
バレーボール女子日本代表の秋本美空(19)が、今季レンタル移籍したドイツ1部リーグのドレスナーSCで充実の日々を送っている。ネーションズリーグや世界バレーでの代表経験から「もっと海外に通用するような選手に」と決断。海外初挑戦の19歳に密着した。
春高バレーからネーションズリーグ 激動の1年「グーテンモルゲン(おはようございます)」
慣れないドイツ語で挨拶をしてくれた秋本。今年1月、秋本は共栄学園(東京)のキャプテンとして春高バレーで日本一に輝き、MVPを獲得。高校卒業後の6月には日本代表としてネーションズリーグにチーム最年少で出場、代表初得点をあげるなど堂々の世界デビューを果たした。そして8月、秋本は大きな決断を下した。
「今回代表の試合などを通して、もっともっと海外で通用する選手になりたいと思ったので海外に挑戦することを決めました」
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自身初の海外挑戦となる新天地はドイツ1部リーグ、ドレスナーSC。ドイツ東部、ドレスデンを拠点に置き、リーグ優勝6回、ドイツカップ優勝7回を誇る強豪だ。9月15日(日本時間)にドイツへ渡ると、既に現地での注目度は高かった。空港にはワイブル監督などチーム関係者が出迎え、街を歩けば「バレーボール選手ですよね?一緒に写真を撮ってもいいですか?」と声をかけられた。さらに、チームのファンも「ネーションズリーグから彼女を追っていた。だからここに来ると知った時は本当にすごいと思った」や「リーグに変化が訪れた。新しい風だ」と若き日本選手に大きな期待を寄せていた。
言葉の壁も“今どき”勉強法で解決 キャプテンはある“行動”を大絶賛その一方で、海外ならではの壁が立ちはだかる。言葉の壁だ。英語もドイツ語もほとんど分からず、練習中のミーティングでは会話に入ることが出来ない。ジムのウェイトトレーニングの時にはペアを作ることが出来ず、ポツンと一人立ち尽くしていた。しかし、秋本は「みんな優しいし、分かりやすい簡単な英語で話しかけてくれるので、言語については結構大丈夫です」とポジティブ。言葉の勉強法を聞くと、「生成AIで分からないことを調べたり、TIKTOKでたまに出てくるフレーズみたいなのがある。そういうのにハートを押したらもっと流れてくるようになる。よくハートを押しています」。生成AIやSNSを駆使した“今どき”の勉強法を教えてくれた。
チームのキャプテン・ネストラーは練習中の秋本の“ある行動”に感心していた。
「彼女(秋本)は私たちが話していることの多くは理解できないけど、とても注意深い性格だと分かりました。練習で監督が指示を出す時、私たちは(音楽の)スピーカーの電源を切ります。そのことを教えたことはないけれど、彼女はよく観察していて、自分でスピーカーを切るようになりました。その観察力がとても素晴らしい」
言葉が理解できなくても、周りを観察し、実践することで既にチームに溶け込んでいた。
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秋本の一番の理解者、母、秋本愛(旧性:大友)さん。2012年ロンドンオリンピック™で銅メダルを獲得したトップアスリートだ。愛娘の挑戦をサポートするため、1か月間限定でドイツに駆けつけた。
この日は親子で料理教室。メニューは“そぼろご飯”と“煮込みうどん”だ。
秋本「これどれくらい?」
母「その半分くらいにしたい」
慣れない包丁を手に白菜を切る。
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そぼろを炒め、みりんを入れていると「はいっ!(ストップ)」と母の声がキッチンに響き渡る。母の味を伝授すると、食事中にはバレー選手としての心得も伝授した。
母「キャプテンとかエースになったら、背負うものが変わってくるじゃん。そしたらプレッシャーもあるよね、絶対。今はまだ自分がたくさん挑戦してなんぼみたいな感じじゃん。全部初めてだし、何かあったらみんな助けてくれるし。でも美空が助ける立場になったらもうちょっと変わってくるんだろうね」
記者「娘が泣いている姿は見たことない?」
母「バレーで泣いていることは一度もない。というかあまり泣かない、普段から」
記者「強いんですね」
秋本「何も思っていないからだと思う」
母「何も考えないでバレーやるのやめてくれる?でも、そこまでに行かないんだろうね。そこから先がこれからあるんだろうね。もっと頑張らなきゃいけない時がきっと」
上々のデビュー戦 プレーヤーオブザマッチにも選出ドイツに渡って約3週間後の10月5日(日本時間)、初めての公式戦はタイトルをかけたカップ戦。相手は昨年のリーグ覇者、シュヴェリーン。母も会場で見守る中、スタメン出場を果たした。
第1セット、相手ブロックを弾き飛ばし初得点をマークすると、その後も得点を重ね、19得点の大活躍。最後の1点も秋本が決め、セットカウント3対1で勝利。移籍早々タイトルを獲得し、プレーヤーオブザマッチにも選出された。ファンも「ミクー、ミクー」と大興奮。上々のデビュー戦となった。
「今日は良い結果で終わったんですけど、これからも成長していけるように、チーム全員がレベルアップ出来るように頑張ります」
デビュー戦から3日後、この日は母が日本に帰る日。秋本は自宅の前でハイタッチをすると、別れを惜しむことなく、自転車で練習に向かった。
秋本「普通に時間がヤバい。普通に遅刻」
母「たくましいですね。本当に、我が子は。自分がどれだけチームにとって重要か、今回の試合で自覚も出たみたいなので、あとはそこに本人がどれくらい気持ちを乗せて頑張れるかだと思います」
秋本「必要とされる選手になること。サーブ、守備を磨いて、世界で通用する選手になりたい。日本代表として活躍したいことが一番」
19日にはリーグ戦の初戦にスタメン出場し、勝利に貢献。「世界で通用する選手になる」思い描いた未来への戦いが始まった。
■秋本美空(あきもと・みく)
2006年8月18日生まれ、19歳 185cm
母は2012年ロンドン五輪銅メダリスト・秋本愛(旧姓:大友)さん。今年1月に行われた春高バレーで、キャプテンとして共栄学園高校を19年ぶりに優勝に導き、MVPを獲得。高校卒業後は、SVリーグ、ヴィクトリーナ姫路に加入。今年のネーションズリーグ、世界バレー代表に選出されベスト4入りに貢献。今年からドイツ・ブンデスリーガ1部の強豪、ドレスナーSCにレンタル移籍した。