「二刀流への疑問」を吹き飛ばした大谷翔平の「1試合3本塁打&10奪三振」 同僚も「彼はマイケル・ジョーダン」と感嘆

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2025年10月20日 18:10  webスポルティーバ

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後編:大谷翔平とウィリー・スタージェル

10月17日(日本時間18日)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平は地区優勝決定シリーズ(対ミルウォーキー・ブルワーズ)第4戦で3本塁打、投げては7回途中まで2安打無失点・10奪三振で勝ち投手になるという、MLB史に残るパフォーマンスを見せた。

そのハイライトとなった2本目の本塁打は、左打者としてはウィリー・スタージェル以来52年ぶりのドジャー・スタジアムでの場外弾となったが、大谷はなぜポストシーズン、しかもワールドシリーズ進出をかけた戦いのなかで、このように爆発したのか。

その背景には、大谷がこれまで自身に向けられてきた批判をことごとく覆す根源にあった "怒り"があったように思える。

前編〉〉〉大谷翔平の衝撃的な場外弾で蘇る52年前の記憶

【チームメートとタッチする前に突然方向を変え......】

 それにしても、なぜ地区優勝決定シリーズという大舞台で、大谷翔平の場外弾が飛び出したのか。筆者は、大谷翔平の"怒り"がついに爆発したのだと思っている。思い出すのは、今年8月24日、サンディエゴでのパドレス戦での出来事だ。首位攻防の重要な3連戦にもかかわらず、大谷は2試合連続で無安打。最後の試合も結果が出ていなかった。そのとき、ダグアウトのすぐそばに座っていたパドレスファンの"ヤジ将軍"が、大谷に向かって叫び続けていた。

「次は10打席ノーヒットのやつだから楽勝だぞ!」

 そんな言葉を、試合中ずっと浴びせていたのだ。しかし9回、ドジャースが7対2とリードした場面で、ドラマが待っていた。1死走者なしの第5打席、相手は松井裕樹。大谷は高めの直球を豪快に右翼スタンドへ叩き込んだ。ダイヤモンドを一周した大谷は、ベンチ前でチームメートとタッチする前に、突然方向を変えた。一直線に"ヤジ将軍"のもとへ駆け寄り、鋭く睨みつけながら手を差し出したのだ。驚きのハイタッチに、スタンドは騒然となった。さらに試合後、大谷は再びグラウンドに姿を現し、そのファンともう一度ハイタッチを交わした。相手も呆気にとられ、目を丸くしていた。

 そのヤジ将軍ことビリー・ジーン氏は、翌日こう語っている。

「俺はパドレスファンだから気持ちは変わらないけど、大谷のことを好きになったよ。彼は俺を黙らせた。文句なしにマスターだし、心から尊敬する」。この時も大谷の心に火がついた。怒りが力へと変わったのだ。

【「二刀流だから結果が出ない」という評価に......】

 そして10月17日の火山噴火の前、大谷は最も言われたくない批判を受け続けていた。「二刀流だから結果が出ない」という指摘である。今季公式戦中の登板日における打撃成績は54打数12安打(打率.222)、登板翌日は34打数5安打(.147)。さらに、デーブ・ロバーツ監督までもがこうコメントしていた。

「登板日は、体力を温存しようとして打席に集中できていないように見える。実際、登板した試合での打撃はよくない。今後はもっといいプランを考えたい」

 その発言について、10月15日の会見で大谷に質問が飛んだ。

「サンプル的に少ない。DHだけで臨んでいたシーズン(去年)と単純に比較はできない。もちろん、やらないよりやっているほうが体力的にはきつい。それはシーズン中も同じことなので、それが直接関係しているかどうかはわからない。体感的にはそうではないと思っています」と冷静に答えた。

 問題は、今年のポストシーズンで結果が出ていなかったことだった。その時点での成績は38打数6安打、17三振、打率.158。地区シリーズのフィラデルフィア・フィリーズ戦、そして優勝決定シリーズのミルウォーキー・ブルワーズ戦最初の3試合に限れば、29打数3安打(打率.103)、14三振と苦しんでいた。とはいえ、これはフィリーズとブルワーズが徹底して大谷を封じにかかった結果でもあった。30打席のうち実に20打席で左投手を当てるなど、綿密なマークを敷いていたのだ。

