
自民党総裁選前の報道では、「高市氏が総理になれば台湾有事は現実になる」と危惧する記事が散見された。そしていま、高市総理大臣が誕生した。危惧しているだけでは間に合わない。
元米陸軍情報将校であり、アフガンで実戦を経験した飯柴智亮氏は、以前から「日本列島が米中戦争の最前線という意識を持つべき」と警告してきた。
しかし、高市首相爆誕で、意識するより早く戦争は現実にやって来る。そして、その最前線は先島諸島、沖縄本島、南西諸島だ。かつて陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長を務めた二見龍氏(元陸将補)に、陸自を中心とした緊急防衛作戦を立案、シミュレーションしてもらった。
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まず、最前線の与那国空港。飯柴氏は過去の記事で、地対空ミサイルを林立させるべきだと主張していたが、どうするべきなのか。
「いや、私なら地対空ミサイルをいくつも並べることはしません。与那国は台湾から111kmと近すぎます」(二見氏)
では、どうするのだろうか?
「陸自はまず、与那国島から約1700人ほどの全住民を全力で避難させます。民間航空機やフェリーはもちろん、漁船などあらゆる手段で、島外に脱出させるのです。
そして、無人島と化した与那国島、それから尖閣諸島には、火力で中国軍の上陸拒否戦闘を展開します」(二見氏)
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その上陸拒否する火力はどこに展開するのか。
「石垣島です。この島は与那国島から東の後方127km、尖閣諸島魚釣島まで170km。地形が複雑なため、自然の障害を利用して地対空、地対艦、地対地装備を配置することが可能です」(二見氏)
石垣島の山間部に、各種ミサイル発射秘匿陣地を設営。火力投射基地として、そこから無人島(与那国島)への中国軍の上陸を阻止する。
先日、陸自と米海兵隊による大規模訓練「レゾリュート・ドラゴン25(RD25)」が行なわれた。米海兵隊沿岸連隊は石垣島に、射程200kmの地対艦ミサイルを装備した無人車両「ネメシス」と、対ドローン火器と電子砲を持つ短距離防空システム「マティス」を展開。実戦を想定しているため、48時間ごとに位置を変えて運用していた。
「この米海兵隊沿岸連隊には、陸自水陸機動団が警備部隊として随伴します」(二見氏)
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火力基地とする石垣島に陸自が展開する火力は、射程1000kmの「12式地対艦誘導弾能力向上型」と「03式中距離対空ミサイル」、そして早期装備型で射程500〜1000kmと言われている敵基地攻撃用の新兵器「島嶼防衛用高速滑空弾」だ。
この高速滑空弾は今年度、静岡県・富士駐屯地に配備されるが、ここから石垣島に一部を派遣。これを基幹火力として、火力投射基地を整備、準備する。
そして、それまでのつなぎとして、12式地対艦誘導弾能力向上型を持った九州・健軍駐屯地第五地対艦艦ミサイル連隊から、何個中隊かを石垣島に派遣する。足りないミサイルは、射程200kmの旧式12式地対艦ミサイルを持つ北海道に駐屯する連隊を石垣島に移駐させて、米海兵隊のネメシスを補完する。
仕上げは米陸軍の保有するミサイルシステム「ハイマース」の配備だ。発射するのがロケット弾ならば射程90〜150km、ミサイルならば300〜500kmと射程が選べる汎用性を持つ。
「ハイマースは上陸する敵を打撃するため、射程に応じて石垣、宮古、沖縄に配置して、地上火力を強化するのに魅力的な装備です。弾薬は事前集積しつつ、海上からの補給を万全とします。多種多様な火力を配備することで、抑止、対処がより有効になります」(二見氏)
さらなるダメ押しとして、RD25演習では米海軍強襲揚陸艦から、米陸軍のAH64Eアパッチヘリコプターを運用した。これは島に接近する敵艦をヘルファイヤミサイルや30mm機関砲にて艦橋を攻撃。もしくは、潜入上陸した敵兵掃討のために使用する。
そして、陸自は攻撃ヘリを全廃したが、まだアパッチが12機、残っている。これを石垣島アパッチ部隊として使用するのはどうだろうか?
