチーム全体の経験値を高めていかなければいけない。もっと自信を持って試合に挑めるよう、私自身が選手の背中を押してあげられるように声掛けしなければいけないと感じました」

 つまり前半の日本は、ベンチの狙いとは裏腹に、ピッチに立った選手たちが前からのプレスを避けた、ということになる。選手の判断を最優先する現体制の方針からすれば、たとえ事前の伝え方を変えたとしても、今後もこういった現象は避けられないだろう。

 少なくとも前半は、W杯レベルの相手に対して前からハメて試合序盤から主導権を握るという戦い方の積み上げについては、手応えを得られなかった。それは、ボール支配率にも表われていて、ブラジルの66.6%に対して日本は33.4%。特に30分から前半終了までの時間帯で日本は27.3%と、両ウイングバック(WB)にアタッカーを配置する3−4−2−1の目的のひとつでもある、敵陣でのボール保持はほとんどできなかった。

 もっとも、ブラジルが4バックに代表経験の浅い選手をテスト起用していたこともあり、日本がまったく攻撃できなかったわけでもなかった。特に右サイドを個人技で突破した堂安律と久保建英のふたりと、左の中村敬斗がアタッキングサードに潜り込んで計8本のクロスを供給。ただ、すべて相手に跳ね返されたという点では、敵陣での縦パスが3本しかなかった中央攻撃とのバランスも含めて、パラグアイ戦の課題は残されたままとなった。

 また、ミドルゾーンで5−2−3、自陣では5−4−1を形成する守備についても、2失点を喫したことで課題を残した。もちろん、ブラジルの2ゴールは日本が両WBに本職を配置していたとしても避けられなかった可能性が高かったが、どちらもDFラインの裏を突かれた失点であるのはパラグアイ戦と同じ(1失点目)。チーム全体の守備として、引き続き自陣ボックス付近でのディティールを見直す必要はあるだろう。

【カタールW杯を想起させる試合運び】

 試合の流れが激変したのは、後半からだ。森保監督はその要因について、ハーフタイムに選手たちが建設的にコミュニケーションをとってくれたことと、コーチ陣が「誰が誰に行く」といった明確な役割を伝えてくれたことを挙げている。要するに、前半からやりたくてもできなかった前からのプレスをあらためて整理し、やり直したのだった。

 4−3−3の相手に対する前からのプレス方法は、基本的に9月のメキシコ戦と同様だった。相手のアンカーは1トップの上田綺世が見て、ふたりのセンターバック(CB)にはシャドーの久保と南野拓実がプレス。両サイドバックにはWBの堂安と中村が、インサイドハーフにはダブルボランチの鎌田大地と佐野海舟が、そして3トップには3人のCBがそれぞれつくという、いわゆるオールコートマンツーマンだ。

 そのかたちが明確に見えたのが、後半に入って47分のブラジルのゴールキックのシーンになるが、しかしそれ以降、日本のオールコートマンツーマンが完全にハマっていたシーンは意外と少なかったのも事実だった。

 とはいえ、2点をリードして以降、日本のプレッシャーを感じることなく、余裕を持ってボールを支配しながら前半を締めくくっていたブラジルを慌てさせるには、選手全員がプレーの矢印を前方向に向けただけで十分だったのかもしれない。

 実際、予定どおりのハメ方ではなかったものの、52分には上田がプレッシャーをかけた自陣ボックス内の右CBファブリシオ・ブルーノ(14番)が、左CBルーカス・ベラウド(15番)にプレスをかけていた南野に信じられないようなプレゼントパスをして日本の1ゴール目が生まれ、そこから試合の流れは大きく変わった。

 以降は、試合後にカルロ・アンチェロッティ監督が「最初のミスでチームはコントロールを失い、メンタル面で落ち込んでよくない結果を招いた」と振り返ったように、攻守にわたってブラジルのプレー精度が大きく乱れた。そして試合の流れを取り戻すことができないまま、わずか19分間で逆転を許すに至っている。

 その展開どおり、後半の日本のボール支配率は最初の15分間が50.7%で、ブラジルが我を失っていた60分から75分までは63.0%に上昇。ラスト15分間で23.5%に低下したのは、リードした日本が選手交代も含めて守備に軸足を移し、試合を締めくくったからだ。

 日本が後半に見せた攻撃方法は、GK鈴木彩艶を含めて後方から躊躇なくロングボールを多用して敵陣で相手にプレッシャーをかけ続けることと、自陣でブロックを作ってボールを奪ってからは縦に速いカウンターを仕掛けるというものだった。

 その結果、敵陣でのくさびの縦パスは1本もなかった代わりに、クロスボールは9本を記録。途中出場した伊東純也がハイパフォーマンスを見せたこともあり、そのうち成功が7本と、ぐっと成功率を上昇させている。それも含めて、まさしくカタールW杯のスペイン戦を想起させる試合運びだったと言っていい。

【奇襲作戦だけでは...】

 ただし、後半の戦い方がこれまで積み上げてきたサッカーでないことは明白で、ここは確認しておくべきだろう。そもそも、奇襲作戦だけではベスト8以上の成績は難しいというカタールW杯後の反省があったからこそ、第2次森保ジャパンではこれまで主導権を握って主体的に戦えるチームを目指してきた経緯がある。それは、試合後の森保監督のコメントにも表われている。

 確かにブラジルから歴史に残る1勝を挙げたことは喜ばしいが、その原点を忘れてしまっては、元の木阿弥。来月の強化試合では、その原点を基準にして、試合内容から強化の進捗を確認してみたい。

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