中小企業デットファイナンスの新潮流 第44回 融資の地域差

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2025年10月24日 11:11  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
前回は融資のビフォーコロナとアフターコロナについて、中小企業庁の統計情報をもとに分析しました。同じデータセットを参照して、今回は融資の地域差について情報を整理します。引き続き「保証実績の公表(信用保証協会別の金融機関別、信用保証協会別、金融機関別)」を参照します。



令和6年度(2024年度)の公表データから、各地の信用保証協会が保証承諾した金融機関の数を集計しました。大都市圏では融資の相談先となり得る金融機関が豊富に存在しますが、金融機関の統廃合が進んで選択肢が少ない地域もあり、地域差が明瞭に見て取れます。

なお、信用保証協会は各都道府県に加えて横浜市・川崎市・名古屋市・岐阜市が設立しており、総数は51です。上記4市に本店登記している企業は県単位の保証協会と市単位の保証協会の双方にアプローチできます。片方としか取引できないという制約はないのでご安心ください。複数の信用保証協会を同時に利用する場合、協会間で情報共有したり、各協会の保証残高を通算して融資の審査をするため、保証限度額(保証枠と呼ぶことが多いです)が倍増することはないです。


地域毎の選択肢数の偏りを見るために、横軸に信用保証協会が保証承諾をした金融機関数、縦軸に信用保証協会数を設定して、ヒストグラムを作成いたしました。東京をはじめとする競争的な地域市場と、寡占化が進行した地域市場に二極化した構図が読み取れます。


競争環境が顕著に現れる融資の契約条件は金利だと言われます。筆者も「名古屋金利」という用語を耳にしたことがあり、相見積もりを取る先が多い地域は周囲よりも融資金利が下がるようです。公開情報をもとに確認します。恣意的ですが、青森県信用保証協会・東京信用保証協会・沖縄県信用保証協会から保証承諾を受けている各金融機関のWebサイトを参照して、公表されている短期プライムレートを列挙しました。青森をピックアップしたのは筆者の母方の実家が津軽であるという極めて個人的な事情に拠るもの、沖縄を選択した理由は最も取引金融機関数が少ない信用保証協会だからです。東京の金融機関は保証承諾件数が多い金融機関TOP10とメガバンク、東京が本拠の地方銀行を選びました。


地域金融機関の短期プライムレートが2%台の青森県・沖縄県に対し、東京都は1%台の金融機関が一定数存在する状況です。短期プライムレートの水準に影響を与える要素として、預金金利・組織形態(株式会社か協同組織か)・取り扱っている融資のロットサイズ等が考えられますが、金融機関の競争環境(寡占度)も影響していると仮説を立てることができそうです。



余談ですが、芝信用金庫のように短期プライムレートが複数発表されている金融機関も存在します。令和7年(2025年)3月3日発表資料『基準金利の改定について』には、貸出金基準金利として「新しばしん短期プライムレート」「芝信短期プライムレート」「金庫長銀長期プライムレート」「旧芝信短期プライムレート」「金庫新長期プライムレート」の5種類が記載されています。各々がどのように適用されるかについては、営業担当者に質問する外ないと思います。



最後に、融資金利の実勢レートを確認してみましょう。2025年7月30日に日本銀行金融機構局が発表した統計『貸出約定平均金利の推移(2025年6月)』によると、新規の短期融資の金利は国内銀行が0.916%(内訳は都市銀行0.800%・地方銀行1.283%・第二地方銀行1.652%)、信用金庫が2.032%です。先述した短期プライムレートとの乖離は、金額の大きい契約が平均に与える影響や金融機関間の金利競争、TIBORを基準に金利を設定するケースの存在に拠るものと想像されます。寡占の影響を調査するために地域毎のデータが欲しいところですが、残念ながら市井の観察者の立場ではチェックすることができません。プライムレートは最優遇貸出金利とも呼ばれますが、「最優遇」ではなくなっているのが実情です。



参考までに同時期の新規の長期融資の金利を紹介すると、国内銀行が1.359%(内訳は都市銀行1.508%・地方銀行1.230%・第二地方銀行1.334%)、信用金庫が1.919%です。ニッキンで報道されている通り(2025年8月6日の記事『都銀、貸出金利引き上げ先行 地銀上回る月も』を参照)、交渉力の弱い金融機関では金利上昇の融資契約への反映が遅れている実態が表れています。



地域差に関する解説は以上です。次回は融資の期間について考えます。


→前回連載「東大発ベンチャー現役CFOが教えるデットファイナンス入門」はこちら


千保理 せんぼただし ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学経済学部経済学科を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業にCFOとして参画し、2022年に独立。未上場企業の融資による資金調達を得意としており、会計ソフトウェア会社やベンチャーキャピタルが主催する起業家向けの財務経理セミナーの講師を務めている。著書(共著)に千保理・滝琢磨・辻岡将基『〜事業拡大・設備投資・運転資金の着実な調達〜ベンチャー企業が融資を受けるための法務と実務』(第一法規、2019)がある。 この著者の記事一覧はこちら(千保理)

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