「石垣島への中国軍の空爆は、かなり厳しい状態で行なわれます。そのため、そこで運用する場合、敵の空爆、地対空ミサイル、ドローンからの脅威を取り除き、アパッチが活動できる環境を確保して、残存させるのは難しいです。もし使うのであれば、米軍の運用に合わせることになるでしょう」(二見氏)
アパッチは、島ではなく海自艦艇に搭載しての運用が望ましい。次は、石垣島から130km離れた宮古島。宮古列島のひとつ、下地島には3000mの滑走路を持つ空港がある。
「宮古島は平坦な地形です。しかし、地形が錯雑しているところが点在し見通しが悪く、それを味方にできる。例えば、丘陵地帯、市街地を守るように障害化して、防御陣地とすることが可能です。
全体的に平坦地が多いため、対空任務のために地下火力陣地と地下壕を作らないといけません。その地下に地対艦ミサイル、島嶼防衛用高速滑空弾の秘匿倉庫を作り、あちらこちらの防御陣地から発射するミサイル発射場にします」(二見氏)
一体、どんな戦いが予想されるのだろうか。
「与那国島を警戒監視する空自の無人偵察機、開発されたばかりの無人ドローン艇『マリーンドローン』などが、攻撃を受けた段階で石垣島、宮古島より支援火力を発揮します。米軍と共同して行動することが重要となります。
そして、両島の制海権、航空優勢を確保することも必要となります。戦力強化と残存性のために、地対空部隊の強化が重要です」(二見氏)
宮古島の住人55474人と下地島の住人1000人はどうすればいいのだろうか。
「事前避難と漁船による避難です。残る場合は地下壕での生活となります。その地下壕の建設には1〜2年、地下要塞には1年程度必要です。電源、下水、上水、治療施設、予備陣地を完備しなければなりません。ただし、拙速に作るとクオリティーが下がります」(二見氏)
その工事期間、陸自は急速設営陣地で対応しなければならない。
「即応する部隊が展開しながら、施設科部隊(米軍の工兵)が地下陣地を設営します。クオリティを上げることが残存性を高めます。
宮古島、石垣島への補給、戦死傷者の輸送は、空、海上、海中のドローンの援護下でやります。主力は高速ジェット船となります」(二見氏)
3000m滑走路のある下地島はその後、必要になってくると二見氏は指摘する。
「この島は縦深がないので、滑走路を使うのは制空制海権を確保してからです。反撃するための航空戦力を発揮する時に使います。そのためには、有事前の平時での展開訓練を実施する必要があります」(二見氏)
すると陸自の布陣は、まず無人島化した与那国島から後ろに退き、石垣島、宮古島を火力投射基地として迎撃。中国軍を寄せ付けない戦法だ。ならば沖縄本島は、どうなるのか?
「ここは、台湾から約700km離れていますから、地対空ミサイル『パトリオット』をズラリと並べます。飯柴氏が言われるように、完璧にポーランドのジェシフ空港と同じ状態にするわけです」(二見氏)
那覇空港にはパトリオットを林立させ、自衛隊と米軍の輸送機を離着陸させる。自衛隊と米軍を混在させて使うのだ。
那覇港では補給物資を積んだ海自輸送艦と、米海軍輸送艦が出入港を繰り返す。そして、沖縄本島から257km離れた鹿児島県・徳之島の長さ2000mの飛行場は、文字通り補給の中継点として機能させるという。
「この飛行場は、補給、整備のための中継基地として使用します。那覇基地には、F15二個飛行隊40機がいます。この飛行隊を本州地域へ退避させない運用をすることが重要です。
そのために必要なのは、九州の航空機が一ヵ所に集まらないようにすることです。九州には新田原、築城、芦屋、春日、それから海上自衛隊の飛行場がありますから。これらの飛行場を効果的に運用することになります」(二見氏)
このように、中国が台湾侵攻に伴って、与那国島や石垣島などの先島諸島を攻撃すれば、痛い目に遭う。さらに、自衛隊と帯同する米軍に攻撃を仕掛ければ、米中の大戦争になる。
「飯柴氏も警告していますが、自衛隊はこの迎撃の布陣=『現実的な兵器配置運用』をすぐにやらないとなりません。
まず、急ぐべきは南西諸島、沖縄、先島諸島に、住民用の防空壕(避難シェルター)の建設を急いで進めるべきです」(二見氏)
陸自は今まで、本土決戦の最後の防衛を担って来た。しかし、先島諸島では最前線の戦闘部隊として戦端を開始する「一番槍」、今ならば「一番ミサイル」を担当するのである。
「その通り。この作戦案では、陸海空自衛隊の統合作戦を行なうため、統合作戦指揮官が指揮をします。作戦はすべてバランスを保ち、連携しなければならない。さらに米軍との共同場面が多数出てきます。
今回の作戦案は陸自中心に発案しましたが、有事となればこれから空自、海自との調整が必要となり、統合司令官の裁可を得なければなりません」(二見氏)
二見氏は自衛隊装備の中で最も遅れている点を指摘する。
「ドローンは運用実証を加速している段階です。対ドローン装備も併せて整備を進めていかなければ、大量のドローンからの損害を受けることになります。
安価で大量に指向されるドローンに対処するためには、電子戦妨害装置、安価で大量に確保手能な迎撃用ミサイル、対ドローン用ドローンなどが必須。ドローン兵器と対ドローン兵器は日進月歩のため、研究開発と性能を向上させた改良型ドローンの配備、生産体制の構築が急がれます」(二見氏)
万単位の数のドローンで攻撃してくる中国軍に対して、これは喫緊の課題だ。そして、二見氏は最も大切な点を強調する。
「日米同盟を強く発揮するには、日本の戦う意思がより高くならなければなりません。より本気にならなければ、米軍との接着が強くならないと考えます」(二見氏)
取材・文/小峯隆生