※写真はイメージです 移動に欠かせない交通手段のひとつである電車。しかし、通勤や通学の時間帯は混雑するため、殺伐とした雰囲気がある。車内では譲り合いの精神を持って、お互い気持ちよく過ごしたいものだ。
今回は、電車内でマナー違反の客に声をかけた結果、一体どうなったのか。2人のエピソードを紹介する。
◆隣の席で始まった“化粧タイム”
斉藤茉奈さん(仮名・40代)は、いつものように通勤電車に乗っていた。座席はすべて埋まっていたが混雑はしておらず、比較的落ち着いた雰囲気だったという。
その日の服装は“黒いワンピース”だった。隣には若い女性が座っていたそうだ。
「ふと視線を向けると、その女性がバックから化粧ポーチをとり出してメイクをし始めたんです」
電車内での化粧を目にすることは多々あるため、とくに気にするほどではなかった。「自由にすればいい」と思っていた斉藤さんだったが、次第に様子が変わっていく。
◆舞い上がる“粉”と小さなひと言
女性がフェイスパウダーを叩き始めると、細かな“粉”がふわりと舞い、斉藤さんの黒いワンピースにうっすらと白く積もったという。
「最初は気のせいかと思ったんですが、膝元に粉がはっきりと見えるほどになっていました」
注意すべきか迷ったものの、電車内で口論になるのは避けたかったため、斉藤さんは黙って座っていた。すると、少し離れた場所に立っていた女性が、はっきりとした声で注意したのだ。
「電車での化粧はいいですけど、他の方に迷惑をかけるのはマナー違反ですよ。隣の方の服が汚れているじゃないですか!」
その一言で、車内の空気が一瞬静まり返る。
隣の女性は驚いたように手を止め、斉藤さんの服を見て動揺した様子だった。
そして、小さな声で「すみませんでした」と謝り、バックから財布をとり出して「クリーニング代です」と“お札”を差し出してきたそうだ。
斉藤さんは軽く会釈をして受け取り、女性は次の駅で何も言わずに降りていった。自分では何も言えなかったが、代わりに声を上げてくれた人の存在が救いだったと振り返る。
「あの日のことは今でも印象に残っています。小さな勇気が、誰かの気持ちを救うこともあるんだと感じました」
◆勇気を出して声をかけた結果…
妊娠7か月のとき、母親と会うために電車を利用していた木村奈々さん(仮名・30代)。お腹が目立つようになり、なるべく優先席の近くに立つようにしていたという。
その日は朝の通勤ラッシュ。座席はすべて埋まり、木村さんは優先席の前に立った。
「体調がすぐれず、足の付け根に鈍い痛みを感じていたんです」
目の前の席には、若い男性がスマートフォンを見ながら座っていた。疲れた様子がないように見えたため、思い切って声をかけたそうだ。
「すみません。妊娠しているので、座らせていただいてもいいですか?」
男性は一瞬だけ顔を上げたが、「え? 僕、ちょっと疲れているので」とだけ言い、再びスマートフォンに視線を落とした。
◆優先席の意味を理解してほしい
返す言葉も見つからず、木村さんはその場で唖然としたという。周りの乗客たちも会話を聞いていたが、誰も口を開こうとはしなかった。
木村さんは、「きっと事情があったんだろう」と思うようにしたが、勇気を出して声をかけた結果、断られたという事実が心に残ったようだ。
その日以来、できるだけ混雑を避け時間をずらして乗車するようになったが、優先席の前に立つたびに思い出すという。
「優先席がなぜ設けられているのか……。その意味をもう一度、みんなに理解してほしいです」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。