カムニャック
写真/橋本健 秋華賞が19日、京都競馬場で開催される。今年は、桜花賞馬エンブロイダリーとオークス馬カムニャックによる“二強”の様相を呈しているが、どちらかが二冠を達成するのか、それとも第三の馬が間に割って入るのか……。牝馬三冠最終戦を占ってみたい。
◆1番人気の最有力はオークス馬カムニャックか
2強ムードとはいえ、1番人気に支持されるのはカムニャックの方だろう。キャリア4戦目のフローラSを快勝すると、勢いそのままにオークスを制覇。さらに秋初戦のローズSは4角で不利を受けながら勝ち切って連勝を3に伸ばした。
鞍上を務める川田将雅騎手も「素質の高い馬」「オークス馬ですから、それだけの能力を元から持っている馬」と相棒の実力を絶賛。最も戴冠に近いのはこの馬で間違いないだろう。
強いてカムニャックの不安材料を挙げるとすれば、ローズS組が2015年ミッキークイーンを最後に秋華賞を勝っていないことか。過去10年で【1-3-5-47】と、かつてのような王道ローテにはなっていない。また、カムニャックは唯一、京都で走ったエルフィンSも0秒8差の4着と凡走している。抜けた1番人気に推されるようなら疑ってみるのも手だろう。
◆距離がカギを握るエンブロイダリー
一方で、桜花賞を勝ったエンブロイダリーは9着に沈んだオークス以来の出走。過去10年の前走オークス組は【6-1-3-16】と、秋華賞で好成績を残しているが、同馬には距離の不安が付きまとう。
父アドマイヤマーズはマイル路線で活躍したスピード馬で、産駒の距離適性もやはり短距離寄り。芝では1200mで最も高い勝率を叩き出しており、距離が延びれば延びるほど勝率は下降傾向にある。
手綱を握るC.ルメール騎手は「2000mの内回りはちょうど合うと思います」と自信をのぞかせているが、やはりベストは1600m前後だろう。
◆武豊と初コンビを組むエリカエクスプレスは
春のG1を制したエンブロイダリーとカムニャックが二強を形成するが、その間に割って入る、もしくは2強をまとめて打ち負かす可能性があるのが、武豊騎手と初コンビを組むエリカエクスプレスだ。
エリカエクスプレスはデビュー2戦目でフェアリーSを快勝。3歳牝馬離れしたスピード能力を誇り、桜花賞ではキャリア3戦目にもかかわらず1番人気に支持された。ところがレースではハナを切り、他馬からマークされる厳しい展開に。これが仇となったのか、最後の直線で失速し、5着に敗れた。
さらに続くオークスも逃げて10着。気性面の課題も露呈し、その評価は急落した。
そして迎えた秋初戦は京成杯オータムHから始動。古馬との混合戦にもかかわらず2番人気に推されたが、ここでも11着に惨敗を喫した。
折り合いに大きな不安があるだけに、前走から再び400mの距離延長は明らかにマイナスに作用しそうだが、鞍上はレジェンドの武騎手。スピードに任せて気分良く逃げることができれば、メイショウタバルの宝塚記念(優勝)やジューンブレアのスプリンターズ(2着)の再現があってもおかしくない。
◆岩田望来×ジョスランが一角崩す?
そして、もう1頭、有力候補として名前を挙げておきたいのが、岩田望来騎手との初コンビで臨むジョスランだ。
キャリアはまだ4戦と浅いが、2戦目のフラワーCで4着。秋の始動戦となった紫苑Sでルメール騎手を背に、逃げたケリフレッドアスクの2着に好走し、秋華賞の優先出走権を獲得した。
前走は3か月半の休み明けだったことと、先行馬有利の展開を考えれば、4角5番手から勝ち馬をクビ差まで追い詰めたことは高く評価できる。
また、手綱を取る岩田望騎手は、先週のアイルランドTを含めて今年すでに重賞を5勝。年間の自己ベストに並んでおり、最も勢いに乗る若手ジョッキーの一人として、大駆けにも期待できそうだ。
また、エリカエクスプレスとジョスランには、父エピファネイアという共通点もある。これが2頭にとって追い風になるかもしれない。
◆血統トレンドから見る今年の秋華賞
実はフェブラリーSから始まった2025年のJRA・G1戦線には興味深い傾向がある。
春は大阪杯までキングマンボ系ロードカナロアの産駒がG1を3連勝。4連勝を懸けた桜花賞はサンデーサイレンス(SS)系のアドマイヤマーズを父に持つエンブロイダリーが勝利したが、皐月賞から再びキングマンボ系のリオンディーズ、ルーラーシップ、タワーオブロンドンの産駒が3連勝を飾った。
春G1前半戦のNHKマイルCを終えた時点でキングマンボ系が6勝、SS系が1勝という偏った傾向が出ていた。
ところが翌週からその傾向が様変わり。SS系のダイワメジャーを父に持つアスコリピチェーノがヴィクトリアマイルを制覇すると、ブラックタイド、キタサンブラックとSS系産駒の2頭がオークスとダービーを連勝した。
続く安田記念はミスタープロスペクター系のジャンタルマンタルが勝利したが、宝塚記念は再びSS系のメイショウタバルが優勝。春のG1後半戦はSS系種牡馬が多くの勝ち馬を輩出した。つまり春G1の前半はキングマンボ系、後半はSS系が席巻していたということになる。
そして迎えた秋のG1初戦のスプリンターズSはキングマンボ系でもSS系でもないロベルト系種牡馬のスクリーンヒーローを父に持つウインカーネリアンが勝利。この流れなら、秋華賞はロベルト系の馬に注目したいところ。それに該当するのがエリカエクスプレスとジョスランの2頭というわけだ。
もし、どちらかが秋華賞を制するようなら、次週の菊花賞もロベルト系で唯一登録のあるジョバンニの激走が見られるかもしれない。まずは秋華賞でエリカエクスプレスとジョスランの走りに注目したい。
文/中川大河
【中川大河】
競馬歴30年以上の競馬ライター。競馬ブーム真っただ中の1990年代前半に競馬に出会う。ダビスタの影響で血統好きだが、最近は追い切りとパドックを重視。競馬情報サイト「GJ」にて、過去に400本ほどの記事を執筆。