まさか、あれほど優秀な新任マネジャーが、たった3カ月でチームを崩壊させるなんて……。
ある大手IT企業での実例だ。営業成績トップクラスの人材がマネジャーになってから、メンバーの退職希望が相次いだという。なぜ、そんなことが起きたのか?
そこで今回は、右脳派・左脳派の特性を無視したマネジメントのリスクについて解説する。部下の個性を生かせず悩んでいるマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。
●右脳派・左脳派とは何か
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あなたは右脳派? それとも左脳派?
そんな風に問いかけられたことはないだろうか? 人間の脳は右半球と左半球に分かれている。それぞれが異なる機能を担っているという話だ。
右脳は直感や創造性、感情をつかさどり、芸術的センスやひらめきが得意といわれ、左脳は論理や言語、分析を担当。計画的で数字に強い傾向があるといわれている。ただしこれは脳機能を簡略化した説明であり、どこまでうのみにしていいか分からない。実際の脳は両半球が連携して働くようだ。
とはいえ人によって、どちらの傾向が強いかは確かに存在する。
会議での発言を例に観察してみよう。右脳派は「なんとなくいい感じ」と感覚的に話すのに対して、左脳派は「データから見ると」と根拠を示して話す。この違いを理解すると、マネジメントはやりやすくなるだろう。
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●崩壊したチームの悲劇的なエピソード
ある大手IT企業で実際に起きた事例がある。
32歳の新任マネジャーは営業成績が常にトップクラスだった。論理的思考が得意で、数字管理は完璧。典型的な左脳派だった。
彼のチームには8人のメンバーがいた。デザイナー2人、エンジニア3人、営業3人という構成だ。新任マネジャーは自分の成功体験をもとに全員に同じ指導をした。
「まず数値目標を明確にしよう」
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「進ちょくは必ず数字で報告してくれ」
「感覚ではなく、評価もすべて定量的に判断する」
エンジニアたちはさほど違和感なく受け止めた。しかしデザイナーの大半は困惑した。
「デザインの良し悪しを数字で表現できません」
「インスピレーションが大切なんです」
その言い分に、新任マネジャーは理解を示さない。「それでは評価できない」と一蹴したのだ。
とりわけ問題になったのは時間管理(タイムマネジメント)である。クリエイティブな仕事にも厳格な時間制限を設けた。
「長時間考えていてもいいアイデアは出てこない。1時間かけて出ないアイデアは、1週間かけても出てこない」
と言い切った。
論理的には正しいかもしれない。しかしこの発言に拒絶反応を示したメンバーは多かった。デザイナーだけではない。営業メンバーも「顧客対応に、あまり時間をかけるな」と言われて反発した。
「顧客との信頼関係は、時間では測れない」
「雑談から生まれる商機もある」
営業チームも分裂した。データ分析が得意なメンバーは歓迎した。しかし顧客との関係構築を重視するメンバーは強い抵抗を示した。
結果は惨憺(さんたん)たるものだった。3カ月で2人が退職。さらに3人が異動希望を出した。チームの生産性は40%低下。顧客からのクレームも増加した。
●チーム崩壊を招いた3つの原因
なぜこのマネジメントは失敗したのか。原因を分析すると3つの問題が浮かび上がった。
画一的な時間管理の強制
新任マネジャーは全員に同じタイムマネジメントを強いた。「企画は2時間以内」「商談は1時間厳守」「1カ月以内でクロージングしろ」といった具合だ。
右脳派にとって、これは創造性の死を意味した。アイデアは時間通りには生まれない。熟成期間も必要なのだ。あるデザイナーは退職時にこう語った。
「時計を見ながらクリエイティブな仕事はできません」
営業でも同様の問題が起きた。顧客との雑談を「無駄な時間」と切り捨てられるのはガマンならなかった。その雑談から大型案件が生まれることも多いからだ。
定量評価への過度な依存
評価基準をすべて数値化しようとしたのも問題があった。それ自体は野心的で悪くない。だが、相性の問題を無視していてはいけない。
「顧客の反応を5段階評価で」
「デザインの独創性を点数化して」
定量化できないものを無理やり数値にする。これが大きなひずみを生んだのだ。メンバーは評価のために仕事をするようになり、本来の目的を見失っていった。それがクレームを増やした理由だった。
メンバーとの相性を無視した指導
人には相性というものがある。これは避けられない事実だ。
左脳派マネジャーと右脳派部下の相性は特に難しい。お互いの思考パターンが違いすぎるのに、相手に合わせることをしなかったのだ。
「なぜ論理的に説明できないんだ」
「感覚を大切にしたいんです」
「感覚では伝わらないんだ」
「伝わりますよ」
この溝は日に日に深まっていった。メンバーの強みを生かすどころか、弱みばかりを指摘する結果になったのだ。
●チームを立て直す3つの対策
では、どうすればよかったのか。成功している企業では以下の3つの対策を実施している。
柔軟な時間管理の導入
仕事の性質に応じて時間管理を変える。
クリエイティブ業務には「コアタイム」と「フリータイム」を設ける。集中して作業する時間と、自由に発想する時間を分けるのだ。営業活動も同様に、効率重視の時間と関係構築の時間を区別する。
ある広告代理店では、この方法で企画の質が30%向上した。時間に追われずに発想できる環境が、創造性を引き出したのだ。やはり「余裕」が、人のクリエイティビティに火をつけるのだ。
定性評価と定量評価のバランス
数値化できるものとできないものを明確に分ける。
売り上げや納期は定量評価する。しかし創造性や顧客との信頼関係は定性評価にする。両方を組み合わせて総合的に判断するのだ。
「数字は重要だ。しかし、数字が全てではない」
定性的な部分は、マネジャーが現場で観察して判断する。ある企業では、評価の比率を「定量6:定性4」にした。結果、メンバーの満足度が大幅に改善された。
相性を考慮した個別対応
メンバー一人ひとりに合わせたマネジメントをする。
右脳派には感覚的な説明を許容する。「なんとなく違和感がある」という意見も尊重する。左脳派にはデータと論理で対話する。相手の思考パターンに合わせるのだ。
1on1ミーティングの方法も変える。右脳派とは散歩しながら話す。左脳派とは資料を見ながら議論する。このように、相手が最も力を発揮できる環境を作るのがいい。
もちろん、すべてのマネジャーが臨機応変に対応できるわけではない。だから、その分、他のメンバーにフォローしてもらうのだ。
「私が言うと、どうしても理屈っぽくなってしまう。私の代わりにAさんと対話してくれませんか」
このように頼めばいい。そういうときに、ベテラン社員をうまく活用するのだ。
●まとめ
人間は機械ではない。一人ひとり異なる思考パターンを持っている。それを無視したマネジメントは必ず失敗する。
右脳派と左脳派、どちらが優れているわけでもない。大切なのは、それぞれの特性を理解し、強みを最大限に生かすことだ。新任マネジャーは自分視点に固執してはいけない。メンバーの多様性を受け入れ、相手に合わせて柔軟にマネジメント手法を変えることが重要だ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いでいる。
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