
シーズンを圧倒的な強さで制し、クライマックスシリーズ(CS)でもDeNAに3連勝で日本シリーズ進出を決めた阪神。一方、パ・リーグ連覇を果たしたソフトバンクは、CSファイナルステージで日本ハムに追い詰められるも、最終戦で勝利し2年続けて日本シリーズ進出を果たした。
さて、10月25日から始まる日本シリーズ。共に日本シリーズ経験者が多く、短期決戦の怖さも知っているであろう。そのなかで見どころになるのはどこなのか。選手として、コーチとして日本シリーズを経験している解説者の伊勢孝夫氏にポイントを語ってもらった。
【阪神打線に立ちはだかるモイネロ】
パ・リーグのCSファイナルステージを見ながら、正直「日本ハムが押しきるかな」と思っていた。投打共に勢いがあり、チームに活力がみなぎっていたからだ。
そんな日本ハムをねじ伏せたのが、ソフトバンクの左腕、リバン・モイネロだ。150キロ半ばの真っすぐを主体に、変化球も多彩。なかでも、セ・リーグの投手にはあまり見られない独特の軌道で曲がり落ちるカーブは、打者にとってじつに厄介な球種である。
さらに、鋭く落ちるフォークや緩急を生かしたチェンジアップもすばらしい。加えて、阪神は近本光司、佐藤輝明を筆頭に左の好打者が多く、その点も含めて「対モイネロ」はこのシリーズの重要なポイントになると読んでいる。
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ただ阪神にとって大きいのは、モイネロがCSファイナルの最終戦に登板したことで、シリーズ第1戦、第2戦で投げる可能性が少なくなったことだろう。当然、ソフトバンクとしてはモイネロに2試合投げてほしいところだ。そのあたりも含め、どのようなローテーションを組んでくるのか、そこも注目したい。
いずれにしても、阪神が2年ぶりの日本一を達成するには、モイネロ攻略は避けて通れない。では、モイネロ攻略の第一歩はなにか?
それは言うまでもなく、ボールの軌道、感覚をつかむことだ。近年は科学の進歩で、球速や回転数だけでなく、落下角度や曲がり幅など、緻密なデータを取ることができる。だがバッターの立場からすれば、そうした数値はあくまで参考にすぎず、実際にバットに当てるうえでは役に立たない。結局のところ、実際に打席でボールを見て、対策するしかない。
幸い、阪神は今季交流戦でモイネロと対戦しているため、打者たちに多少のイメージはあるかもしれない。当然、映像も収集し、確認しているはずだ。とはいえ、今季のモイネロは12勝3敗、防御率1.46(リーグ1位)の成績を残しており、軌道がわかっているとはいえ容易に攻略できる投手ではない。
【ワンチャンスをモノにできるか】
そんなモイネロへの具体的な対策だが、基本的には真っすぐとカーブが軸になるピッチャーだから、真っすぐを待ってカーブが来たら対応するというのがセオリーである。しかし、モイネロほどのキレがある真っすぐとなると、待っていても対応しきれないだろう。
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さらに大事なことは、早いカウントからしっかり振っていけるかどうかだ。打者心理とすれば、見慣れない球筋だからじっくり見ていきたい。しかし追い込まれてしまえば、今度はカーブに加えて、フォーク、チェンジアップまで頭に入れなければならない。もはや"難攻不落"の左腕と言っていいだろう。
またモイネロから得点を奪うには、どこを勝負どころと見るかが重要なポイントになる。もちろん、序盤に得点できれば理想的だが、そう簡単にはいかない。おのずと勝負は中盤から終盤になるだろう。
どんなに優れたピッチャーでも、生身の人間である。モイネロも例外ではない。先発であれば、一度か二度は必ずピンチを招く場面があるはずだ。阪神打線とすれば、そのワンチャンスをモノにできるかがカギになる。
打者にすれば3巡目くらいになれば、おおよその球筋やタイミングの取り方などはつかめてくる。イニングだと、6回あたりだろうか。そこで一気に潰しにかかれるかどうか。ソフトバンクバッテリーもそれに備えて配球を変えてきたり、工夫してくるはずだ。この駆け引きからも目が離せない。
【サトテルは苦戦必至か...】
そして今回の日本シリーズで、誰もが気になるのが「セ・リーグで本塁打、打点の二冠王に輝いた佐藤輝明がモイネロを攻略できるか」という点だろう。
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正直なところ、私は少し厳しいのではないかと思っている。CSでは足の痛みも報じられているが、それ以上に問題なのは、モイネロにインコースを意識させられたうえ、膝元へのチェンジアップや、外角にボール気味で流れ落ちるカーブを決め球にされる、いわば"左打者攻略の基本パターン"にはまってしまう可能性が高いことだ。
ただし、逆に打てるとすれば、そのカーブが甘く入ってきた時だろう。たとえば、ストレートでストライクを取られたあとの2球目など、早いカウントでの一球が狙い目になる。おそらく1ボール、2ボールといった打者有利のカウントでは、フォークやチェンジアップといった勝負球はまず投げてこない。よほどのピンチでない限り、使う場面ではないからだ。佐藤が狙うなら、やはりそのカーブ一択だ。
打線でカギを握りそうなのは、3番・森下だ。右打者という点もあるが、どんな球種にも対応できる感性、そして物おじしない性格は、むしろ頼もしさを感じさせる(笑)。
初戦、森下の初回の打席。走者の有無に関係なく、ゾーン内に来たボールであれば、彼のことだ、迷わずスイングしていくだろう。狙い球はおそらくストレート。だが、森下なら初対戦でもしっかり反応できるはずだ。
あとは相手にとってデータの乏しいバッター。たとえば、高寺望夢あたりがいい仕事をするかもしれない。
私の見る限り、ソフトバンクの先発で厄介なピッチャーはモイネロだけだ。有原航平や上沢直之といった2ケタ勝利を挙げた粒ぞろいの先発陣ではあるものの、阪神の打者たちにとっては決して苦手とするタイプではない。
阪神にとって、最大のポイントはやはりモイネロ対策だ。言い換えれば、そこが今シリーズ最大の見どころとも言えるだろう。

