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地球の気候は、すでに無視できない境界を越えた──そう警告する研究が発表されました。温暖化の進行によって温帯のサンゴ礁が広範囲で死滅し、科学者たちは「地球システムの最初の臨界点」に達したと注意を促しています。
2025年10月13日、イギリスのエクセター大学を中心とした国際研究チームが発表した「地球の臨界点報告書2025」は、地球がついに最初の気候転換点を越えたと明らかにしました。
かつて色鮮やかに広がっていたサンゴ礁は今、急速に白化(サンゴが水温上昇などにより共生する褐虫藻を失うこと)し、海洋生態系が姿を消しつつあります。これは地球の気候バランスそのものが変化し始めたことを示すものです。
いま、海面下では静かでありながら深刻な崩壊が進行しています。海の底で起きているこの崩壊は、私たちの社会や経済、そして未来そのものに深く関わる現実です。
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報告書では、サンゴ礁の消失が他の臨界点──極地の氷床融解、アマゾン熱帯雨林の枯死、海洋循環の崩壊──へと連鎖する可能性があると警告しています。
科学者たちは「これは、はじまりにすぎない。即時の地球規模の行動が取られなければ、被害は広範で永続的なものとなる」と強い危機感を示しました。
観測データによると、海水温の上昇速度はこれまでにない水準に達し、サンゴ礁をはじめ海洋全体の生態系に甚大な負荷を与えています。とりわけ、地球の平均気温が1.5度を超える期間が長引けば、こうした連鎖的転換のリスクは一気に高まると見られています。
現在、地球の平均気温は産業革命前より約1.2度上昇しており、このわずかな変化が海洋環境に壊滅的な影響を及ぼしています。海洋熱波の頻発によって、世界各地でサンゴ礁が次々と白化。グレートバリアリーフでは過去10年で6度の白化が確認され、フロリダやカリブ海、インド太平洋のサンゴ礁でも同様の現象が拡大しています。
かつて豊かな生態系を支えていた海が、いま静かに命を失いつつあるのです。
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地球規模サンゴ礁モニタリングネットワーク(gcrmn)によれば、サンゴ礁は地球表面のわずか0.2%しか占めませんが、全海洋生物の約4分の1を支える生命の基盤となっています。
およそ10万種を超える海洋生物がサンゴ礁に依存しており、漁業・観光・沿岸保護を通じて年間約300兆円の経済価値を生み出しているともいわれます。さらに、世界で5億人以上の人々がサンゴ礁を直接・間接に生計の支えとしているとの報道もあります。
この自然のインフラが失われれば、漁業資源の減少、観光産業の衰退、沿岸の浸食被害など、社会経済全体に波及する影響は避けられません。
報告書は「サンゴ礁の崩壊は、生態系だけでなく人類社会の安全保障の問題でもある」と結論づけています。
エクセター大学の研究チームは、過去2年間のほとんどで世界の気温が約1.5度に達した結果、世界のサンゴ礁の約80%が前例のない白化に見舞われたと報告しています。
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白化現象の間隔は年々短縮し、サンゴが回復する前に再び熱波が襲うという悪循環が続いています。原因は人為的な温室効果ガスの排出によって、海洋が過剰な熱を吸収し続けているためと考えられています。温暖化がこのまま進めば、サンゴ礁の再生はほぼ不可能になると専門家は指摘します。
一方で、報告書は、再生可能エネルギーの普及や持続可能な社会構造への移行によって生まれるポジティブな転換点についても言及。こうした変化が加速すれば、気候危機の連鎖を断ち切り、地球のシステムを回復へと導ける可能性があるとしています。
科学者たちは「今後10年が勝負」と訴えます。排出量の削減を迅速に進め、自然と調和した社会を築けるかどうか──その選択が私たちの未来を決定づけるのかもしれません。
Science Daily 「Earth’s climate just crossed a line we can’t ignore」
Daily Galaxy 「Earth Just Crossed a Climate Line It Can’t Uncross, Coral Reefs Are the First to Fall」
NASA「Global Temperature - Earth Indicator」
Science alert 「Mass Coral Die-Offs Confirm First Breach of a Major Climate Tipping Point」
GCRMN 「Status of Coral Reefs of the World: 2025」
Great Barrier Reaf Foundation 「Coral Bleaching」
Coral Vita 「The Economic Impact of Coral Reef Loss: A Comprehensive Analysis」
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