<寺尾で候>
日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。
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ソフトバンクに敗れた直後、日本ハムを率いた新庄剛志は、相手チームの歓喜に目を向けることなく、だれよりも先にベンチを出た。現場で立ち会えないテレビ観戦だから、その表情までうかがうことはできなかった。
ただ、さっさとグラウンドを後にした敗軍の将の背中は、むしろさばさばしているように映った。甲子園での対阪神の日本一決戦は“里帰りシリーズ”で最高に盛り上がったのでこの上なく残念。試合後の監督は次のように語ったと新聞で読んだ。
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「めちゃくちゃいいファイナルだったし、めちゃくちゃいいシーズンでした。でもやっぱりシーズンを通して頂点をとったソフトバンクさんが日本シリーズに…。1位同士がいくのが日本シリーズですから、僕たちが行くべき…じゃないと…」
チーム3連敗後(アドバンテージ含む)の3連勝の大善戦。まともに受けとると、奇跡を起こすことができなかった監督の強がりに聞こえるが、そうではない。これは新庄もCSという“花相撲”のシステムには違和感を覚えていることを示唆している。
それを裏付けた新庄の一言を聞いたのは、レギュラーシーズンでリーグ優勝を決めたソフトバンクとの最終戦だ。来シーズンの続投が報じられた直後だが、自身の言質が見当たらないのが引っかかったので、思わず福岡に入った。
オーナーが評価したからといって気持ちが動くタマではない。新庄に決断を促すことができるのは、野球界と離れて生活していた自分に手を差し伸べてくれた恩義、人間が変わったほどの米大リーグ生活を支えた存在だろう。
新庄と2人きりになった空間では、本人から口を開いた。「来年も(監督を)やることにしました。まだ話していませんが、シーズン後にちゃんと発表しますから、また…」。そして続けたのが、シーズン2位で日本シリーズ進出をかける、CSファイナルに対する“新庄の考え”だった。
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「これから後はファンのために戦います。ファンのため。ファンを楽しませるためにやりますから」
結果的にCSファイナルで敗退するわけだが、なにも勝ちにいかなかったわけではない。全力で勝ちにこだわった。ただソフトバンクとの最終戦の試合前、新庄は敵将の小久保裕紀に大きな黄色の花束を渡している。
そのセレモニーは、シーズンを勝ち抜いたライバルへの敬意、その時点で新庄のシーズンは終わったというケジメの儀式だった。だから勝つに越したことはなかったが、CSは「ファンのために」という解釈で“別もの”として戦ったのが真相だろう。
新庄のようなスター監督の発信力は影響力が大きい。今後CSについても、なんらかの発言をする可能性がある。そして次は経営サイドが議論を交わし、ファンが納得できる答えを出す番、そのタイミングに迫られている。
監督就任から2年連続で最下位に落ち込んだ際、周囲から手のひらを返すかのように批判を浴びた。その逆境から、FAなどの大型補強に頼らず、若手を育てながら優勝争いをするチームに仕立てたのは手腕の高さを感じた。
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「来年はまだまだ強くなるんで、ダントツに優勝して、日本シリーズに行く準備をします」
厳しいようだが、何かが足りなかったのだろう。ビッグボスの言葉を信じるなら、来シーズンこそファンのために、真の日本一に立つ瞬間を心待ちにしたいものだ。(敬称略)
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