※写真はイメージです(moonrise - stock.adobe.com)「新幹線」の車内では、さまざまな人が乗り合わせるだけに、お互いに配慮することが重要だ。しかしながら、他人の“マナー違反”が目につくこともあるかもしれない。注意したくもなるが、相手が逆上してしまう可能性もあるため、その判断は難しいところである。
◆公共交通機関では静かに過ごすのがマナー
新幹線の車内では静かに過ごしたい人が大半。ミズノミカさん(仮名)がこう話す。
「リモートワークの普及でオンライン会議が日常化しましたが、タイパ(タイムパフォーマンス)の観点から、新幹線の移動時間を“1分でも無駄にしたくない”といって、座席でオンライン会議をする人を見かけます。
パソコン・タブレット端末を持ち込んで、資料作成やメールの送受信をおこなうことは問題ないですが、オンライン会議は声がうるさいですし、そもそも機密情報が外に漏れていますよ?」
現在、多くの新幹線で「通話・オンライン会議はデッキをご利用ください」というアナウンスが流れているので、明確にマナー違反だろう。
しかし、注意が難しい場面もある。
田中航平さん(仮名)は、新幹線で外国人観光客の家族が大騒ぎしているところに出くわした。
出発してすぐ、子どもは「キャッキャッ!」と大声を上げて通路を走り出した。普通なら親が制止するだろうが、母親の反応は意外なものだった。
「Run, run! Good boy!」
スマホを構えて子どもの姿を撮影しながら、母親は笑顔で声をかける。最初は微笑ましい光景に見えたが、子どもが何度も通路を往復するうちに、周囲の乗客たちの表情は明らかに曇っていった。さすがにうるさすぎる……。
◆外国人観光客を黙らせた“重たい一言”
子どもの行動をたしなめるどころか、むしろ容認している様子が周囲の不満を高めていく。そして案の定、通路を歩いていた車内販売のスタッフが子どもを避けきれず、結果として冷たいコーヒーを持っていた男性の膝にぶつかってしまった。床に少しこぼれてしまった様子。
突然のハプニングに母親も慌てて、「Oh my god! Sorry, sorry!」と謝罪し、ようやく子どもを抱きかかえた。しかしその直後、再びスマホを取り出し「It’s okay, smile!」と撮影を再開した。まるで動画コンテンツのネタを撮るかのような軽いノリだったという。
母親がスマホで撮影を続けるなか、コーヒーをこぼされた男性が低い声で一言、「撮るな」と言った。
車内の空気は一瞬で張り詰めた。母親はハッとした表情を見せ、スマホをしまって席に座った。子どもも静かになり、ようやく車内に落ち着きが戻った。
何事もなかったように新幹線は目的地へと走り続けたが、田中さんはその後しばらく気まずい空気の中で窓の外を眺めていたという……。
<文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo