
仕事で時々会う人があいさつしない人
「仕事で、月に数回会う外部の女性がいるんですが、この人がとにかくあいさつしない。目の前を通っていくから『おはようございます』と言ってもガン無視。ばったり会って目が合ってもするりとかわしていく。最初は私が嫌われているのかと思っていたんですが、たまたま彼女がうちの社の別の人と話しているところに行ったら、ごく普通に話すんですよ。話はするけどあいさつはしないという状態が続いています」
苦笑しながらそう言ったクミさん(40歳)。その女性は同世代で、クミさんの社との打ち合わせにもふらっとやってきて、誰ともあいさつをかわさないまま席につく。だが、いざ会議が始まると、ちゃんと発言するのだという。
「最初会ったときは名刺交換すらしなかったんですよ。でもうちの部長が出てきたときは、ちゃんと名刺交換していた。ああ、そういう人なんだなあと思いながら仕事をしていました。
彼女、仕事はちゃんとしていたからそういう意味では信頼していたけど、それでもその仕事が終わるまで、あいさつはなかったですね」
男性にはあいさつしていた
最後に打ち上げと称して飲み会をしたのだが、そのときも彼女はいつの間にか宴席に加わっていた。あいさつをした記憶はない。最後の最後まであいさつをしなかった彼女に、クミさんは「やはり下に見られていたのだろう」と想像している。
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今ではその女性と会うこともないが、「私の仕事歴18年で、あそこまであいさつしなかった人は彼女だけです」とまたも苦笑いした。
あいさつしなかった人の声は
一方で、あいさつができなかった人の声も聞こえてきた。ヨウコさん(38歳)は、新卒で入社して以来、ずっと「声が小さい」と言われてきた。あいさつしているつもりでも相手には聞こえていなかった。しかも彼女は人見知りで、初対面の人とは世間話ができない。だったらあいさつだけでも大きな声でしろと上司には言われたが、それがなかなかできなかったという。
「仕事で初対面の人に会うときって、だいたいしっかり目を見つめられるんですよね。それで緊張してしまって名刺を取り落としたりすることも多々あって。それが続くと、自己肯定感がどんどん下がって、あいさつするのも怖くなってしまうんです」
彼女は5年かけて、それを克服したという。今では「陽キャ」として後輩に慕われているが、あのころの自分は確かに態度が悪かったと振り返る。
「今、私が住んでいる集合住宅で、あいさつしないママ友がいるんですよ。エレベーター前で一緒になって、私があいさつしてもあちらは知らん顔。エレベーターでは黙ったまま。もしかしたら緊張しているのかなと思います。
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とはいえ、その人も特定の人たちとは話せるようで、時々数人で話しながら笑っているのを見ると、ヨウコさんとしては複雑な気分になる。
「仲がいい人と話せるなら、よく知らない人でも子どもたちは友達なんだから、あいさつくらいはしてもいいのにと思います。もしかしたら、顔見知りになってあいさつできるまで、ものすごく時間がかかるのかもしれないけど」
相手を下に見る人
もちろん、そういう人はいるのかもしれないが、一方で「相手を下に見て、あいさつすらしない人」も存在する。ヨウコさんの職場の友人が、やはり「あいさつしない近所の人」に「あいさつくらいしたらどうですか」と言ったことがあるそうだ。するとその人は「あいさつする価値のある人にはするけど」としれっと言った。
「友人は怒りまくっていましたけど、そういう人もいるんでしょうね。あなたたちとは住む世界が違うと言いたいのかも。でもねえ、人を差別したり下に見たりしていいことなんて何もない。
接点のある人とはできる限り、いい関係を作っておいた方がいいですよね。特に近所は、助けられたり助けたりする事態になることもありうるんだから」
かつて人見知りだったとは思えないくらい明るい笑顔で、ヨウコさんはそう言った。
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亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))