【ワールドカップ】ハーランドだけではない! 爆発的攻撃力のノルウェー代表を象徴する超新星

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2025年10月20日 07:00  webスポルティーバ

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西部謙司が考察 サッカースターのセオリー 
第71回 アントニオ・ヌサ

 日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。

 ノルウェー代表がW杯欧州予選を快走。攻撃力爆発のチームにあって、ハーランド、セルロートと共に3トップの一角を担うのが、20歳のアントニオ・ヌサだ。

【北欧のネイマール】

 アントニオ・ヌサのノルウェー代表デビューは2023年。現在20歳の左ウイングはマルティン・ウーデゴールとともに攻撃の創造性を担う存在になっている。

 スターベクIFのユースを経てエリテセリエン(ノルウェー1部)のトップチームに昇格したのが16歳。その後2021年にクラブ・ブルッヘ(ベルギー)に移籍。2024年からはドイツのライプツィヒでプレーしている。「北欧のネイマール」とも呼ばれるドリブラーだ。

 右利きの左サイド、滑らかなドリブルはネイマールを連想させるところはあるが、ヌサは身長183センチとネイマールにしては大柄である。ドリブル自体もネイマールのトリッキーさはなく、むしろ三笘薫に近いかもしれない。緩急の利いたシンプルなドリブルが武器。カットインからのシュートに威力があり、右足からの精度の高いクロスボールも持っている。

 ノルウェー代表はCFにマンチェスター・シティのアーリング・ハーランド、右にアトレティコ・マドリードのアレクサンダー・セルロート、左にヌサの3トップが鉄板。MFにはアーセナルのキャプテン、ウーデゴール。シティのオスカー・ボブも控えている。

 W杯欧州予選は6戦全勝で29得点を叩き出している(10月11日時点)。モルドバ代表とのホームゲームのスコアは11−0だった。アウェーは5−0、イスラエルにはホームで5−0、アウェーで4−2。イタリアにはホームで3−0で勝利している。

 得点力が図抜けているノルウェーだが、実はプレースタイルはほとんど変わっていない。律儀なラインコントロールによる完全ゾーンの4−5−1によるコンパクトな守備ブロックが特徴。この守り方だと、1トップの周辺は相手が自由にボールを出し入れできるので、ボールを奪うのには向いていない。そのかわりブロック内は強固で容易に侵入を許さないので失点はしにくい。

 自分たちがボールを保持するのではなく、相手に持たせて奪い、カウンターアタックを狙う。この基本方針は全く変わっていないのだ。予選での大量得点もほとんどはカウンターからとっている。

 戦術はほぼ同じなので、躍進の理由は主にアタッカーの質の変化である。

【移民系選手の台頭】

 人口約550万人のノルウェーには移民が約100万人いる。1990年は19万人にすぎなかった。急激に増加している。

 移民で最も多いのはポーランド、次いで近隣国スウェーデン。さらにパキスタン、イラク、ソマリアとなっていて、アフリカからの移民がマジョリティというわけではない。ただ、代表チームにはアフリカ系移民の台頭が目立つ。2000年代に活躍したヨン・カリューはガンビアにルーツがあり、アレクサンダル・テッティはガーナ出身だった。ただ、彼らはまだ例外的なケースで、現在はそのころとは様相が違ってきている。

 2010年以降は移民2世が中心になった。ヌサ(父親がナイジェリア人)やボブ(ガンビア人)はその流れで代表の重要な戦力になっている。この世代の台頭は育成環境の整備が影響している。

 育成環境が整うと移民系選手が増えたのは、フランスやベルギーと同じ。ただ、フランスの移民人口約920万人、ベルギーの約200万人に比べるとノルウェーの規模は小さい。そもそもの総人口も少ない。そのせいかフランス代表のように移民系が先発メンバーの大半を占めるようにはなっておらず、ノルウェーの場合は部分的な影響にとどまっている。プレースタイルの変化がないのも、おそらくそういう事情だろう。

 ノルウェーは育成の整備の仕方もフランスやベルギーとは異なっている。育成のカギになったのが人工芝なのだ。

 寒冷地ゆえに屋内型人工芝グランドを普及させた。そこにスペイン風のポジショナルプレーに育成年代から取り組むようになり、人工芝で年間を通した技術練習が可能になったことも相まって、ヌサやボブに代表される技巧的な選手を輩出するようになったわけだ。たんに移民が増加しただけでなく、人工芝の普及によって個の能力を生かせる環境が整ったのが大きい。

【欧州の中堅国・ノルウェーの特徴】

 ブラジル代表との親善試合で、日本代表は前後半で極端に戦い方を変化させて流れをつかみ3−2で逆転勝利したが、ノルウェーにはこうしたふり幅はおそらくない。とくにボールを保持して攻撃しなければならなくなった時は、ヌサやボブがいても手数は限られている。堅守速攻の一貫性が強みであり弱みでもあるわけだ。

 これはアジアと欧州という環境のなかでの立場の違いでもある。日本はアジアの強豪国だがノルウェーは欧州の中堅国。ノルウェーもいくつか格下との試合はあり、その際は保持率も上がるが、ことさらハイプレスに傾倒することもなく戦い方はほぼ一貫している。W杯に出てもそれは同じなので、戦い方が安定している反面、変化には乏しい。

 移民系選手の割合がさらに増えて現在のフランスのようになれば別かもしれないが、少しずつ変化していく堅実な歩みはノルウェーらしく、今のところその成果も出ている。

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