画像提供:マイナビニュース物価高が続く昨今、生活費の負担が増えて悩んでいる人は少なくありません。さらに、「老後に必要なお金も増えている」と耳にする機会も多いでしょう。かつて話題になった「老後資金2,000万円問題」ですが、実際にはどのくらいの金額を準備すれば安心できるのでしょうか。
老後に準備すべき金額は3,000万円以上?
2019年に話題になった「老後資金2,000万円問題」は、金融庁の金融審議会「市場ワーキンググループ」が公表した報告書が発端となっています。この報告書には、「高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)では、毎月約5万5,000円の赤字が続くため、30年間では約2,000万円の金融資産を取り崩す必要がある」との試算が記載されていました。
この試算が「年金だけでは生活できず、老後に2,000万円足りない」と報道されたことで、全国的な議論に発展したのです。
しかし、近年の物価上昇を考慮すると、老後に必要な金額はさらに膨らむ恐れがあります。たとえば、2024年度の消費者物価指数(2020年=100、生鮮食品を除く)は108.7と、前年より2.7%上昇しています。もしこのペースで20年間インフレが続くと仮定すると、2019年に「2,000万円」とされた老後資金の不足分は、20年後には約3,400万円に達する計算になります。
また、日銀が掲げる長期的なインフレ目標の2.0%で計算しても、20年後には約3,000万円が必要です。
つまり、今のような物価上昇が続く場合、同じ生活水準を保つためには、想定していた約1.5倍以上の資金を準備する必要があるかもしれないのです。
人によって必要な金額は異なる
ただし、ここで注意したいのは、そもそも老後のために備えるべき金額は一律ではなく、各々の収入や支出の状況、ライフスタイル等によって大きく異なるという点です。2,000万円という数字は、あくまで平均値から割り出した不足額に過ぎません。
「老後資金2,000万円問題」の発端となった報告書にもその旨がきちんと記載されているのですが、2,000万円というインパクトのある数字が独り歩きしてしまったのが実情です。
なお、この報告書で使用された「毎月の赤字約5万5,000円」は2017年のものであり、調査年が変われば状況も変わります。
たとえば、2024年の総務省「家計調査(家計収支編)」では、高齢夫婦無職世帯の赤字は月約3万4,000円に縮小しています。このまま赤字が30年間続くとした場合、必要な老後資金は約1,200万円ですので、2,000万円と比べると約800万円もの開きがあります。
さらに、65歳以上の勤労者世帯となると、月約10万円の黒字となっています。このように、試算の前提となる家計によって備えるべき金額は大きく変わるため、公表された数字を鵜呑みにするのではなく、必ずご自身のケースに当てはめて考えることが非常に大切です。
安心して老後を送るためにできること
老後資金は必ずしも不足するものではありませんが、年金だけでゆとりのある生活を送れる人はそう多くはないでしょう。今後ますます少子高齢化が進むことに備え、年金支給額は抑えられることが予想されますし、物価上昇相当分をそのまま年金額に反映することも難しいと言われています。
こうした状況の中でも安心して老後生活を送るためには、まず、自分の場合は老後資金がどのくらい不足するのか試算し、資産運用を始めるなど早めに対策することが重要です。また、できるだけ長く働き続けることも老後の必要額の軽減に役立ちます。
2024年の総務省統計局「労働力調査」によると、65歳以上の就業者数は過去最多の930万人でした。また、65〜69歳の就業率は53.6%で、2人に1人以上が働いていることもわかります。さらに、70〜74歳以上の就業率も35.1%にのぼり、過去最多となっています。
老後に必要な金額は人それぞれですが、2,000万円や3,000万円といった金額は決して現実離れした数字ではありません。インフレも考慮しながら自分に必要な老後資金を試算し、そのうえで、定年後も働く、資産運用でお金を増やす、支出を見直すといった複数の方法を組み合わせて備えることが大切です。
武藤貴子 ファイナンシャル・プランナー(AFP)、ネット起業コンサルタント 会社員時代、お金の知識の必要性を感じ、AFP(日本FP協会認定)資格を取得。二足のわらじでファイナンシャル・プランナーとしてセミナーやマネーコラムの執筆を展開。独立後はネット起業のコンサルティングを行うとともに、執筆や個人マネー相談を中心に活動中 この著者の記事一覧はこちら(武藤貴子)