 それでもロバーツ監督は、数日前の会見で厳しい言葉を口にしていた。「(一番打者の大谷が)このままの調子ではワールドシリーズでは勝てない」。その発言についてどう感じたかと問われた大谷は、静かに、しかし含みを持たせて答えた。「逆に言えば、打てば勝てると思っているのかなと思うので、頑張りたいなと思っています」。

 大谷はすべての質問に紳士的に対応していた。だが内心では、はらわたが煮えくり返っていたのではないだろうか。

 長い野球の歴史を見れば、シーズンMVPを複数回受賞しているエリート選手でさえ、ポストシーズンで結果を残せず、「10月に打てない男」とレッテルを張られたケースは少なくない。実際、大谷は相手から敬遠され、ムーキー・ベッツら後続打者がチャンスを生かして勝利した試合も複数あった。貢献しているのだが、それでも世間は、17三振・打率.158という数字だけで彼を批判した。しかし会見での大谷は、あくまで冷静だった。

「思いどおりにいかなかった打席もありましたが、相手投手たちはほとんど失投をしませんでした。ポストシーズンにふさわしい素晴らしいピッチングだと思います」。さらに続けて、「投げるほうは、自分でコントロールできる範囲をしっかり管理すれば結果は出せると思っています。打つほうは、構えやメカニクスを含めて常に調整の途中段階です」と語った。

【堂々とルース超えの1試合3本塁打&10奪三振はMLB史上初】

 もっとも、私たちは知っている。大谷がプロとして歩んできた道のりは、常に「二刀流は無理だ」と言われ続けてきた歴史そのものだということを。しかし彼はその声に反発し、努力で乗り越え、結果として唯一無二の存在となった。そして今年も打っては55本塁打、OPS(出塁率+長打率)1.104、投げては14試合に登板し、47イニングで防御率2.87、62奪三振、9四球。4度目のMVPは当確と言われるなかで、再び「二刀流への疑問」が投げかけられていた。怒りは静かに蓄積し、限界に達していたのだろう。そして10月17日、怒りがついに"大噴火"となって現れた。

 ちなみに、1893年にマウンドの距離が現在の位置(本塁から60フィート6インチ=約18.44メートル)に定められて以来、1試合で10奪三振を記録した投手は1550人、1試合で3本塁打を放った打者は503人いる。だが、この両方を同じ試合で達成した選手は、史上ただひとり。大谷である。しかも、今回はあのベーブ・ルースすら超えた。ルースは大谷の前任者とも言うべき二刀流スターだが、ポストシーズンでは1916年に1試合、1918年に2試合、計3試合で先発登板している。しかし、いずれの試合でも本塁打を放つことはなかった。当時、ルースが登板した際の打順は2試合が9番。そのときの打撃成績は8打数0安打、4三振、1打点。残る1試合では6番を打ち、2打数1安打2打点――唯一のヒットは三塁打だった。

 チームメートのマックス・マンシー三塁手は、試合後にこう語った。

「いつか年を取って、子どもたちに"これまでで一番すごい試合は何だった?"と聞かれたら、この日の映像を見せるつもりだよ。今日の翔平は、史上最高のパフォーマンスを見せた。100年前に何があったかは知らないけど、これは間違いなく、私が見たなかで最高だった」

 ベッツ遊撃手も感嘆の言葉を口にした。

「まるで俺たちはシカゴ・ブルズで、彼(大谷)はマイケル・ジョーダンみたいだった」

 そんな称賛の嵐のなかでも、大谷はいつもどおり紳士的だった。試合後の地区優勝シリーズMVP会見では、冷静に自身を見つめていた。

「ここ数日、いい感覚で打てているなとは思っていますけど、そもそも"投げて打つ試合"のサンプルサイズが小さいので、数字の偏りが出やすいのかなと。それが悪い方向に出ていたのかなという印象です」

 キャリアの中でもトップに入るパフォーマンスか? その問いには、「トータルで見たらそうかなとは思うんですけど、7回にマウンドに行って、ふたりランナーを残したままアウトを取れずに降板しているので。そこを抑えきれれば完璧だったのかなと思います」。

 完璧を求める姿勢。その静かな言葉の裏に、なお燃え続ける炎が見える。

 10月17日、大谷火山はついに大噴火を迎えた。だが、噴煙はまだ収まってはいない。火山ガスは放出を続け、地熱活動は衰えを知らない。この勢いのまま、ワールドシリーズへと向かう。そしてその先に、スタージェルの最長弾「507フィート(約154.5メートル)」を越える瞬間が待っているかもしれない。

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