上田綺世は従来の日本人ストライカーとどこが違うのか ブラジル戦逆転弾に続きハットトリック

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2025年10月21日 10:30  webスポルティーバ

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 オランダリーグで、上田綺世(27歳、フェイエノールト)がゴールゲッターとして荒ぶっている。10月19日(現地時間)のヘラクレス戦ではハットトリックを記録。ここまで9試合11得点で、得点王争いでもダントツのトップに立っている。覚醒し、得点量産態勢に入った印象だ。

「ストライカー不在」

 日本サッカーは長らく、その問題に悩まされてきたが、時代を変える選手が出てきたのか――。

 3−2と世紀の勝利を挙げたブラジル戦でも、上田は"空の世界"を制してゴールを決めていた。後半26分、左CKで相手選手の前に素早く入って、豪快なヘディングをねじ込んだ。

「世界でもトップレベルの空中戦」

 久保建英がそう絶賛するほどの迫力だった。このレベルの相手に、高さやパワーで勝ってゴールを決めた日本人ストライカーがいただろうか。

 上田はマークを外し、助走を確保するのがうまい。その戦術的駆け引きだけで、マーカーに勝利しているところもある。

 たとえばヨーロッパリーグ(EL) のアストン・ヴィラ戦も、プレミアリーグの屈強な相手をものともせず、うまくボールの軌道に入り、高いジャンプから頭で合わせていた。相手GKのブロックを押し下げるようなパワーで、ボールはゴールラインを越えた。結局、ゴールは不可解なファウル判定により取り消されたが、「ヘディングのうまさ」を感じさせた。空中で体を翻させながら確実にヒットポイントを捉え、ゴールに飛ばしていたのだ。

 ただ、上田は"マークを外す"のがうまいだけでも、ヘディング技術が優れているだけでもない。もうひとつ、"屈強さ"を兼ね備えている。

 たとえばブラジル戦の得点の直前のシーン。味方のハイボールに相手を背負いながら競り勝って、伊東純也に落としながら、すかさずゴール前に入ってファーに流れ、伊東のクロスを高い打点でヘディングシュートに持ち込んでいる。ボールは相手ディフェンスに当たってゴールにはならなかったが、その攻撃から押し込んで得たCKが決勝点につながった。

 ひとつのプレーが秀でているだけでなく、最後のゴールの仕事までやりきれる。

【過去の日本人ストライカーと比べると】

 特筆すべきは、これがヘディングの話だけではないという点だろう。たとえばプレッシングやポスト役の仕事をしたあとに、強烈なミドルで叩き込む、あるいはクロスに足で合わせる、という余力があるのだ。

「動きのなかでパワーが落ちない」

 レアル・ソシエダでダイレクターなど数々の職務を歴任したミケル・エチャリは4年前、東京五輪代表時代の上田を評し、ストライカーの資質を称賛していた。

「上田は前線で積極的にボールを呼び込める。サイドに流れ、空中戦にも果敢にトライできる。必ずしも勝ってはいないが、その姿勢が前への勢いを与える。細かく見た場合、世界標準ではまだターンに改善の余地はある。しかし、ボールを受け、そこから走り、ゴールを狙う、というパワーは出色だ。

 何より上田はフットボールの本質を理解している。たとえば、彼はディフェンスと並走しながらボールを受けると、しっかりとパワーを使ってキープし、深みを作っていた。ターンして味方を使えば、得点につながることも理解している。クロスに対しても、正しいポジションと動作を選択しており、ディフェンスには嫌な存在になるだろう」

 資質的に、上田は技術も高さもパワーも、大学、Jリーグ時代から抜きん出ていた。しかし、それに甘んじなかった。若い時から欧州の第一線に身を投じ、世界中から集まった猛者を相手にしのぎを削り、素質を鍛えてきた。

 過去の日本人ストライカーでは、高原直泰、岡崎慎司、大迫勇也などが日本代表を支え、欧州でも実績を残してきた。彼らはそれぞれ個性的で異彩を放っていた。しかし、「世界」における彼らは、どちらかといえばゴールゲッターであるよりも、プレッシングやポストワーク、おとりの動きなどがフォーカスされた。岡崎はそのディテールによって、プレミアリーグ王者の称号も得たわけだ。

 上田は、日本人ストライカーの新たな可能性を見せる。今季、もしオランダで得点王に輝き、国内リーグやヨーロッパリーグで優勝の原動力になったら、確実に次のフェーズに入るだろう。ストライカーは世界的に少なくなっているだけに、希少価値も出るはずだ。

 昨今は「偽9番」「0トップ」と言われる、ストライカー以外のポジションの選手が最前線に配置されるのがトレンドになっている。そもそもブラジルも、サイド攻撃を得意とするヴィニシウス・ジュニオールの0トップだった。欧州王者スペインも本来は攻撃的MFのミケル・オヤルサバルがレギュラーを務め、ワールドカップ2大会連続ファイナリストのフランスもキリアン・エムバペが偽9番だ。

 そんななかで、上田のストライカーぶりは際立っている。

 2度のワールドカップを経験したFW大久保嘉人が、「日本人ストライカーで(注目している選手を)ひとりだけ名前を挙げるなら」という問いにこう答えていた。

「ひとりだけ名前を挙げるなら上田綺世かな。ストライカーとしてすべてが整っているでしょ。シュートもヘディングも強いし、体の使い方もうまいし、足も十分に速い。うらやましいくらいに揃っていると思うよ。もし強いリーグに入って活躍できたら、今までにない、日本サッカーの歴史に残るストライカーになるはず」

 ブラジル戦の上田のゴールは、プロローグにすぎない。

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